『仁義なき戦い』の最もヤバイヤクザを福永邦昭さんと杉作J太郎さんが勝手にランキング!
杉作 福永さんは『仁義なき戦い』の公開当時、宣伝を担当されたんですね。映画の内容はもちろんですが、ポスターや広告にも驚きましたね。主役が大きく写った任侠映画とはちがって、残酷な殺人シーンをメインにデザインされていたから。
福永 そりゃ、「仁義なき」ヤクザ世界を描くわけだから。主演の文ちゃん(菅原文太/広能昌三役)もやる気満々で、「ドキュメントタッチで描くんなら、俺の顔なんてポスターには要らんよ」と言っていたくらい。
杉作 原作は美能幸三という元ヤクザの手記をもとにした実録小説ですが、この映画の最大の魅力は、有名俳優から無名の大部屋俳優まで、一人一人の登場人物が個性豊かに描かれている点。
なかでも僕が好きなのは槙原政吉(田中邦衛)。彼はこのシリーズを象徴する存在だと思うんです。いつも組長にゴマをすっては二枚舌で立ち回って、仁義のカケラもない。
福永 いつもブツブツ呟きながら、状況や風向きをうかがっていてね。
杉作 対立する土居組への殴り込みが決まったときも、「女房の腹に子供がおってのぉ」とウソ泣きして、ちゃっかり逃げる始末です。
福永 打本昇(加藤武)にも呆れる。兄弟分が目の前で暗殺されても、あちこち盃を交わしては保身を図るばかり(笑)。仁義やケジメより、ビジネス優先の腰抜けだから。
杉作 敵に回したくないのは早川英男(室田日出男)。打本組を裏切り、山守組に寝返ったと思ったら、また戻る。広能に嫌味を言われても「おかげさんで若頭にさせてもらいましたけん」。
福永 彼らとは対照的に、男っぷりのいいヤクザが、若杉寛(梅宮辰夫)です。刑務所内で広能と兄弟盃を交わすとき、隠し持ったカミソリを手にした姿は粋だねぇ。「盃がないけん、これで(お互いの)腕切って、血、すすらんかい」って。
杉作 ええ、一本筋の通ったヤクザです。だけど、一作目の前半にして警察に射殺されちゃう。
福永 梅宮さんは「代理戦争」以降、明石組の岩井信一としてシリーズに復帰します。次の「頂上作戦」になると眉毛がなくて、ものすごい迫力でしょ。モデルの山健こと三代目山口組若頭の山本健一組長は眉毛が薄いと知って、バッサリ剃り落としたんです。
杉作 そんな岩井に啖呵を切ってみせる武田明(小林旭)にもシビレます。「広島極道は芋かもしれんが、旅(広島弁で「よそ」の意味)の風下に立ったことは、いっぺんもないんで」と。それに岩井が返す「吐いたツバ呑まんとけよ」もまた歴史的名ゼリフ。
福永 広島のヤクザ独特のセリフ回しが抜群でしょう。脚本の笠原和夫さんは取材魔でね。美能さんの彼女が営んでいたバーに出入りしていた連中の会話も参考にした。
杉作 だからあんなに血の滴るようなセリフが書けたんでしょうね。
福永 僕はやっぱり、美能さんの分身でもある広能が好きだな。
杉作 正義感の強い復員兵がヤクザ社会に身を投じたものの、獰猛な連中が私利私欲にまみれて蠢いている。彼はその中を右往左往する小舟のようで、切ないんですよね。
福永 親分の命令には逆らえない。いつも自分を奮い立たせて、懸命に忠誠を果たそうとする。
杉作 しかし、親分や兄貴に恵まれない。山守義雄組長(金子信雄)や打本のズル賢さといったら。