第8話『クラブ活動パニック』

 誰も知らないあの悲劇から三日が経った。
 皮肉なほどさわやかに晴れ渡った木曜日、無限塾一年二組で、二つの空席のまま出席を取っている風景があった。
「よろしい。男子は全員出席。続いて女子。赤星」
「ハイ」
「池澤」
「ハイ」
「今井」
「ハイ」
「及川」
「ハイ」
「菊地」
「はい」
「小山」
 返事はない。そこには誰も座っていない。教室がざわめく。三日連続で来ていない。こほんと中尾がせきばらいして切り出す。
「一部で噂になっていると思うが、月曜のあの乱闘騒ぎから小山の行方が知れない」
 ここでひどくざわめく。1日だけなら風邪でも引いたかと考える。だから見舞いに行った女子もいる。
 だがファミリーレストラン「ゆーかり」の中に両親はいなかった。従業員たちも落ち着かない。
 何とか聞き出したのがゆかりが月曜の夜から帰っていないと言うこと。それでは両親も仕事どころでないのも本音であろう。
 そこから噂が広まりつつあった。しかし担任の口からはっきりと切り出されると、さすがに動揺がある。
「静かに。ご両親は警察に捜索願を出している。だから君達も何か知っていることがあったら協力してくれ」
 正体を知るものがいたら『何を白々しい』と言ったかもしれない。
 どこを探してもゆかりはいない。もうこの世にいないのだ。死体すら焼かれて消えた。
 そしてそれをやったのはこの担任教師なのだ。
 いや。この「担任教師」も被害者だ。
 中尾勝の魂を追い出し、その社会的信用を得て街に溶け込んでいるこの男の本当の名は斑信二郎。
 『殺人鬼』だ。
 担任教師に成りすました斑は出席をとる演技を続ける。
「北条」
「ハイ」
「牧村」
「はい」
「村上」
 ……
 これも返答がない。今度は苦々しい表情になる。
「また遅刻か…見た目通りの不良娘だな」

 そのころ真理は『あの』廃ビルに来ていた。
 精神を研ぎ澄まし『ガンズン・ローゼス』の茨を広げる。十分もそうしていたが、深いため息をついて解除する。
(ダメか…段々に薄くなってきている…と言うかここの工事関係者の残留思念に紛れて来た…
 ここから犯人を探すのはもう無理か…取り壊しも進んできたし…
 ひょっとしたらアタイの力もたいしたことないのかも。
 だからあの時つかんだイメージは間違いでゆかりはどこかで生きているのかも…未練かな。
 でも初めて出来た友達。簡単に諦めきれるかよ。もしどこかに監禁されているならそれでもいい。必ず探し当てて助けてやるからな)
 彼女は三日連続でこの場所で新しい手がかりを探していた。しかしつかめるのはゆかりの恐怖だけ。
 もしも女教師の言葉が本当なら敵は相当に殺人に慣れている。
 そして確かにマリオネットマスターだ。『人形遣い』の追跡まで考慮して気配を消している。
(それにしても…ゆかり以外にも恐怖が残っている。殺されたとしたらさらにまだ二人死んでいるのかも…工事関係者が来るころだな。そろそろアタイもガッコに行くか)
 その場を出ようとして振りかえる。
(あの氷室ってセンセの言うとおりに殺されたとしたら…殺した奴の殺意も残ってて良いはずなのに見当たらない…それが気に入らない)
 さすがに殺意でなく趣味で殺したとは読めなかった。だからまともな殺意は残ってなかった。

 一年一組。ここの担任は藤宮博である。
 体育担当は初めからジャージ姿であることが多いが、彼はホームルームのときはきちんと背広姿である。
 ダンディズムと言うか拘りのようである。きちんとした服装から入ると言う。しかしなぜか左肩に白い手袋が挟まれていた。
「よし。全員きちんといるな。時間を守る。それがまず正しい生活の第一歩だ」
「当然です。先生」
 一人の少女が元気いっぱいに手を上げて立ち上がる。顔は中学生…いやヘタすりゃ小学生でもとおりそうな童顔。
 襟足までのショートカットだが、それが放射状に広がりさらに子供っぽく見える。
 身長も低めだが、胸だけはやたらに大きくアンバランスであった。
 正義クラブの一人。麻神久子である。

 ここで正義クラブについて説明しなくてはなるまいっ。
 知っての通り無限塾はほとんどの生徒を受け入れる。
 不良生徒も多く来るが一般生徒も多い。
 そして不良に対抗すべく有志が立ち上げた活動である。その任務は恐喝されていたりいじめにあっている生徒の救出。
 正しい心を育成するためとクラブ活動扱いにはなっているが、あくまで任意で強制ではないので委員会ではない。
 ただ、その粛清は黙認されている。もっとも教師自体が、先に手を出す無限塾ではあるが。
 不良生徒たちはこの抗争に疲れ果てて逃げ出すか、本気で遣り合うことにより昇華され更生するかである。
 余談だがこのクラブに属していた面々の就職先は、ほとんどが警察官である。
 麻神久子もまたその正義感から入部していた。一年のホープであった。彼女は熱く語り出す。
「先生。ウチのクラスには遅刻をするような不届き者はいません。
 遅刻…ああ…なんておぞましい響きの言葉でしょう。時間を守ることが正しい生活への第一歩なら、時間にルーズなのは悪への第一歩。
 そもそも正義の味方がピンチのときに遅れてきたらどうなります? 悪が栄えてしまうではありませんか」
「まじんちゃん」
 左後ろのロングヘアの美少女が甘い声でたしなめるが、一度突っ走った麻神久子は誰にも止められない。
 ここまでで一年一組の生徒は全員が理解していた。それでも親友であるその少女としては、止めないわけにも行かない。
 だが久子は自分の世界に浸りきったまま陶酔した表情でオーバーアクションを交えて続ける。
「正義!! それは悪の天敵。その資格はまず規律ある行動。時間も守れずしてどうして正義が守れるでしょう。
逆にいえば時間も守れないような人。それすなわち『悪』!!
 悪はこの『正義クラブ』の麻神久子が成敗して差し上げましょう」
(キム・カッファンか。あいつは)
 クラスメートの一人が心中で突っ込むが、下手に口出しすると『成敗』されかねないので黙っている。実はこの小柄な体躯に反して久子の力は強い。
「あの…その…チャチャちゃん?」
 今度は右後方のボブカットの美少女が、甲高い泣きそうな声で制止をかける。
 ちなみにこの『チャチャ』は『久子ちゃん』が転じた物。だからさらにちゃん付けは奇妙と言うことになる。
「なに? みなみちゃん」
 やっと気がつき凄まじい勢いでボブカットの少女…佐倉みなみのほうに振り向く。
 気圧されたみなみは言葉が出なくなる。代わりにロングヘアの少女…谷和原友恵が久子に注意する。
「みなさんの注目を集めてますわよ」
「え゛!?」
 久子は外見以上に独特で個性的な通称『濁点ボイス』で驚きの声を上げた。見渡せば確かに大半が呆れ顔だ。自分の暴走を悟り赤面する。
 言わせるだけ言わせていた担任・藤宮博が苦笑いしながら言う。
「麻神。正義を愛する心はけっこうだが……ホームルームの邪魔はするな」
「は…はぁーい。先生。つい誰にも負けない正義の心が熱すぎて」
 ちっちっちっと(暑苦しいが)ハンサムな担任はキザに指を振る。
「なかなかやるな。だが日本じゃ2番目だ」
「そんな!!それじゃ誰が一番正義を愛すると」
 担任は自分の顔を指差した。
「この俺さ」

 悪漢高校。
 七瀬に怪我は治されたものの、綾那に根こそぎ体力を奪われたために動けなかった四季隊だが、やっと動けるようになり出てきていた。
「体は良いのか。おまえたち」
「は…はい。どうやら思ったより軽傷だったようで」
 春日が照れ笑いを浮かべて報告する。
 秋本は総番の首を取るためにあえて配下となり、寝首を掻くチャンスをうかがっている。
 冬野は総番の下につくのが最も安全と計算しての行動だが春日と夏木。この二人は総番に心酔しているがゆえの配下だった。
 奇妙な表現だが、憧れの人物に声をかけられて舞い上がっている状態だ。
 余談だが彼が忌み嫌う『サル』と言う呼び方を総番にだけは喜んでさせている。
 それは総番を織田信長。自身を豊臣秀吉に見たてているからである。
「そうか。ならば良い。露払いを任せるぞ」
「では、いよいよ総番が?」
「ああ…これはいわば私闘。やはりこのおれ自身が無限塾に乗りこみ『あの男』に鉄槌を下さねばならん」
 今度は反論できなかった。チーム戦でも敗退したのだ。それで何が言えようか。
『待てっ。こらっ』『そっちは総番の』『邪魔だよ』
「ああ?」「効き慣れない声が」
 まもなくして扉が開かれた。そこに立つのは二人の男だった。一人は中年のトレンチコートの男。もう一人は背広のメガネの男だった。
「ああ失礼。君が総番くんだね?」
 どことなくとぼけたトレンチコートの男だった。
「なんだてめぇ。このガッコのセンコーでもねえな」
「重ね重ね失礼。私はこう言うものでね」
 がなりたてる冬野に彼は『警察手帳』を見せた。
「で…デカか」
「警視庁新宿署の上条です」
 年下相手なのだが丁寧に例をする上条繁。
「警察が何の用だ」
 あくまで落ち着き払った総番。上条刑事は懐から写真を取り出す。
「こちらの生徒さんでしょう。職員室に行ったらこちらに伺うのが早いといわれましてね」
 一枚はスキンヘッドの男。もう一枚はモヒカンがりの男の写真だった。
「ご存知でしょうがね。彼ら…戸坂敦夫くんと鶴見光くんは、月曜の朝を最後に帰宅してないらしくて。
 昨夜ご家族から捜索願が出されましてね。いくら高校生の男子でも未成年には違いない。
 三日も帰らなけりゃ心配にもなりますな。ウチにも今年入学したせがれがいましてね。人事じゃないと言うわけですな」
 軽い乗りの世間話。さえない中年親父。そんな仮面に四季隊はだまされて警戒を解く。
 例えやましくなくても、警察官の来訪は緊張して、過度に対応するであろう。だからあえて軽い乗りをする。
 妙にあっさり身分を明かしたのもそれだ。警察官が事情聴取なら不思議ではない。
「ム…そいつらなら俺の配下だ。そういや抜けたまま来てないが、怪我でもしたんだろうと放っていたが」
「怪我でもするような事態とは?」
 恐らくはこちらも刑事であろう眼鏡の青年が、柔和な口調で鋭い突っ込みをいれる。彼は手帳を取り出す。
「月曜日。通称・悪漢高校は無限塾との抗争に出向く。指揮を取ったのはここで四季隊と呼ばれる大幹部4名。
 その際に目標としていた人物たちの逃走を防止するため春日軍。夏木軍。秋本軍。冬野軍。それぞれ二十名が追随。
 失踪した二名は冬野軍と呼ばれる中に所属。脱出に成功した無限塾教師。中尾勝。
 そして無限塾一年女子。小山ゆかりの両名を追跡中に行方不明となる」
 四人は唖然としていた。たった一晩で良くそこまで…見事な調査力といえた。
「大久。もう良いよ。さて…抗争自体にはどこからも被害届が出てないので問いませんがね。とにかく彼らの心当たりを探してるんですよ」
「あいにくだが自力で帰って来れない脆弱な奴らになど興味はない。知りたければ最後に確認されている無限塾にでも出向くが良いだろう。
 あそこは甘っちょろい理想を掲げているからな。優しく丁寧に教えてくれるだろう」
 この総番には珍しく嘲笑するように言う。
「いやそうですか。じゃそうしましょう。それじゃどうも」
 刑事二人はあっさりと帰って行く。元より空振りも見越していたのだ。だが彼らは他の捜査もあり無限塾を訪れるのは翌日となった。

 ホームルームの時間に、堂々と校庭を突っ切り玄関に歩く真理の姿は目立つことこの上ない。窓から2列目の久子の席からでも良く見えていた。
「あ゛―っっっっ。遅刻遅刻遅刻ぅぅぅぅぅっ。いけないんだっ。悪ね。きっとそうだわ。成敗しなくちゃ」
「……その前にホームルームの邪魔をする正義があるか…」
「はっ!?」
 我に帰ると藤宮が睨んでいた。縮こまる久子。彼女は廊下に立っているように命ぜられた。この辺りは70年代をしょっている藤宮ならではだった。だが

 久子がいるのが一年一組。そして真理がいるのが一年二組。教室は隣り合わせ。このシチュエーション。衝突しないはずもない。
「来たわね。遅刻魔。定刻を守れぬものは規律を守れない。それ、すなわち悪。悪はこの麻神久子が成敗して差し上げましょう」
 いきなり突っ込むが
「邪魔だよ」
 つっけんどんと言うか、ぶっきらぼうと言うか、あっさり力の向きを捌かれて久子は壁に激突。真理は何もなかったかのように教室へ。
 久子はそのままのびていた。

「おそくなりましたー」
 悪びれず真理は言い自分の席へと向う。中尾が黙っているはずもない。
「村上。今が何時だと思っている?」
「すンません。寝坊しました」
 見え見えの言い訳だが深く関わるつもりがないのか
「仕方のない奴だ。以後…気をつけろ」
「はぁーい」
 何事もなかったかのように席に向う真理。だが両者とも心中で舌打ちをする。
(ちっ。この女…どことなくつかみ所がない…行動の予測が出来ない。こう言うトラブルメーカー…不穏分子は困る。
 だが小山ゆかりの件でざわついている。二人も消えたらさすがにまずい…)
(けっ。逐一うるせーぜ。カオスの奴。それにしても『犯人』の野郎。どこかでのうのうとしてやがるのか…面白くないっ)
 中尾こと斑。そして真理は共に追う者。追われるものの関係があった。
 だが二人ともそれを知らない。こんな身近に敵がいることに気がつかない。

 ホームルームが終わりいつものメンツが真理の周囲に集まる。
「真理ちゃん。お寝坊さんだねっ」
 真理の言葉を真に受けた…ろくに考えずに綾那が言う。真理は面倒くさそうに訂正する。
「違うよ。寄ってたんだ。『あそこ』にな」
 それで充分だった。そこはゆかりが死んだかもしれない場所。
 『かもしれない』とはやはり死体を見ていないからだ。決定的であるものの時間がたつと実は死んでないのでは思えてきた。
「村上…こう言っちゃ何だけど…お前や榊原の間違いってことはないか?」
 二人のプライドに触れて、怒鳴られるのを覚悟でみずきは尋ねた。意外にも静かに真理は答える。
「そうあってほしいのはアタイ自身さ…だがあんなに強い恐怖が、これには刻み付けられていた。生きているかもしれないが無事ではすんでない…」
 そっと銀の十字架に手をかける。ゆかりの机は無人のまま。
「うーん。それにしてもすすまねぇ。いっそ学校ふけて探してやろうかな」
「例えば職員用の女子トイレでわざと喫煙を見つかって意図的に停学食らうとか? それなら学校に出てこなくても誰も怪しまないよな」
「アタイはタバコが嫌いだ」
 言うとすっと立ちあがる。
「あ…ボクも行くゥ」
 綾那がとてとてとついて行く。
「御不浄でしたらお供させてください」
 姫子までが連れ立っていく。十郎太がついて行かない。ついて行けない場所だ。みずきは七瀬に尋ねる。
「なんで女って奴は連れションが好きなんだ?」
「あんただって(半分といえど一応は)女でしょ」

 昼休み。久子は結局、その後はすれ違い。改めてと思ったが友恵の『作戦会議』の一言に弁当を食べながらのそれだった。
「あの女。ものの見事に私を無視してくれました。いい度胸です。正義を敬わないとは」
「そうですねぇ。やはりもっと効果的な登場をしたほうが良いんじゃないでしょうか」
「ねぇ…やめようよ。あの村上さんだって、見た目は怖いけど遅刻以外に悪いことしてないし」
 佐倉みなみが泣きそうなか細い声で言う。
「効果的な登場!! 例えばどんな」
 だが二人は聞いてない。さらに泣きそうになるみなみ。
「そうですわね。やはり正義は正義らしく堂々と名乗りをあげるべきだと思いますわ」
「堂々と。確かにそうですが」
「まじんちゃん。木登りは出来ますわね?」
 おっとりと甘い声でにこやかに友恵は続ける。
(私の話も聞いてよぉ)
 しかし小心者のみなみには心の中で叫ぶしかなく、黙ってご飯を食べるだけであった。

 下校時刻。今日もひとかたまりになっての下校だ。
 ほとんどが電車通学。真理は徒歩。姫子は家から車が来るが、この時間を大切にしたいために駅前で車に乗る。
 十郎太は身分違いと辞退。そして屋敷までの帰り道は良い鍛錬であった。彼には学校の体育程度では鈍って仕方がない。鎖帷子でもまだぬるいのである。
「お待ちなさい」
 正門間近で凛とした声が響く。一同いっせいに姫子のほうを向く。
 「お待ちなさい」と言う物言いと女の子の声だったからだ。代表してみずきが聞く。
「姫ちゃん。なに?」
「いいえ。わたくしは何も申し上げていませんわ」
 ゆっくりと頭を振る。思わず顔見合わせるみずきと七瀬。
「こっちです。こっち」
 さっきの声が再び。心なし焦っているような。
「そこか」
 さすがは忍び。十郎太が一番早く探し当てた。遅れてみんなも見て…仰天した。
「な…なんだよ。お前は」
 さすがに今度は注目を浴びた。校門わきの植樹の太い枝に、麻神久子がブレザーの裾をはためかせて立っていたのである。
 これには真理だけでなくみんな驚いたが
「惜しい。どうせならギターかトランペットがほしかった」
 妙なことで残念がる上条。麻神久子はそれには構わず、真理をビシッと指差すとたからかに『口上』を述べた。
「この麻神久子。悪党に名乗る名前などない」
「……思いっきり名乗っているじゃねーか・・・…」
「あ゛…しまった。これではマヌケに見えてしまいます」
 真理の冷静な突っ込みで気まずい沈黙。破ったのもその真理だった。
「もう充分にマヌケだよ。で…どこの誰が『悪』だって」
「もちろんあなたのことです」
 久子は言うや否や枝から飛び降りる。空中で回転して華麗に着地…仕損じて顔面から。
「うわ…アメリア姫そのもの。マヌケぶりは赤ずきんチャチャだが」
 しかし久子は何事もなかったかのように、バック転しながら間合いを取り、さらにビシッと指差しポーズを取る。
「自覚すらしてないなら教えてあげましょう。まずは校則を破って改造制服を纏い、そして髪を染める」
 「髪を染める」の一言が真理の逆鱗に触れた。彼女の一番いやな思い出がこの髪の色にあった。この髪の色でどれだけ偏見にさらされたか。
 染めることも考えたが偏見に屈したようでいやだった。それに母親の形見のようでそれを自分で消したくなかった。
 久子はその『聖域』に土足で無神経に踏みこんだ形だ。
「あまつさえ時間を守れない。決まりごとも守れない。人、それを悪と呼ぶ。悪はこの正義クラブ。麻神久子が成敗して差し上げましょう」
「なんだと。この野郎」
 ここまでいわれては元々気の長いほうではない真理が黙っていられるはずもなかった。臨戦体勢だ。

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