防弾少年団が全米で人気を博する「歴史的・文化的・政治的」背景

これはトランプ政権への「反逆」なのか
川崎 大助

物議を醸した謎キャラ「ユニオシさん」

さてところで、アメリカがこの「大いなる転換点」を迎える前の状況も、ここで振り返っておこう。

つまり「東アジア人男性が非モテの象徴」だった、ということを証明するアイコンは……悲しいことに枚挙にいとまがないのだが、とはいえ、どんなときにも外せない象徴的人物が、映画版の「ユニオシさん」だろう。

ユニオシさん(photo by Wikipedia)

61年の映画『ティファニーで朝食を』にて、ミッキー・ルーニーがこの役を演じた。

カポーティの原作では「ユニオシさん」は謎めいた日本人紳士だったのだが、映画版ではあからさまに人種・民族的偏見に塗り固められた謎キャラクターへと改変されていて、物議をかもした。

『ティファニーで朝食を』

太平洋戦争中に米軍関係者に大量に配布された、日本軍兵士を侮蔑的にデフォルメしたイラストの延長線上にあるような造形だった、のかもしれない。

そして、この「ユニオシさん」的キャラクターは、米映画界で連綿と再生産され続けた。80年代で最も有名なのが、ジョン・ヒューズ監督の青春映画『すてきな片想い(原題・Sixteen Candles)』(84年)に登場する「アジアから来た留学生」〈ザ・ドンガー〉ことロン・ダック・ドンだろう。

Long Duk Dong(photo by Wikipedia)

日系人俳優、ゲディ・ワタナベによって演じられたこの「差別的」なコメディ・ロールは、彼の多くの同胞、日系人を含むアジア系アメリカ人の「とくに若い男性」に、当時かなり深刻な自意識上のダメージを与えた。

『素敵な片想い』

日本の漫画やアニメから

その模様を漫画に描いたのが、日系4世アメリカ人のコミック作家、エイドリアン・トミネだ。僕の古い友人でもある彼は、成功者だ。

いまや著作は〈ニューヨーク・タイムズ〉のベストセラー・リストに載り、〈ニューヨーカー〉の表紙も定期的に描いている……という彼も、やはり〈ザ・ドンガー〉のせいで、仄暗い高校時代を送ったのだという。

そのときの模様を漫画にした(漫画にて決着をつけた?)のが、『ザ・ドンガーと僕』と題された一篇だ。苦みとユーモアをともなったこの作品、こちらのリンクから読むことができるので、ぜひご覧いただきたい。

そのエイドリアンにも、質問してみた。80年代のアメリカはカリフォルニアで「日系人の高校生」だった気分というのは、どんなものだったのか? 当事者の声を聞いた。

「キミが言うとおり、いまはいろんなことがすごく変わったよね。僕が高校生だったころには、考えもつかなかったほどに。あのころ、アジア系であることは、まったくもって『ノット・クール』だった。

たとえばアジアの料理とか音楽やアートなんてのは、『自宅のなかだけに留めておくような秘密』の類だった

だから、すごくびっくりしたよね。K−POPがアメリカのメインストリームで歓迎されていることには、驚き続けている。

『江南スタイル』(注・韓国人歌手PSYの曲。コミカルなダンスの振り付けとともに、2012年に大ヒットした)のヴィデオが先駆けとなったのかな? よくわからないけれど。

こうした変化は、日本の漫画やアニメに熱中するアメリカン・キッズが登場したときから始まっていたんじゃないかな。そこを発端として、アジア文化への興味や熱中がずっと育ち続けていたような気がする」

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