岐阜の日本酒【射美(いび)】“日本一小さな蔵元”から生まれる逸品

岐阜の日本酒【射美(いび)】“日本一小さな蔵元”から生まれる逸品
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「射美」は、造り手と地元農家が連携して開発したオリジナルの酒造好適米をはじめ、地元産の原料にこだわった岐阜県の地酒。最近では、定番商品に加えて「無ろ過生原酒」でも日本酒好きを魅了しているという、「射美」の人気の秘密を探ります。

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「射美」は“美酒を射る”志から生まれた酒

「射美」は“美酒を射る”志から生まれた酒

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「射美」は、揖斐川とその支流、根尾川に囲まれた、岐阜県揖斐郡大野町で育まれている、日本酒ファンに話題の地酒。
「射美」という銘柄の名は、地名の「揖斐」と、「美酒を射る」という志からつけられたそうです。

「射美」の製造元、杉原酒造は明治25年(1892年)に創業した100年の歴史をもつ蔵元。現在は従業員が、社長を務める杉原庄司氏と、酒造りを担う5代目慶樹氏の親子2人だけという、自称“日本一小さな酒蔵”。
慶樹氏は、家業を継ぐため、会社員から転身して酒造りを始めたそうです。名酒と称えられている三重県の地酒「而今(じこん)」の造り手とは、ともに学んだ仲だとか。

そんな切磋琢磨のなかで、2009年に誕生した銘柄が「射美」。なかでも最近、高い評価を得ているのが「射美 槽場(ふなば)無ろ過生原酒」です。ろ過や熱処理などをいっさい行わずに出荷するのは、近年の日本酒のトレンドのひとつですが、慶樹氏は、その搾りたての風味に確かな手応えを感じ、「射美」シリーズの中核商品に据えています。

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「射美」の酒米は農家とともに開発した専用品種

「射美」の酒米は農家とともに開発した専用品種

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「射美」の原料米「揖斐の誉(いびのほまれ)」は、杉原酒造が地元農家とともに開発した、オリジナルの品種です。

もともと、県内でも美濃エリアに位置する揖斐の地は、冷涼な飛騨エリアに比べて夏季の気温が高く、質の高い酒米の栽培には不向きといわれていました。しかし、慶樹氏の「美酒を造るには、よい酒米作りから」との心意気に打たれた地元農家が、品種交配に挑戦。
試行錯誤の末、代表的な酒造好適米「山田錦」と、愛知県で生まれた「若水」の2種類をかけ合わせ、「射美」専用の酒造好適米「揖斐の誉」の開発に成功しました。

現在、地元農家では、所有する田んぼのなかに専用のスペースを確保して、大切に「揖斐の誉」を育てているのだとか。
そんな独自の品種を使い、誕生したのが「射美」。“地元の自然が育てた、地元産の原料米で醸す”という、地酒造りの原点回帰を果たした日本酒なのです。

「射美」は常に向上し続ける酒

「射美」は常に向上し続ける酒

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「射美」は、「無ろ過生原酒」で注目を集めている銘柄ですが、そのベースとなる味を支えているのは、地酒らしい、地元志向の手間暇かけた酒造りです。

仕込み水には、原料米「揖斐の誉」の栽培に使うものと同じ、蔵の近くを流れる揖斐川の伏流水を使用。発酵を司る酵母には、酒造場にすみついている「蔵つき酵母」を用いています。

原料だけでなく、酒造りの工程にもこだわりがあります。もろみを搾る際、一度に大量に搾るのでなく、「槽(ふね)」と呼ばれる伝統的な容器や、袋吊りといった昔ながらの手法を貫いています。

このように、原料や工程に独自のこだわりを見せるからといって、現状維持をよしとはしていません。「射美」は「常に変わらない味」ではなく「常に変化を求め、上をめざしている」お酒です。
その証のひとつが、原料米である「揖斐の誉」の改良。現在では、品種系統の異なるタイプも開発され、酒造りに活かされています。

いっさい妥協しない、ていねいな酒造りと、常に向上を求める姿勢。
進化を遂げ続ける「射美」に、これからも目が離せません。

「射美」は、蔵元が信頼関係を築いた酒販店で、店頭販売を基本に扱われています。人気の高まりとともに入手が難しくなり、今や“幻の日本酒”とも呼ばれている「射美」ですが、それだけに出会いの喜びも大きいはず。まめに探して、ぜひ手に入れてみてください。

製造元:杉原酒造株式会社
公式サイトはこちら

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岐阜の日本酒【小左衛門(こざえもん)】常に挑戦し続ける蔵元の酒

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出典 : 蔵元 小左衛門・始禄公式フェイスブック

「小左衛門」は、木曽川をはじめ土岐川や屏風山など、豊かな自然に恵まれた岐阜県瑞浪(みずなみ)市の地酒。選りすぐりの原料米を使って生み出される「小左衛門」シリーズの魅力や、蔵元である中島醸造の300年以上にわたる歴史を紹介します。

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「小左衛門」を育んだ蔵元の軌跡

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出典:蔵元 小左衛門・始禄公式フェイスブック

「小左衛門」の蔵元、中島醸造は江戸時代中期の元禄15年(1702年)、現在の岐阜県南部にあたる美濃の地で庄屋を務めていた初代中島小左衛門が、年貢米を活かして清酒造りを始めたことを機に創業しました。

以来、300年余にわたって酒造業を営むなかで、大きな転換点となったのが1997年。純米酒や本醸造酒といった特定名称酒の生産割合を高めると同時に、お酒を製造後、1年以上熟成させる古酒造りに着手したことでした。
翌年には、製品のラベルに、スイスの近代画家パウル・クレーの作品を採用するなど、日本酒離れしたラベルデザインにも注力し始めます。

そんな挑戦の日々から、2001年に誕生した銘柄が、初代中島小左衛門の名前を冠した「小左衛門」です。その魅力は、ブームを経て主流となった“淡麗辛口”とはあえて逆をゆく、米の旨味を活かした“旨口”。飲む人に鮮烈な印象を残す味わいで、今や中島醸造を代表する銘柄となっています。

「小左衛門」は選りすぐりの酒米が魅力

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出典:蔵元 小左衛門・始禄公式フェイスブック

「小左衛門」は、年貢米を使って家業を興した蔵元のお酒だけあって、とりわけ原料となる米選びに力を入れています。岐阜県産の「ひだほまれ」、地元農家と二人三脚で育てた「美濃瑞浪米」といった地元産はもちろん、良質の酒造好適米を広く全国に求め、生産者の顔が見えるものだけを取り入れてきました。

たとえば、日本酒好きに“雄町”と呼び親しまれている岡山県産「備前雄町」や、そのなかでも赤磐地区で栽培されている「赤磐雄町」、長野県産「美山錦」、山形県産「出羽燦々」など、採用している品種はじつにさまざまです。

珍しいところでは、山田錦を生み出した山田勢三郎氏の後継者、山田正壽氏から特別に譲り受けたという、話題性に富む米も。
そんな原料米の多彩なバリエーションは、「小左衛門」の人気を支えるひとつの要因になっているようです。

「小左衛門」シリーズの通年商品を飲み比べ

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出典:中島醸造サイト

「小左衛門」をはじめ、中島醸造が造る日本酒は、「甘・辛・渋・苦・酸」の五味のバランスに優れた、深い旨味が特徴。幅広い料理に合わせやすく、「食中酒」にピッタリです。
多彩な限定品も評判ですが、ここでは通年販売されている3商品を紹介しましょう。

【小左衛門 特別純米 信濃美山錦】

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