米津玄師、DA PUMP、あいみょん…国民的ヒットと日本の難題

そして世界では何が起きていたのか
現代ビジネス編集部

今世界的に求められているチャート

宇野 だからきっと、今世界的に求められているのは80年代におけるアメリカのカレッジチャート的な、オーガナイズされたオルタナティブだと思うんだよね。

かつてはそこでREMやザ・スミスのようなバンドの人気が出て、その流れの中でレディオヘッドのようなバンドのアメリカでのブレイクもあった。

今はApple MusicとかSpotifyにプレイリストを作ってるメディアや個人のインフルエンサーがいるけれど、そうじゃなくて、大学生のネットワークから生み出されたカレッジチャートのようなものが必要とされてるんだろうなと思う。

柴 まさに同意です。ストリーミングサービスが普及した、つまりメディアが変わったことによってヒットチャートが変わったことっていうのは、80年代にもやっぱりあったわけで。

宇野 MTVの時代がまさにそうだったよね。MTVの登場によってハードロックやAORの時代からポップの時代になって、そのカウンターとなったのがカレッジチャートのインディーロックだった。

でも、今ではそれが全部ラップに吸収されているんだよね。いつの時代も「上の世代に理解できない音楽」がユースカルチャーを牽引してきたわけで。10代の子は親が眉をひそめる曲を聴きたい。それってポップカルチャーの一つの本質じゃない? アメリカではラップがずっとその役割を果たしている。

柴 そうですね。そしてLINE MUSICのチャートを見るかぎり、日本においてはそれがK-POPである。

〔PHOTO〕gettyimages

「ノスタルジー消費」にはうんざり…

宇野 そう考えると、わかってないのは日本の音楽業界だけなんだなっていう感じがするな。例えばK-POPのローカライズ問題というのを話したけれど、TWICEが映画『センセイ君主』の主題歌でジャクソン5の「I Want You Back」のカバーをした。

これって日本のレコード会社の仕事でしょ? ジャクソン5は最高だけど、2018年において「I Want You Back」が気の利いたネタみたいに思ってるのって、本当に25年古いセンスで。あんなこすり倒されてるクラシックを今の時代にしれっと出してくるセンスには悪い意味で度肝を抜かれる。

TWICEは間違いなくパフォーマンスグループとしてものすごく優秀なわけだから、あんなことをやらせてスベらせるのは申し訳なく思っちゃう。

柴 そうですね。少なくともTWICEの他の曲に比べてもヒットしなかった。

宇野 ああいう“渋谷系脳“みたいなものが40代くらいのレコード会社の人間に残ってるのを見ると、ただただゾッとする。

自分と同年代の広告クリエイターがやってるからこそ気になるんだけど、若い俳優に90年代のJ-POPをカバーさせるようなCMも相当害悪だと思うよ。

松岡茉優が「どんなときも」を歌ったり、菅田将暉と中条あやみが「風になりたい」を歌ったり。

柴 高畑充希がX JAPANの「紅」を歌ったのもありましたね。

宇野 もちろん槇原敬之もTHE BOOMもX JAPANも偉大だし、CMとしてあれが機能するのはわかるけど、そういうノスタルジー消費にはとにかくうんざりするんだよ。若い子まで巻き込まないでほしいって思う。

クロスカルチャー/ネイションが当たり前

柴 でもきっと、ああいうものを見せつけられたら、才能ある若い人はそれを跳ねのけて勝手に面白いことをやるんですよ。

特に今の10代とか20代のアーティストの話を聴いていると、音楽の聴き方が全然違う。J-POPもK-POPもグローバルなポップ・ミュージックも隔たりなくフラットに受容して育ってきている。

宇野 そうだね。それにK-POPって言ってるけど、TWICEだってメンバーのうち3人は日本人だし、BLACKPINKだってオーストラリア人とタイ人がメンバーにいる。そういう現場ではクロスカルチャー、クロスネイションが当たり前になっている。

柴 オーディション番組の『PRODUCE 48』からIZ*ONEもデビューしましたからね。あのグループには宮脇咲良のような48グループ出身のメンバーもいるから、まさにJ-POPとK-POPのクロスカルチャーになっている。

いわゆるガールグループの分野でも当たり前にアジア圏の多国籍グループがメインストリームになっているし、一方でオルタナティブな分野ではSuperorganismみたいなDIYな多国籍グループが出てきている。

やはり2019年に起こってくるのは「J-POP」とか「K-POP」という枠組み自体の見直しになってくるんじゃないかと思います。

宇野 ローカライズの見直しの延長上にはそれがあるよね。そもそも今のポップミュージックっていうのはそういう風にできているわけだから。

柴 まさに同意ですね。今はまさに“渋谷系”を懐メロみたいにありがたがっているような時代じゃないと思うんです。

というのも、共著した『渋谷音楽図鑑』でフリッパーズ・ギターを手掛けた牧村憲一さんが語っていたことなんですけれど、渋谷系という現象そのものはどうでもいい、と。むしろ大事なのは、その源流になった80年代後半の大学生を中心としたインディー音楽愛好サークルだったと言う。

つまり、これって、今起こっていることと同じなんです。さっき宇野さんが言ったように、今の状況は80年代後半に近い。

80年代にMTVの普及がマイケル・ジャクソンやマドンナやプリンスのような新たなポップスターを生み出したのと同じように、2010年代にはストリーミングの普及がドレイクやカーディーBやポスト・マローンのような新たなポップスターの躍進を支えている。でも、その影には必ず見逃されているインディーやオルタナティブがある。

宇野 現実的に今のアメリカでは、そのニーズまでエモラップやクラウドラップのような、ラップのサブジャンルが満たしちゃってるんだけどね。

ようやく日本の音楽シーンも動き始めた

柴 でも、アメリカ以外を見ていくと、面白い動きは沢山ありますよね。

たとえばロンドンからはJorja Smith(ジョルジャ・スミス)やJamie Isaac(ジェイミー・アイザック)やTom Misch(トム・ミッシュ)のような新しいブルーアイドソウルを打ち出す才能が出てきている。

たとえばエレクトロニック・ミュージックの領域ではYves Tumor(イヴ・トゥモア)のような実験的なリズムの開拓をする人が出てきている。

たとえばフランスにはAya Nakamura(アヤ・ナカムラ)というアフロ・ポップとR&Bを融合させたスタイルを打ち出してる人もいるし、スペインにはフラメンコを今のストリートカルチャーの文脈でアップデートしたRosalia(ロザリア)という人もいる。

モンスターヘッドの存在感が増している一方でアンダーグラウンドな地下水脈が徐々に胎動し始めているというのが2018年のグローバルな音楽シーンの動きなので、そういうものをちゃんと日本のポップスの文脈につなげて解釈するというのが、今の時代に“渋谷系”的な感性を正しく蘇らせることだと思います。

宇野 ただ、海外のアンダーグラウンドの動きを正確に位置付けるには、まずはメインストリームで何が起こっているかの座標がなくてはいけないよね。

そういう意味でも、2018年の年末に星野源がマーク・ロンソンと、米津玄師がザ・ウィークエンドと日本でライブをやったのはとても大きな出来事だったと思っていて。

この流れで、今年のフジロックとサマーソニックが、昨年のケンドリック・ラマーやチャンス・ザ・ラッパーに続いてどういうブッキングを実現させるかにも注目したい。

いずれにせよ、ようやく日本の音楽シーンでも時代が大きく動き始めた感覚があるよね。ちょっと遅すぎたけど(笑)。

柴 いや、これからはスピードが上がっていくでしょう。若い世代でいろんなことが見えていて才能がある人はいるはずだし、きっとそういう人は必然的に世に出てくると思うので。

2019年は、この先の10年を担うような新しい価値観を持ったアーティストが登場してくるんじゃないかって、勝手に期待してますね。

【イベント情報】
日本代表とMr.Children』ヒット記念 宇野維正×柴那典 Jポップの現在と未来
イベントページ:https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/107264
イープラスはこちら
日程:
2019年2月7日(木)OPEN 18:30 / START19:30
場所:ロフトプラスワンウエスト
料金:前売り ¥2,300 / 当日 ¥2,800(飲食代別)※要1オーダー500円以上
出演:宇野維正、柴那典
内容:2018年の終わりにレジーとの共著『日本代表とMr.Children』を上梓した宇野維正が、昨年1月の「小沢健二ついて、ここだけで語ること」に続いて大阪ロフトワンプラスウェストのステージに再び。今回、トークの相手を務めるのは音楽ジャーナリストの柴那典(『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』『ヒットの崩壊』など)。Mr.Childrenの話だけでなく、Jポップの時代=平成を総括するとともに、次の時代のポップミュージックへの展望についてNGなしの本音だけで語り合う。各メディアで顔を合わせることもある2人ですが、実は2人でイベントを行うのはこれが初めてになります。
イベントページ:https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/107264
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