なんと言っても、忘れもしない、5月20日だ。
今年、2018年はBTSにとって大躍進の一年だったのだが、なかでも特記すべき晴れ舞台のひとつがこのときあった。アメリカを代表する音楽賞のひとつ、〈ビルボード・ミュージック・アワード〉の授賞式がそれだ。
前年に続き、彼らは2年連続でトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞した。米ネヴァダ州はラスヴェガスのMGMグランド・ガーデン・アリーナにて開催されたこのショウにて、出演者のだれよりも――というよりも、比較できる対象すらまったくないほどの――大歓声を、ステージ上で一身に集めていたのが、BTSだった。
書き起こすならば「きゃぁぁぁぁー」「ひゃあぁあああぁー」といった若い女性の声が、音割れしそうな特大のヴォリュームで、場内に鳴り響き続ける。
10代後半から、20代前半ぐらいが中心か。泣き出しそうな、あるいは、いまにも失神しそうな、歓喜に満ちつつ、同時に真剣そのものの表情が目立つ。
アジア系が半数か、もうすこし。そのほか白人も黒人も、あらゆる人種、民族がいる。授賞式なのでドレスを着ている人が多く、だからこそ逆に「眼鏡率」の高さも目立つ。日本で言うところの「腐女子」に近い雰囲気も……つまりこれが、「ARMY」と呼ばれるBTSのファンだった。
これらARMYの人数の多さ、そしてそこから発する「圧力」が、とにかくすさまじい。
司会のケリー・クラークソンが防音用のイヤーマフをして、「声援が大きいのでご注意を」なんてジェスチャーをしていたが、その程度のものでは防ぎようもない、この「歓声の量」は、まずもって同夜一番のスペクタクルだった。
言い換えると、この夜のBTSは、いや彼らに声を上げるARMYの熱情は、この夜のイベントに揃えられた、旬のスターや伝説級の大物、それらすべてのパフォーマンスを「一瞬で」記憶から吹き消してしまうほどのパワーがあった。
つまり、アリアナ・グランデ、エド・シーラン、ジェニファー・ロペス、ジャネット・ジャクソン(!)……といった顔ぶれに、まったく完全に「打ち勝って」いた。このことに僕は、衝撃を受けた。
このときBTSが歌ったのは、彼らのヒット曲「フェイク・ラヴ」だった。
サビの英語部分「フェイク・ラヴ」に、ARMYたちが怒濤の大音声で「フェイク・ラヴ!」と合いの手を入れる様は、僕の記憶するかぎりでは、70年代日本の歌謡曲男性アイドル、西城秀樹か郷ひろみの全盛期のコンサート映像を思い出させるものだった。
「応援に命を賭ける」女の子たちと、「懸命に頑張る」けなげな男性アイドルの蜜月関係、という連想だ。これがそっくりそのまま、K−POPのなかで再構築されたのちに「アメリカ最高峰のステージ上に移植され、花開いた」そんな現象として僕は見た。
ちなみに言い忘れていたが、「フェイク・ラヴ」を始め、BTSの歌詞は基本的にすべて韓国語だ。それを「あらゆる人種、民族の」ARMYが唱和する!のだ。
こんな光景が、アメリカで「起こり得る」なんて、僕は一度も、想像すらしたことなかった。それが、眼前にあった。まさに「天変地異」と言うほかない。