米大統領選 社会分断を放置するな

2020年8月30日 07時11分
 十九世紀の南北戦争以来だ、とまで言われるほど米社会の亀裂は深い。この現状を放置しては米国の将来はおぼつかない。亀裂の修復へ社会が動きだす転機となる大統領選にしたい。
 共和、民主両党が相次いで開いた党大会は、社会の分断を表していた。
 共和党大会でスピーチした人たちは、トランプ政権になって米国は偉大な国に復活したと誇った。民主党を過激な左派だと決めつけ、バイデン政権が誕生すれば、米国は社会主義者のユートピアになると危機感をあおった。
 一方の民主党大会では、トランプ時代は暗黒時代だとして、再選を許せば国のありようは取り返しがつかないほど変わってしまうという警告が鳴り響いた。
 両者の認識はまったく異なる。もはや意思疎通もままならないのではないか、とさえ思わせる溝の深さだ。
 共和党がより右に、民主党がより左にそれぞれ傾いて両極化するにつれ、価値観や考え方の異なる者には聞く耳を持たないという不寛容な傾向が強まった。
 分断はトランプ大統領に少なからぬ責任がある。対立や憎悪をあおり、差別意識と偏見を解き放ったのはトランプ氏だ。支持層ばかりに顔を向け、万人のための大統領として振る舞うこともない。
 バイデン前副大統領は大統領候補指名受諾演説で、国民に融和を呼び掛け「私を支持しなかった人のためにも懸命に働く」と語った。
 一方のトランプ氏の指名受諾演説はバイデン氏への対決姿勢を基調とした。「有権者は二つの党、ビジョン、思想、公約の間で明確な選択に直面している」と国民に選択を迫ることはあっても、結束を求めることはなかった。
 コロナ禍と景気後退、それに人種差別抗議デモ。
 目下の米国が苦しむ三つの難題である。抗議デモは、中西部ウィスコンシン州での警官による黒人男性銃撃事件によって再燃し一部が暴徒化した。
 そのさなかに十七歳の白人少年がデモ参加者に発砲し、三人を死傷させた疑いで逮捕された。憎悪が憎悪を呼ぶ連鎖反応が加速しないか、懸念する。
 分断は社会の緊張を高め、最悪の場合は国を自壊に導く。トランプ氏には自分があおった差別意識や偏見を鎮める責任がある。国民統合を図る指導者へ姿勢を改めるべきだ。

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