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蔵元特別インタビュー
日本酒「蓬莱」蔵元。様々な経験を経て、現在では、知る人ぞ知る有名な醸造家となる。もちろん、数々の賞の受賞や新聞・雑誌での掲載は言うまでもない。日本酒の命ともいえる酒米の入手には、酒米生産者との親密な関係を築くなど、醸造する以上の神経を注ぐ。
料理、音楽、特撮作品への造詣も深い。
料理、音楽、特撮作品への造詣も深い。
- まずは最高金賞受賞、さらには6年連続金賞受賞おめでとうございます。蓬莱のお酒が世界に認められて、どんな心境ですか。
- 「世界最高峰の酒をつくりたい。」醸造に携わるものなら、世界中の誰もが夢見ることだと思います。2002年から6年連続して欧州の審査員から高い評価を得たことは、醸造者としてはこの上ない喜びです。これからも、さらにおいしい「蓬莱」を提供していきたいと思っております。
- 酒造りにおいては、ご苦労も多いことと思われます。特に大吟醸酒の造りは過酷とお聞きしますが?
- 大吟醸酒の造りは酒造りの中でももっとも厳しいものです。米粒の3分の2近くを糠にしてしまうほどの高精白、そして、あえて酵母が活動しにくい低温で発酵させます。そのためには人手もかかりますし、時間もかかります。さらには、大吟醸酒を製造する技術をすべての酒造りに応用することにより、どのステージの酒であっても最高のものを目指します。大吟醸のみならず、蓬莱はすべて高品質な酒であると自信を持って言えるような酒を造るのが私たちの使命であり、信念ですね。
- 消費者の好みが多様化するなかで、日本酒が近年消費量を落とし、「日本酒離れ」と呼ばれる事態に陥っています。
- 「日本酒離れ」なんて言ったら、まるで、かって日本酒を飲んでいた人が日本酒から離れてしまったようですね(笑)。私が見たところ、多くの人は日本酒から離れる以前に「まだ、出会ってもいない」。この20年というもの、日本酒の質は著しく向上し、今や宝の山です。ただし、良い酒は、石ころのようにどこにでも転がっているわけではない。けれども意識して探せば、心が震えるほどおいしくて、体にも優しい酒に必ず巡り合えますよ。
- 日本古来から受け継がれてきた醸造という製法を用いる伝統産業は、今は岐路に立たされていると思います。今後の日本の食文化が心配です。
- 日本酒は小さな小さな生き物です。生き物を扱う私たち、造り手の心のあり方が最も大切なんだと思っています。他のお蔵の酒を飲んでも、この酒を造った杜氏さんはどんな人かな、とか、蔵のご主人はどんな人生観をもっている人なのかな、とお酒を通して人間の生き様を感じてしまうのです。もちろん技術も大切ですけど、人の心というところから逃げるわけにはゆかない。酒は心でつくるもの。“心”や“人間性”という次元で酒造りを考えています。
- 最近の日本酒のトレンドを教えてください。
- 今は香りが高い甘めの酒がトレンドです。全般的に料理の味が濃くなっているせいか、輪郭のはっきりした酒がうける傾向にあります。しかしこれからは、香りそこそこ、かつ自然で素直な味わいの酒。2杯目が自然に欲しくなる酒。食べながら飲む酒を、もう一度見直さなければと思っています。
- “蓬莱らしさ”ってなんでしょうか?
- 一言でいうと「3秒で幸せになる酒」(笑)。米から生まれた醸造酒ゆえの、やわらかで優しい旨味が特徴でしょう。バランスよく、きれいで、ふっくらとした旨口の酒、と願っています。でも「この味でよし」と満足することなどないでしょう。毎年が一からの挑戦です。
- どんなお酒を造るのが理想ですか?
- 蓬莱の酒の味は飛騨古川でしかできないでしょう。良い酒を造りたいと心から願い、それを愚直なほどにやりとおすこと。それに加えて飛騨の米、水、雪、風、土。そして、そこに暮らす人々の思いがこめられた酒。それこそが私たち蓬莱の理想とする味ですね。
- 最後に今後の展開をお聞かせください。
-
現代の消費者は“モノ”ではなく、“ライフスタイル”すなわち“コト”を求めていま
す。今後の展開は、新しい技術や商品を開発する垂直展開のみならず、消費者を対象にし
た酒造り体験や蔵祭りの開催など、酒蔵をベースとした水平展開のマーケティングが重要
になります。よく聞かれるのですが、経営スタンスは「伝統8・革新2」の割合です。以
外に保守的と思われるかも知れませんが、5年続ければ「革新10」で一新するものです(笑)。
変化を恐れず、いろいろな可能性に挑戦したいと考えています。
-力強いお言葉をいただき、元気をいただきました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。