実際に、新型コロナでもICUにいる間からのリハビリが始まっている。神戸市立医療センター中央市民病院では、3月の新型コロナ患者受け入れ当初、感染防護具などが足りず早期のリハビリ治療を見送った。合併症が多く出たり、入院が長引いたりする懸念が浮上、ICUにいるときからのリハビリ態勢を整えたという。同病院の理学療法士の岩田健太郎氏は「入院初日からリハビリを始めた患者の多くは合併症が少なく回復も早かった」と話す。
新型コロナ肺炎のリハビリでは、医療従事者への感染対策は必須だ。リハビリは、理学療法士や看護師などが患者の体や手足を支えながら進める。同病院では、1回のリハビリに関わる理学療法士などを増やし、患者の体を正面から支えるのを避けるなどして感染リスクを抑えている。
遠隔操作によるリハビリの試みも始まっている。東京医科歯科大学病院では、重症からの回復期にある人や、軽症や中等症の患者を対象に、タブレット端末などを使って理学療法士などが患者に運動の仕方などを指導する「リモートリハビリテーション」を始めた。画面を通して指示できるため、病室に入るスタッフを少なくして感染リスクを減らす。同病院の酒井朋子医師は「今後用途が広がれば、退院後のリハビリや、ホテルや自宅で療養している感染者の運動指導にも役立つ可能性がある」と話す。
◇ ◇ ◇
■急性期病院 理学療法士少なく
早期リハビリの体制はまだ十分ではない。先行する米国でもICU患者などへの運動療法の実施率は2割程度だ。日本理学療法士協会の森本栄副会長は「(国内で)新型コロナ患者にICU入室時からリハビリをできる病院は限られている」と話す。同会の5月の調査で、新型コロナ患者に理学療法を実施したのは290施設中、約3割だった。
要因の一つは人手不足だ。同会によると、国内の医療機関で働く理学療法士の半数近くは、回復期の患者のリハビリを担っている。医療機関などの理学療法部門の責任者を対象にした同会の16年の調査によると、人手不足を感じると答えたのは回復期の医療機関で約3割だった一方、高度急性期の機関では約7割にのぼった。
「公立の病院では制度上、急性期に向けた理学療法士を多く配置できない」(森本副会長)という事情がある。また肺炎などで早期リハビリの効果が実証されてから約10年と日が浅く、「理学療法士を配置する重要性が広く理解されていない」(理学療法士の岩田氏)。急性期の入院時からリハビリができる体制づくりも必要といえそうだ。
(スレヴィン大浜華)
[日本経済新聞朝刊2020年8月10日付]