第9話『激突』Part3   Part2へ戻る

 正義クラブの3人娘は悪漢の兵隊の中を抜けて(ちなみに全員中には居るが総番と塾長の戦闘の巻き添えを嫌い待機中)校門の外に立つ。
 これは何も知らない人間が近寄らないようにとの配慮だ。
 その準備が整ったのを見計らったように一人の男がふらふらと近寄る。
 背は高い部類にはいるがそれに見合わないほどの皮下脂肪。黒いTシャツ。白いジーンズとジャケット
 人相が悪いのに黒いサングラスだから余計に怖く見える。
 アフロヘアーといえば格好よいが、伸ばしっぱなしの天然パーマが頭を余計に大きく見せていた。
 それが校門の前を通りかかって中をチラッと見て戦いを目の当たりにすると
「おおっ。凄い。学園抗争か。これは小説のネタになるなぁ」
 無謀にも校門から覗きこもうとする。当然だがそれを阻止する久子たち。
「危ないですから下がってください」
「そうですわ。それにあなたは学校の関係者ではないでしょう」
「ああ。失礼。僕はこう言うもので」
 名刺入れから名刺を差し出した。右半分にはゲームのキャラクターの少女がかかれている。男は聞かれてないのにべらべらと自己紹介をしていた。
「…東京都出身で在住。10月21日生まれのO型。好きなチームは巨人。好きな声優は井上喜久子さん。林原めぐみさん。浅田葉子さん。田村ゆかりさん。堀江由衣さん。中原麻衣さん。カラオケのレパートリーは『仮面…」
「そんなことはきいてませんっ」
 さすがに久子が止める。
「あなたがどこの誰かはどうでもいいのです。とにかくここは危険ですから遠くへ行ってください」
「そ…それに…今日のてんびん座のO型は運勢よくないですよ…」
 一体どこにしまってあったのか血液型占いと星座占いの本をだしてみなみが警告する。
「まぁまぁ。遠巻きに見るくらい…ぶぎゃああああああっ」
 吹っ飛ばされた総番が校舎の塀を破壊してやっと止まった。男はそのとばっちりを受けて瓦礫を食らったのだ。
「あーあ…言わんこっちゃない…」
 ところが男は手帳を取り出した。へらへらと笑っている。
「ふ…ふふふっ。得したなぁ。こんな経験めったにできるもんじゃないよ…これを小説のネタに生かせば…そしてこのジョジョの『岸部露伴』の真似ができるシチュエーションも…」
 それだけしたら気絶した。久子たちは呆れを通り越して驚愕していた。
「す…凄い…上条くん以上のオタクがいたなんて…」

 その上条はだいぶ苦戦を強いられていた。人間は力を無意識下でセーブしている。
 だが裏上条はそのセーブがない。壊れても再生するので遠慮なく攻撃をしかけていた。
 加えて暴走状態のコピーなのでなおさら手加減はない。
「くそっ。まったく手加減なしかっ。救いとしては暴走で動きが大きいからよけやすいのと、体力回復ができることだが…このままだといずれやられる」
 裏上条が構える。よけようにも狭い場所での戦闘。
「あれは…話に聞いたとおりなら上にも飛んで来る龍気炎。待てよ…上と下に分れるなら…」
 『暴嵐龍気炎』と呼ばれる上下2ウェイの気弾が放たれた。上条も腰ダメに神気を高める。
「爆熱…龍気炎!!」
 ほぼ同時に技を放つ。相手のない上への気弾は虚しく通過する。そして地上を行く気弾の激突。だが
「なんだと?」
 裏上条の気弾と上条の気弾は相殺するが上条のが残った。それが放った直後で動けない裏上条に命中した。
「そりゃあそうだろう。上と下に分けるんだ。ジャンプでよけるのも困難になる代わりに、上も下も威力は小さくなるだろう。だからこちらのパワーが上回るはず」
 すり足で裏上条に擦り寄る。そして腹部を強打する。

 一方のみずきと瑞樹は技がまるで同じだけに、互いに手のうちが分りすぎてやりづらかった。瑞樹が飛ぶ。
(クレーターメーカー それとも俺の技をブロッキングして隙を作ってコロナフレア? い…いや)
 敢えてみずきはなにもしない。そして瑞樹もなにもせずに降りてきた。同時にみずきをつかみにかかる。
 だがそれを読んでいたみずきは投げられるのを回避することに成功した。間合いを離す。
(危ない危ない。ブロッキングを誘って投げ飛ばすつもりだったか。読みがあたったぜ)
(ちっ。さすがはオリジナルと言うところかしら。だが休ませないわっ)
 すぐさま突っ込んできたがみずきが溜めを作るには充分だった。回転しながらのドロップキック。
「メテオストライク」
「うわっ」
 殺意にはやるあまり瑞樹は不用意に突っ込んでいた。まともに喰らう。

 一方、榊原たちは全ての男子トイレを探し終えて三階にいた。
「どう言うことだよ…全て扉を開いて調べたのに…いないとは…」
「『姫神』が見誤ったとは思えぬ。どこの厠におるのだ?」
「くっ。村上。ちょっとお前のガンズン・ローゼスで残留思念を調べてくれ。逃げたとしても追跡できる」
 男子トイレから表で待つ真理に榊原が怒鳴る。どもった声が返ってきた。
「ば…馬鹿野郎…アタイは女だぞ。男子トイレに入れるわけがないだろ」
「そんなことを言っている状況じゃ…はっ。まさか…」
 二人は飛び出してきた。
「村上。それだ。奴は女子トイレのほうにいるんじゃないか?」
「え?」
「むぅ。確かに盲点。事実われらは男の厠しか調べておらぬ」
「た…確かに『まさかそこまで』と思うよな。しかしこの全面抗争中じゃ校内に女子もいないだろうし…念には念でこもれる場所に…ありえるな…よし。今度は女子トイレ回りか」
 今度は逆に男女両方のトイレを回りながら元の場所へと接近することになった。

 校庭では壮絶な戦いが続いていた。
「うおおおおおっ」
 渾身のアッパーカットを塾長に見舞う。吹っ飛ばされた塾長は校舎の壁に亀裂を入れてたたきつけられる。
「ぬううん」
 そのまま塾長は落下せず下に向ってジャンプする。
「食らえ」
 総番は銅像を引きぬくと、落下してくる塾長に向けて投げつける。
「わはははははははははははははははは」
 それを拳の連打でこなごなに砕きながらなおも向う塾長。逃げずに迎え撃つ総番。二人の額が激突する。
「くおっ」
 落下エネルギーの分だけ塾長が勝った。総番はがくりと膝をつく。
「ふははははは。どうした。小童。いきがっていてもその程度か」
 笑いながら塾長が両手を組んで振り上げる。
「なめるなぁっ」
 総番がたちあがりざまにアッパーカットをカウンター気味に決める。塾長をふっ飛ばし自身は立ち上がる。
「甘い戯言をぬかす老いぼれにこのオレの理想が砕けてたまるか」

 腹部に強烈な一打を受けてくの字に折れる裏上条。
 投げ飛ばそうとさらなる接近をした上条だが、裏上条はすぐに体勢を立て直して強烈な右フックを見舞う。
 そして間髪いれずに左のハイキックを上条のこめかみへと炸裂させる。たまらず倒れる上条。
(こ…このコンビネーションも僕の…どこまでそっくりなのだ…)
 そんなことを考えていたら裏上条が腰溜めに構えていた。
(跳ぶか? いや。飛龍撃で叩き落される。ならば)
 飛んで来る気の塊を手で捌き、間合いを詰めに掛かるが続けざまに裏上条が打ちこんで来るので捌ききれず上条本人も龍気炎の連発になる。
 それも長くは続かなかった。上条が龍気炎を放ち続いての発射体勢になった。だが裏上条は上条の気弾を捌くと軸足のない蹴りを見舞う。
(しまった。硬直を狙われての龍尾脚の奇襲。ダメだ…間に合わない)
 慌ててかわそうとするも次へ移行するのに時間が掛かりすぎた。上空からの膝をもろに受けてしまう。
「ぐぅっ」
 倒れ伏す上条。おき上がりの体勢になったとき、裏上条が音もなく接近していた。
(あれは…逆鱗!?)
「死ね」
 まさに必殺の時が来た。

 一方みずきと瑞樹の戦いも熾烈を極めた。飛んできた瑞樹を落としたみずきだが攻撃が続かない。
(くそっ。瞬発力では男の方が上か。けどこんな格好で男に戻るのは嫌だ。だいたい女の体に合わせているのだからきつくて動けない)
 とりあえずしゃがんでのガードができない逆立ちから、かかとを脳天に落とすメテオフォールへと行く。立ちガードに行くには時間が掛かる。
「はっ」
 だが瑞樹はしゃがんでのブロッキングを成功させた。捌く。そして先に行動可能になった瑞樹はみずきの体を支える腕を足で払う。
「うわっ」
 見事に転倒するみずき。そこに馬乗りになる瑞樹。憎悪の表情で睨みつける。
「……憎い…私は所詮偽者。あの御方の愛はお前にだけ向いている…憎い…同じ顔。同じ声。同じスタイル。私はあの方を愛している。お前は見向きもしない。なのにどうしてあの方は…」
「へっ…所詮は偽者と自分でいってたじゃないか。本体が誰か知らないけど偽者じゃ満足できないんだろう。そして最低のゲス野郎だ。それはお前が証明しているぜ」
「わ…私が何を…」
「してるさ。その盲愛。本体は『おれ』の性格を自分に都合よく変えているじゃないか。相当な甘ったれだぜ。ましてや思い通りにならないおれを始末しようってんだ。そこら辺りが『最低』と言いきれる根拠だぜ」
「黙れ!」
 いわゆるマウントポジションから男の力で女の嫉妬心で少女を殴りつける。
 たちまちみずきの顔は腫れ上がり、美少女が台無しになっていた。鼻血も出ていて呼吸が困難になって行く。それでも瑞樹は殴りつづける。
「黙れ!! 黙れ!! 黙れ!! 黙れ!!」
「もうやめて。お願い」
 さすがにたまらず七瀬が瑞樹の腕を取る。だがそれを制したのは殴られているみずき本人だ。
「手を出すな。七瀬。チャンスだぜ。こいつがおれのコピーなら…おれの中にもこう言う要素があるんだろうな。それを超える。そのチャンスだ。だから手を出すな」
「うるさい。今すぐ殺してやる」
 激昂して動きが大きくなった。その隙を逃すみずきではない。下敷きから脱出に成功した。
 瑞樹は取り逃がして逆上がピークに達した。憎悪のままに必殺技を繰り出す。しかしタイミングを読みきり初撃を捌いた。
「へっ。男バージョンは大雑把らしいな。女の方が捌きやすいとはね」
 そのままみずきが蹴りを見舞う。それが辺りのけぞった。その時点では既に反対側に移動していた。そちらからキック。
 そして延々と周囲を回りながら蹴りを見舞う。
「ブラックホール」
 最大の必殺技が炸裂した。

 一階女子トイレ。真理は飛び込んだ。今までは全部が空だったが今度は1箇所だけ個室が閉じている。
 そしてなによりマリオネットのパワーを感じる。真理はなにも考えずに扉を引きぬく。そこにはビデオカメラを手にした須戸 完がいた。
「へっ…姫が恥ずかしがるわけだよなぁ…女子トイレでビデオカメラ回している男なんて変態を目の当たりにしちゃ箱入り娘じゃ赤面もするよなァ…アタイも言ってやるぜ…この恥知らず
 怒鳴ると真理は須戸を引きずり出す。貧弱な体躯の須戸はなすがままだ。
「十。カズ。見つけたぜ」
 怒鳴ると非常事態と言うこともあり二人は入ってきた。だがそのタイミングを待っていた。須戸はビデオカメラを向けた。
「はっ?」
「間抜けがぁ。てめえら同士でやりあいなぁぁぁ。さァ…俺の兵隊たちよ。こいつらを叩きのめせ」
 それはかなわぬ願いであった。十郎太が苦無でビデオカメラを叩き落した。そしてそれを榊原のビッグ・ショットが踏み潰して破砕する。
「はぁぁぁぁぁぁ。俺のカメラがァァァァ」
「どっちが間抜けだ? いっぺんに3人もコピーすりゃ時間掛かるに決まってんだろーが」
「やはりヴィデオキャメラが傀儡の…」
「そう言うこと。カメラは本物だろうけどそれを核としてマリオネットが作動していた」
「くっ」
 看破され歯噛みする須戸。そして
「病院のベッドで反省しやがれ。アラウンド・ザ・ワールド」
「ぶっぎゃああああああああっっ」
 真理の連続技を喰らった須戸は、窓ガラスを突き破って校庭に吹っ飛ばされた。

 まさに絶体絶命の上条だったがそこはそれ。普段から妄想を走らせているだけに、こう言うヒーロー的なシチュエーションに対するイメージトレーニングができていた。
 まともに食らうよりはましと、完全に置きあがるより先に地を這うキックを見舞った。これが見事に裏上条を転倒させた。
「しめた。今ので奴も『気』を使い果たした。今度はこっちの番」
 立ちあがりダッシュで懐に飛びこむ。今度は裏上条が対処に遅れを取った。強烈無比な全身を使ってのアッパーカットが見舞われる。
「真・飛龍撃」
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 山をも浮かす力。それが裏上条を粉砕した。
 ロケットのように舞いあがった上条に吹っ飛ばされて、裏上条は天井にたたきつけられて地面に潰れた蛙のように這いつくばった。
 上条は追撃をしようにも力を使い果たした。
「上条くん」
「若葉…チャージ頼む…」
「うん」
 綾那にスタミナの補給を依頼する。その間も視線は裏上条から外さない。
 だが裏上条は再生どころか塵となって消えて行った。一瞬は理解できない二人。同時に悟った。
「真理ちゃんたちが本体を見つけてくれたんだ!!」
「らしい…赤星たちの加勢に行こう…ついでに及川にこの傷を治療してもらいたいし…」

 四方八方から蹴りを見舞うみずき。瑞樹も最初は堪えていたがうめくと後はなすがままだった。これにはむしろ攻撃しているみずきの方が戸惑った。
「ど…どうしたんだ?」
 静寂が訪れる。瑞樹は涙を流して上を向いている。
「…お別れなんですね…完様…」
「完? 珍しい名前だから覚えていた。二年生にいたよな…須戸完。そいつが本体かっ。姫ちゃん。そいつを」
 探してくれと言いかけたときに瑞樹が走り出す。
「逃がすかっ」
 満身創痍だったが追うみずき。瑞樹は最初に男になったシャワールームに飛びこむ。
「変身? だがもう男なんだ。なるとしたら女にだが…」
 その通りだった。最後の力をふりしぼりもう一人のみずきは女の姿に戻っていた。そしてみずきたちは絶句する。
 胸も露な『みずき』。これは服を構成していられなくなったからだ。
 服どころか足は既に膝までが。腕も左右ともに肘までが塵となって消えて行った。
「教えて…くれ…私は…女か?…完様が愛してくれた…女か?」
 既に目も見えないのだろう。ろれつも回ってない。一度破壊されたマリオネット。データはデリートされた。
 再び新たなビデオカメラでみずきを撮って作り出しても…それは別のコピー。自身が消えることを…『死』を悟っていた。
「……ああ……女だよ…」
 感覚的にそれを理解出来たのは『同じ女』だからか。みずきは優しく告げる。
「……そうか……最後を女として終われるか…」
 流れるシャワーが『みずき』の体を削り取って行く。残った顔は消滅するまで笑顔のままだった。
「なんか…かわいそうだったな…」
「そうね…でも…みずきが生まれたときから女の子だったらあんなに情熱的だったのかしら」
「ば…バカ。七瀬。おれが…そんな…男にあんな…」
 しどろもどろになっていると上条たちが来た。互いに傷の修復や体力補給を済ませ榊原たちに合流すべく歩き出したときだ。
 まるでトラックでも追突したような凄まじい衝撃音と衝動が一同を見舞う。
「な…何だっ!?」

 須戸完はうめいて顔を上げる。真理にしたたかに殴られて痛むが大怪我ではない。
(くそぉ…親にさえ殴られたことのないこのおれを…いつか復讐してやる…絶対にやってやる。新しいビデオカメラをばばあにでも用意させて…う…うわあっ)
 良からぬ事をたくらんでいたら総番が吹っ飛んできた。
「がははははは。お返しじゃわい」
 先刻の衝撃は総番が塾長をふっ飛ばして体育館の壁にたたきつけたそれ。その返礼に全身で体当たりをして総番をふっ飛ばしたと言うわけである。
「くぉおおおおぉおおおおおぉぉおおおお」
 気合を入れて立とうとするが既に膝に力が入らない慎。
「総番」
 夏木が助けに入ろうとするがそれを春日が制する。
「なんで止める!? このままでは総番が」
「夏木…テメー総番をコケにするつもりか?」
「うっ」
 そのとおりになってしまう。一対一の勝負に部下の助けを借りては恥を掻くだけである。
「だ…だが既に力が…」
「手出しはできん。だが…気を入れることはできるぜっ」
 秋本が言うなり冬野が指揮を取る。悪漢高校の兵隊たちが陣を取る。春日が叫ぶ。
「いくぞっ。みんなで総番に俺たちの気を送る」
「オス」
 そして応援団さながらに整列する。声の限りに叫ぶ。
「フレー。フレー。総番。頑張れ頑張れ。総番」
 壮観だった。学生服の男たちがあつい声援を総番に送っている。そして…それが届いた。
「ぬぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおっっ」
 ちゃんと両方の足で立ちあがる。そして鋭い眼光で塾長を睨む。対して塾長は目を細める。
「くっくっく。なぁ慎よ。いい配下じゃないか。必死に応援してくれよるわい。それのどこがわしの言うことと違うのだ?」
「う…うるさい。奴らは今は屈しているがやがては俺の首を狙ってくるだろう。そうだ。力あるものが率いる。その証明だ」
「強情な奴じゃわい。声を貰って回復した気力はどういうつもりじゃ」
「ふっ。これ以上は聞く耳を持たぬ。いくぞ」
 総番は気を拳に込めて放つ。だがそれは事前に塾長に腕を蹴られて狙いが外れた。しかし塾長は
「む…いかん」
 何と飛んで行く『気』を追い越してそこにいた須戸完をその体で庇って気を背中に受けた。
 この行為に須戸は衝撃を受けた。

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