【新型コロナ】高血圧治療薬がCOVID-19重症化を予防 ACE阻害薬やARBを服用している患者は意識障害が少ない

日本初の臨床的アウトカム検討「Kanagawa RASI COVID-19研究」
 横浜市立大学などの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患前からのレニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)の服用とCOVID-19の重症度との関係について、神奈川県内の6医療機関による多施設共同後ろ向きコホート研究により検討した。
 その結果、高血圧症患者では、COVID-19の罹患前からACE阻害薬やARBを服用していると意識障害が少ないことが明らかになった
COVID-19の重症化・予後不良と最も関連するのは「高齢(65歳以上)」
 横浜市立大学などの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病態に影響を与える背景や要因を解析するため、多施設共同後ろ向きコホート研究「Kanagawa RASI COVID-19研究」を実施している。これは、臨床アウトカムを検討した日本での最初の研究だ。

 研究グループは、2020年2月1日~5月1日に、循環器・腎臓・高血圧内科学教室関連の神奈川県内の6医療機関(横浜市立大学附属市民総合医療センター、神奈川県立循環器呼吸器病センター、藤沢市民病院、神奈川県立足柄上病院、横須賀市立市民病院、横浜市立大学附属病院)に入院したCOVID-19患者151人を対象に調査した。

 その結果、患者全体を対象とした単変量解析では、▼高齢(65歳以上)、▼心血管疾患既往、▼糖尿病、▼高血圧といった要因が酸素投与を必要とする重症の肺炎と関連があり、多変量解析では、▼高齢(65歳以上)という要因が重症の肺炎と関連があることが分かった。

 また、高血圧のCOVID-19患者での検討を行った結果、降圧薬であるレニン-アンジオテンシン系阻害薬[アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)]をCOVID-19罹患前から服用している患者では、COVID-19に関連した意識障害が少ないことが明らかになった。

 研究の結果、レニン-アンジオテンシン系阻害薬がCOVID-19の重症化を予防する可能性が示唆された。現在、世界的なパンデミックが起こり、日本においても感染流行の第2波が広がっている状況下で、研究で得られた知見は重要な示唆を与えるとしている。

 研究は、横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室(田村功一・主任教授)、横浜市立大学附属市民総合医療センター心臓血管センターの松澤泰志講師らが、量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長、国立循環器病研究センターの小川久雄理事長、横浜市立大学医学部救急医学教室の竹内一郎主任教授らと共同で行ったもの。研究成果は日本高血圧学会の機関誌「Hypertension Research」に掲載された。
ACE阻害薬やARBがCOVID-19重症化を予防
 主要な降圧薬であるACE阻害薬やARBは高血圧患者に広く使用されている。アンジオテンシン変換酵素(ACE)は2種類(ACE1、ACE2)あり、ACE1は昇圧物質のアンジオテンシンII(Ang II)を生成して高血圧、臓器障害をもたらし、ACE阻害薬が有効となる。一方、ACE2はアンジオテンシンIIを分解(不活化)して降圧作用、臓器保護作用を有し、ACE阻害薬では阻害されず、ACE阻害薬やARBで発現が増えることも報告されている。

 新型コロナウイルスは、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を受容体として細胞に侵入するため、新型コロナウイル感染症とレニン-アンジオテンシン系との関連が注目されている。

 ACE2はウイルスとともに細胞内に取り込まれ、細胞膜上のACE2発現は低下する。ACE2は膜タンパクでありアンジオテンシンII(Ang II)の不活化作用を有するが、新型コロナウイルス感染はACE2発現を低下させ、Ang II増加・活性増強を起こすとされている。

 Ang II活性増強は炎症性サイトカインストームを引き起こし、肺障害の最重症型である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)へと進展を促すことが示唆されている。

 レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)はAng II系を抑制する薬剤であり、COVID-19での炎症性サイトカインストームからの重症化を抑制する可能性が指摘されている。

新型コロナウイルス感染症の病態とレニン-アンジオテンシン系、ACE2との関係
出典:横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室、2020年
ACE阻害薬やARBがCOVID-19による院内死亡、人工呼吸器使用、ICU入室の頻度を減らす
 「Kanagawa RASI COVID-19」研究の主要評価項目は、(1)院内死亡、(2)体外式膜型人工肺(ECMO)使用、(3)人工呼吸器使用、(4)集中治療室(ICU)入室。副次評価項目は、(1)酸素療法、(2)新規または増悪する意識障害、(3)収縮期血圧90mmHg以下、(4)CT検査での肺炎像。また、酸素療法以上の治療を要した肺炎を「重症肺炎」とした。

 まず、患者全体を対象とした単変量解析の結果は、高齢(65歳以上)、心血管疾患既往、糖尿病、高血圧症が酸素投与を必要とする"重症肺炎"と関連し、さらに、多変量解析の結果では、高齢(65歳以上)が"重症肺炎"と有意に関連した。

全対象患者における"重症肺炎"に関与する因子
出典:横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室、2020年

 次に、高血圧症患者を対象に解析を行った結果、降圧薬であるレニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)をCOVID-19の罹患前から服用している患者では、服用していなかった患者よりも、主要評価項目の複合、院内死亡、人工呼吸器使用、ICU入室の頻度が少ない傾向が示された。

ACE阻害薬やARBの服用群ではCOVID-19に関連する
院内死亡、人工呼吸器使用、ICU入室が少ない

出典:横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室、2020年

 また、副次評価項目に関しては、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)をCOVID-19の罹患前から服用している患者では、服用していなかった患者と比較して、COVID-19に関連した意識障害が有意に少ないことが分かった。

ACE阻害薬やARBの服用群ではCOVID-19に関連する意識障害が少ない
出典:横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室、2020年

 結果として、レニン-アンジオテンシン系阻害薬がCOVID-19重症化を予防する可能性が示唆された。

 COVID-19の感染予防、重症化させない治療法の確立が急がれており、国内外で開発中のCOVID-19治療薬は、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬と、重症化によって生じる「サイトカインストーム」や「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」を改善する薬剤に分けられる。

 「レニン-アンジオテンシン系阻害薬であるACE阻害薬、ARBは後者の薬剤として期待されており、今後はさらなる大規模集団で検討し、その有効性を証明することができれば、COVID-19の重症化予防や治療効果の向上へ貢献できる」と、研究グループは述べている。

横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室
Renin-Angiotensin System Inhibitors and Severity of Coronavirus Disease-2019 in Kanagawa, Japan: A Retrospective Cohort Study(Hypertension Research 2020年8月21日)
[Terahata]

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