東京麹町の日本美術会館 館長 飯沼日出夫 巨額詐欺事件
2013年6月9日 日曜日
今日は、備後の御刀のお話は、ひと休みして、 30年ほど前のお話をしたい。
そう、あれは、今日と同じく、日曜日の朝であった。
ゆっくり、日曜日のため、起き上がり、 朝食を済ませて、朝刊をひらいて、
今日は、何のテレビを見ようかと、新聞をめくっていると、 【大刀剣展 名刀を
展示】 ○○ホテル、2階 などと、広告が入っていたのであった。
刀剣の好きな方は、 コーヒーをいただきながら、休みだし、行って見ようかと、
こうなるのである。
自家用車に乗り、 とあるホテルの、貸し会場に、出向くと、入り口に、受付
があって、
「 住所、氏名を、御記入御願いします。」 と、頼まれるわけである。
大概の人物が、ここで、個人情報を記入してしまい、 業者の名簿に情報を
入れてしまうのである。
ここが、問題なのである。 すべてのトラブルは、ここから始まるのである。
みなさん、絶対書かないようにしていただきたい。
今日紹介する、巨額取り込み詐欺事件は、昭和50年代初頭、実際あった、
刀剣を利用した愛刀家を泣かした、経済サギ事件で、のちに、刑事事件にも、発展
したお話である。
名簿に、住所、氏名、電話番号を書くと、 パンフレットと、オールカラーの冊子を
渡されるのである。
表紙が、中国の青銅器が載せられたこの冊子をめくると、 随分と高そうな、和服を
着て、 べっこうぶちの高そうなメガネをかけて、日本刀を鑑刀する。
日本美術会館 館長 飯沼日出夫氏の写真が大きく載っていて、 東京麹町の
日本美術会館の、ビルや、 豊臣秀頼の着用 鎧とか、 太田道灌の着用鎧とか、
長光の太刀とかカラーで紹介されているのである。
筆者が、客のふりをして、 見て歩くと、にせ物の刀にも、透かしの入った、
たいそうな日本美術会館 発行の鑑定書がついていて、 中には、売却金額
の90パーセントで、買い取り保証と書いてあるのである。
そして、今度は、お茶が出てきて、 ご所有の刀剣がありましたら、書いてください
などと、アンケートが出て来るわけである。
売り渡した、刀剣が、不要になりましたら、いつでも、買い取らせていただきます。
などと、言葉巧みに、話しかけ、どんどん、話に引き込んでいくのである。
そして、殺し文句は、「 貯金していると思えば良いですよ。」 「 資産の保証を
させていただきます。」 「まずは、ひとふり、いかかですか。」などと、言葉巧みに
売り込んで、客に、営業するわけである。
ここで、考えていただきたいのは、 わかりやすく、「100万円の刀を90万円で、買い
取り保証します。」 と、言うのは、刀をお客さんに担保として、預けて、 お金を
借りて、会社の経営をしているようなもので、 数がたまって、極端に、言えば、
1度にみんなが、刀を返却して、「お金を返してくれと。」 言った場合、破綻する
のである。
当時のパンフレットには、 飯沼日出夫 官公庁勤務の後、私財35億円を投じて、
日本美術会館を設立、 名族 清和源氏の流れにてーーー云々、と、略歴が
書いてあり、純金のしゃちほこの自宅、など紹介してあり、みんな、このパンフ
レットにだまされていったのであった。
当日、買わなかった人にも、郵送や、電話で、刀剣の即売会の案内が来る
ようになり、見に行ったら、刀がほしくなると言うのが、愛刀家で、買い取り保証
ならと安心して、ドンドンと、刀を買う人も出て来るのである。
この、日本美術会館は、 刀剣に素人の社員を多数雇用して、ワゴン車に刀剣を
積み込んで、 日本全国の新聞に、広告を入れて、 ホテルの貸し会場で、ドン
ドンと刀剣を法外な値段で、販売していったのであった。
すると、売れば在庫が少なくなるわけで、当然 仕入れが必要である。
この日本美術会館は、業者としての日が浅いので、美術クラブなどに出入りが
出来ず、そこでとった方法が、「 刀剣を高く買うので、 持って来てくれ。」と、
いろんな刀剣屋に頼んだのであった。
刀剣交換会で仕入れて、日本美術会館に持っていくと、右から左に利益が出る
ので、みんな刀剣商は血眼になって刀を捜して持ち込んだのであった。
当時、そんなことで、刀剣の価格が高騰して、バブルのようになったのであった。
そのうち、取引が恒常化すると、月末締めの請求書を出して、約束手形で、
支払いをするようになり、ドンドン、美術商に、お金を後払いにして、
商品を、法外な仕入れ値で、取り込んでいったのであった。
当然、仕入れの高くついた刀剣は、 客に高く売りつけないと、利益が出ない
わけで、偽物の刀、 そうでない物にも、日本美術会館の自分達で、鑑定書を発行
して、「名刀です。」と、 社員にドンドン、営業ノルマをかして、販売させたので
あった。
そんな経営が、2年ばかし続いて、 筆者の元に郵便が届いたのが、高額配当を
約束した、株主、募集の募集の広告であった。
右肩上がりの業績のグラフなどが印刷されて、株主には、刀剣を買うときに、
株主優遇割引とか、 温泉旅行に、株主接待とか、 そんなことが書いてあった
のである。
そして、2ヶ月後、株主優待を、無料温泉旅行などと、デカデカと書いた、広告が
送られてきて、中を開けて見ると、抽選で、備前長船○○が当たりました、
飯沼館長から、名刀を無料進呈、などという、写真がデカデカと出ていて、
筆者は、疑問に感じていたのであった。
つまり、これらの費用がどこから出て来るのか、 疑問を感じたのである。
そして、昭和53年であったか、第12回の参議院議員の選挙に、飯沼日
出夫館長が、立候補したので、どうのこうのという、そんな手紙が、郵送
されてきたのであった。
その参議院議員の選挙の後であったと思うが、ニュースに、「 日本美術会館
館長 飯沼日出夫 巨額詐欺容疑で逮捕。」 と言うタイトルで、ニュースか流れた
のであった。
ある愛刀家の家を訪れて、「名刀なので、日本美術会館に、展示させてほしい。」
などと、持ちかけて、預かって帰り、 それをすぐ即売会で無断で売却して、
その資金を流用していたと言うのが、ニュースに出た、容疑であった。
そういうことは、氷山の一角で、株主募集と言って、資金を集め、 高額配当
などと、宣伝していたが、 その資金は、ほとんど支払いに充ててしまい、
経営破綻したのであった。
法律上、 当時は、出資金などは、株主にも責任があると言うことで、株式を買った
愛刀家には、1円も戻らず、 「買い取り保証します。」などと、売りさばいた刀剣も、
中には、本物もあったのであるが、現在とは、かけ離れた金額になってしまい、
又、偽物の刀は、二足三文になってしまい、1番の被害者は、愛刀家だった
のである。
刀剣に素人の日本美術会館の社員は、基本的な事を教わるとすぐ、販売ノルマ
を与えられ、25万円の刀を、 250万円で販売していたのである。
後日、同業の業者に聞いたところでは、 破綻する前に、約束手形を多数発行して、
業者に渡して、 「 どんどん、刀が売れて、在庫不足なので、 持って来てくれ、
値段は、高く買い上げるから。」 と言って、刀剣、甲冑 などを多数仕入れて、品物
はどこかでさばいたのか、行方不明となり、 約束手形が、莫大な金額、不渡りに
なって、業界では、大きな経済問題に、なったのであった。
これらの金額は、 ある人によると10億円以上不渡りになったのではないかと
言う話が出る程度、 多くの業者がひどい目にあい、 筆者の知り合いは1億円
程度 約束手形が不渡りの紙くずになったのである。
日本の商法上、 約束手形を受領すると、 金銭を集金したと言うことになり、
不渡りになっても、法律上、文句を言えないのである。
これらのことで、多くの美術商が、金銭的に苦しんだのである。
そもそも、新聞の広告を見て、又は、招待状が来て、刀剣展示即売会なるものに、
見に行くのは、止めたりはしないが、個人情報を書いたりするのは、やめておいた
方がよい。
見に行くだけで、買わないときは、一言、「 見るだけにさせてください。」と、
その場で、断りを一言いれて、鑑刀したほうが良い、 売る側も、ひつこく、後を
ついてまわることもないと思う。
この飯沼日出夫という、人物は、右翼団体の元締めで、いろんな、トラブルを起こ
していたと、同業者に聞いたのであるが、 刀剣屋というのは、 暴力団が第三者を
代表にして、移動販売していたり、 北朝鮮の工作機関が運営している、刀剣店も、
大阪府や岡山県、京都府にあるのである。
鳥取県には、 山口組の2次団体が運営する刀剣店もあり、店の横には、家紋
のついた右翼の 宣伝車が止まっていたりするのである。
十分な注意が必要で、 最近、ブログ記事を見ていると、 東北地方に、暴力団の
経営する移動販売業者が、むしろを広げて、毒の花を咲かしている様である。
又、岐阜県には、 旧 オウム真理教の在家信者が、運営している、刀剣業者も
あり、愛刀家の資金が不正な活動に使用されていることがあるのである。
よく考えて、御刀を楽しんでいただけたらと思う。
今週のお話はここまでである。
【次週に続く。】