鳥取の日本酒【日置桜(ひおきざくら)】日を置くほどに佳くなる酒

鳥取の日本酒【日置桜(ひおきざくら)】日を置くほどに佳くなる酒
出典 : http://hiokizakura.jp/

「日置桜」は「山陰の地酒」として知られる、鳥取県を代表する銘柄です。造り手は、“醸は農なり”をポリシーに、農業と密接に関わった酒造りに注力する蔵元、山根酒造場。その名のとおり「日を置くほどに佳(よ)くなる酒」と言われる「日置桜」の魅力を紹介します。

  • 更新日:

「日置桜」の蔵元の酒造り

「日置桜」の蔵元の酒造り

出典:山根酒造場サイト

「日置桜」の蔵元、山根酒造場の歩み

「日置桜」の蔵元、山根酒造場が創業したのは明治20年(1889年)のこと。蔵を構える青谷町は、かつては鳥取藩32万5千石の城下町として、現在は山陰最大の都市として繁栄する、鳥取市の西端に位置しています。
山根酒造場は、3方を山に囲まれた自然豊かな田園地帯において、良質な米と清涼な水を活かした酒造りに専念してきました。昭和13年(1938年)には、全国清酒品評会(※)において3年連続入賞することで授与される「全国名誉賞」を山陰地方で初めて獲得。昭和43年(1968年)には中国地方で初めて吟醸酒を販売するなど、山陰を代表する蔵元として、確かな地域を築いてきました。

※現在の「全国新酒鑑評会」とは異なる品評会。日本醸造協会の主催で明治40年(1907年)~昭和25年(1950年)まで実施された。

「日置桜」の酒名には2つの意味が込められている

「日置桜」の酒名の由来は、蔵を構える青谷町が、かつては「日置の郷」と呼ばれ、蔵近くに桜の名木があったことが由来です。加えて、蔵元が酒造りの目標とする「日を置くほど佳(よ)くなる酒であるべし」という信念も込められているのだとか。
5代目となる現当主、山根正紀氏が「味わいのなかに、生まれ育った風土をパノラマのように映し出す酒を造っていきたい」と語るように、「日置桜」は山陰地方の風土に根ざした酒として、全国の地酒ファンから確かな指示を獲得しています。

「日置桜」の品質を支える“醸は農なり”の理念

「日置桜」の品質を支える“醸は農なり”の理念

出典:山根酒造場サイト

「日置桜」は、農業の延長線上にある酒

「日置桜」の蔵元のポリシーは“醸は農なり”。「優れた米だからといって、よい酒ができるとは限りませんが、優れた米でなければ、よい酒はできない。酒は米のポテンシャルを超えられない」と、山根氏は酒造りにおける米の重要性を強調しています。
「日置桜」は、もともと「山田錦」「玉栄」など酒造好適米を厳選して醸す酒でしたが、1990年代初頭からは「よい酒はよい米から」という原点に立ち返り、農家との直接対話に注力。化学肥料や農薬の使用を控え、高温を避けるために田植えの時期を遅らせるなど、今で言う「特別栽培農産物」の契約栽培をスタートさせました。

「日置桜」が生む、農業と酒造業の切磋琢磨

契約栽培を始めた当初は、渋る農家を説得して協力を仰いでいたのだとか。ところが、自分が育てた米で、どれだけ良質な酒ができるかを目の当たりにすることで、農家の人々にも「よい酒になるよう、よい米を育てる」という意欲が芽生え、契約栽培の輪が広がっていきました。
現在、山根酒造場では、米の生産者ごとに仕込み桶を分ける「シングル醸造」を行っています。あえて通常の仕込みよりも手間がかかる手法を採用することで、米と酒の品質に関わる新たな知見を得られるとともに、農家のモチベーションアップにもつながっているそうです。

「日置桜」の味わいは「甘口」「辛口」の垣根を超える

「日置桜」の味わいは「甘口」「辛口」の垣根を超える

出典:山根酒造場サイト

「日置桜」を「辛口」ではなく「甘くない」と表現する理由

「日置桜」の味わいを表現するとき、山根酒造場では「辛口」ではなく、あえて「甘くない」と表現します。
発酵途中の醪(もろみ)は糖分を含んで甘く、糖分がアルコールに分解されることで、次第に糖分は減っていきます。ごく単純に言えば、糖分を多く残せば「甘口」の酒に、糖分が減るまで待てば「辛口」の酒になりますが、この過程で「辛味」が加えられるわけではありません。
日本酒には「甘口/辛口」という単純な表現では捉えられない味の広がりがある。そうした醸造家としてのプライドゆえに、味わいひとつに正確な表現を追求しているのだとか。

「日置桜」は食の邪魔をしない、理想の食中酒

「日置桜」がめざす酒造りは、「甘口/辛口」という単純な二者択一ではなく、“食を活かす酒”。
アルコールに分解可能な糖分を分解し尽くす「完全発酵」で醸していますが、それは「甘くない酒(辛口の酒)」を造るのが目的ではなく、酒の甘味だけで食欲を満たさせず、むしろ飲むことで食欲を喚起する酒を造るためのです。
食とともにたのしむために日を置き、熟成させることで、重層的な旨味を感じられるように造られた「日置桜」は、“理想の食中酒”としての評価を確立しています。

「日置桜」は、農家と醸造家の、互いのプライドをかけた連携によって造られる酒。数々の賞に輝いた“山陰の名酒“は、鳥取を発祥とし、一時は栽培が途絶えていた幻の酒造好適米「強力(ごうりき)」を採用するなど、新たなる挑戦を続けています。

製造元:有限会社山根酒造場
公式サイトはこちら

おすすめ情報

関連情報

日本酒の基礎知識

鳥取の日本酒【辨天娘(べんてんむすめ)】愛情を込めて醸される“燗映え”する酒

鳥取の日本酒【辨天娘(べんてんむすめ)】愛情を込めて醸される“燗映え”する酒
出典 : Naoki Kim / Shutterstock.com

「辨天娘」は、現在、鳥取県若桜町(わかさちょう)で唯一の蔵元となる太田酒造場が造る日本酒です。明治後期の創業以来、地元産の米にこだわり、米の個性を活かした酒造りを続ける太田酒造場と、その代表銘柄である「辨天娘」の魅力を紹介します。

  • 更新日:

「辨天娘」の蔵元、太田酒造場の酒造り

「辨天娘」の蔵元、太田酒造場の酒造り

mTaira / Shutterstock.com

「辨天娘」は、若桜町で唯一の蔵元が醸す“若桜の地酒”

「辨天娘」の造り手は、明治42年(1909年)創業の歴史を持つ太田酒造場です。
蔵を構える若桜(わかさ)町は、鳥取県の最東端、兵庫県や岡山県との県境に位置します。かつては因幡街道沿いの宿場町として栄え、緑と清流に恵まれたこの地で、太田酒造場は現在、唯一の蔵元として、地域に根づく“若桜の地酒”を造り続けています。

「辨天娘」の蔵元の、小規模ながら愛情込めた酒造り

「辨天娘」の蔵元、太田酒造場の経営方針は、ただ日本酒を造るだけでなく、その背景にある文化を伝え、残していくこと。昭和の終わりに、一度はその歴史が途絶えかけましたが、こうした理念を守り続けるべく、家族や親類だけで、小規模な酒造りを再開しました。
酒質を第一に考え、蒸し米は自然放冷、醪(もろみ)は「袋搾り」と、手間のかかる伝統製法にこだわるその姿勢が、地元はもちろん、全国の地酒ファンからの支持を集めています。

「辨天娘」の蔵元は「なら漬け」も人気

「辨天娘」と並ぶ、太田酒造場の名物が、蔵仕込みの「なら漬け」。地元・若桜町で採れた大根ときゅうりを、長期熟成させた酒粕で漬け上げたもので、もともとは蔵人のまかない食が始まりだったとか。
太田酒造場のなら漬けは、塩漬けを3度、酒粕漬けを7~9度と、2~3年かけて何度も漬け替えられます。手間ひまかけて生み出された、まろやかでコクのある味わいが、日本酒にも、ご飯にもよく合います。

「辨天娘」は蔵近くの若桜弁財天にあやかった酒

「辨天娘」は蔵近くの若桜弁財天にあやかった酒

Japantreasuretrove / Shutterstock.com

「辨天娘」は「べんてんさん」にちなんで命名

「辨天娘」の酒名は、蔵近くにある「若桜弁財天(わかさべんざいてん)」の徳にあやかれるよう、その名にちなんでつけられました。
「若桜弁財天」は、福岡県の宗像(むなかた)大社を総本山として日本全国に祀られている「宗像三女神」の一柱、「市杵島姫命(いちきしまひめ)」を祀る神社。古くから「べんてんさん」と呼ばれ、商売繁盛や縁結びの神様として親しまれてきました。
現在では“縁結びのパワースポット”として、その名を冠した「辨天娘」と同様、密かな人気を集めています。

「辨天娘」はお燗でたのしみたい食中酒

「辨天娘」はお燗でたのしみたい食中酒

jazz3311 / Shutterstock.com

「辨天娘」は、どのお酒も燗酒で飲むのがオススメ

「辨天娘」は、すべてのラベルに「お燗をして、食中酒としてお楽 しみください」と書かれているように、燗酒(かんざけ)として造られた日本酒です。
一般的に、燗酒が合うとされる「純米酒」はもちろん、常温や冷やして飲むことが多い「生にごり酒」や「純米大吟醸」も、燗酒が推奨されるのが「辨天娘」というお酒。飲むほどに食欲がわいてくる、食事との相性のよさを、ぜひ、実感してみてください。

「辨天娘」は、原料米ごとの個性を活かした酒

「辨天娘」に用いられる原料米は、すべて契約栽培や自家栽培で育てた地元産米。「山田錦」「玉栄」「五百万石」など全国区の知名度を持つ酒造好適米に加えて、「強力(ごうりき)」も用いています。「強力」は、栽培の難しさから栽培が途絶えていましたが、地元の農家や蔵元が協力して復活させた、鳥取の酒造りを象徴する酒造好適米です。
太田酒造場では、これら原料米それぞれの個性を活かすため、育った田んぼごとに異なるタンクで仕込む設備を2009年に導入。仕込んだ順に「◯番娘」と番号をつけ、一切ブレンドせずに出荷しています。このため、「辨天娘」という名のもとに、その都度、異なる味わいを持った日本酒が生まれ、飲み手を飽きることなくたのしませているのです。

「辨天娘」は、鳥取県若桜町の小さな蔵元、太田酒造場が、愛情を込めてていねいに醸す酒。年ごと、タンクごとに異なる「辨天娘」の味わいを、ぜひ熱燗で堪能してください。

製造元:有限会社太田酒造場
公式サイトはこちら

おすすめ情報

関連情報

日本酒の基礎知識