米津玄師、DA PUMP、あいみょん…国民的ヒットと日本の難題

そして世界では何が起きていたのか
現代ビジネス編集部

ストリーミング時代をどう捉えるか

柴 やっぱり、ここ数年、日本はグローバルな音楽ビジネスの潮流の変化にハッキリと乗り遅れていたんですよね。

2015年あたりからSpotifyやApple Musicのようなストリーミングサービスが本格的に普及して、ヒットの基準が「売れた枚数」から「聴かれた回数」になった。

音楽ビジネスのエコシステムとゲームのルールがそこで明らかに変わっているのに、日本では相変わらず「CDが売れない」なんて周回遅れの話が何年も続いていた。

とは言っても、Mr.Childrenや宇多田ヒカル、椎名林檎、松任谷由実のような大物アーティストが次々とストリーミングに音源を解禁して、その潮目がようやく変わってきたのが2018年だと思いますけれど。

宇野 でも、宇多田ヒカルとMr.Childrenは最新アルバムをストリーミングで解禁してない。CDのセールスを維持するためだっていうのは誰にでもわかることだけど、そういうダブル・スタンダードに興醒めしているリスナーも少なくないってことは指摘しておきたい。

そして、時代のトップに立っている星野源と米津玄師はストリーミングでまったく音源を解禁してない。それぞれアーティスト本人がストリーミングに対してどう思っているかは別として、ここ数年ずっと「ストリーミングによって音楽シーンが変わる」と主張してきた自分や柴にとって、そこは自分たちの間違いを認めなくてはいけないポイントなんじゃない?

柴 でも、これも時間の問題だと思います。ストリーミングって、ヒット曲を持っているアーティストにとっては確実に利益のあるビジネスモデルなんですよ。ファンが繰り返し音源を聴くことによって継続して収入が入り続ける。それにファンにパッケージの所有欲求があるかぎり、決してCDやレコードの市場を駆逐するものではない。

〔PHOTO〕gettyimages

LINE MUSICから見える10代のリアル

宇野 僕らのような仕事をしているとどうしてもSpotifyやApple Musicに目を向けがちだけど、若い世代にとってはLINE MUSICの存在感も大きいよね。

柴 そうなんですよ。TikTok発でLINE MUSIC経由のヒット曲が生まれるようになったのが、2018年のトピックの一つでもあった。

倖田來未の「め組のひと」とかマッテオの「シリシリダンス~パナマ~」のように、TikTokの動画のBGMに使われた楽曲が自然発生的なブームを起こして、LINE MUSICのデイリーランキングで1位になるような現象が生まれた。

宇野 上の世代からは見えない10代のリアルがそこにちゃんとある。

柴 LINE MUSICとはつまるところ何かというと、僕はゼロ年代の着うた文化の本質を発展的に引き継いだサービスだと思っているんです。何より大きいのはLINEと連携していることで、LINEのプロフィール画面に自分の好きな楽曲をBGMとして設定する機能がある。

つまり、コミュニケーションツールとしての音楽の使い道を提供している。だからTikTokとの相性もいい。

宇野 なるほどね。だからApple MusicやSpotifyに比べるとLINE MUSICはサービスとしてはガラパゴスなものかもしれないけれど、だからこそそこには今のティーンのリアルが反映されている。

柴 LINE MUSICの年間ランキングも先日発表されたんですが、楽曲チャートの1位が菅田将暉の「さよならエレジー」、2位以下がDA PUMP「U.S.A.」、エド・シーランの「Shape of You」、DAOKO×米津玄師「打上花火」、TWICE「What is Love?」と続く。アーティストの1位はBTS、2位がTWICE、3位がAAAでした。

宇野 J-POPがガラパゴスだって言って嘆いてたような時代はとっくに終わってて、10代にとってはクロスカルチャー、クロスネイションが当たり前になってるってことだよね。きっと上の世代が感じてきたような閉塞感もないと思う。そういうリアリティがちゃんと反映されている感じがするな。

YouTube Musicがもたらすもの

柴 ストリーミングサービスの話で言うならば、2018年11月に「YouTube Music」が日本でサービスを開始しました。これは一つの決め手になると思います。

宇野 そこが今ひとつ実感がないんだよね。別に今のYouTubeでも不自由はしていないんだけど。いまだにミュージックビデオのショートバージョンをアップしている日本のアーティストに対しては、ダサいなあって思うだけで。

柴 もちろん、YouTube Musicも基本的にはSpotifyと同じフリーミアムモデルのストリーミング配信です。アプリをスマホにダウンロードすれば無料で使えるし、有料版の「YouTube Music Premium」のプランに加入すれば広告なしで音楽を再生できる。

ただ、何が大きいかと言うと、YouTube Musicのアプリの中では、ストリーミング配信された楽曲もYouTubeにアップされたミュージックビデオも分け隔てなく並ぶんです。有料会員は動画の音声だけを端末に保存してオフラインで聴くこともできる。

つまり実は、ユーザー側から見たら、米津玄師や星野源やサザンオールスターズの公式の音源がある現時点で唯一のストリーミングサービスと言える。

宇野 なるほどね。いろんなねじれがあるけれど、それは大きいかもしれない。

柴 さらにYouTube Musicが特徴的なのは、いわゆる「歌ってみた」を投稿しているカバーアーティストの動画もYouTubeには沢山あって、それも曲名で検索をかければサービス上にフラットに並ぶことなんです。

もちろん本人の音源を聴きたい人が多いとは思うけれど、「これでいい」となる人も一定数いるだろうと思われる。そう考えると、権利者側にとっては、この先はストリーミングに曲を提供してないことがハッキリと機会損失になる。

宇野 アーティスト側としては出さざるを得ないわけだ。まあ、いろんなやり方があるし、正解は一つじゃないとは思うけど。

柴 そうですね。もちろんCDがなくなるとは思いませんし、所有欲を喚起するパッケージの存在感は逆に増していくことになるとは思いますけれど。

とは言っても、2019年はいよいよストリーミングで音楽を聴くことがレイトマジョリティにも広まっていくタイミングになると思います。

ヒットの氾濫と両極化

宇野 最近、個人的には家でも車でもSpotifyでしか音楽を聴かなくなってるんだけど、それで何が起こったかと言うと、まず音楽を聴く時間がめちゃめちゃ増えたんだよね。きっと人生で今が一番音楽を聴いている。

ただ、プレイリストで聴く時はグローバルにせよアメリカや日本や韓国にせよ、ヒットチャートの上から順に曲を聴くようになっていった。それって、きっと自分だけじゃなく、かなりの人がそうだと思う。

これはまさに今起こっている問題で、それについていろんなことを考えていかなきゃいけないんだろうなと思うけれど。

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柴 まさにそれは、2年前に『ヒットの崩壊』を書いたときに保留にしていた問題だったんです。みんながストリーミングで音楽を聴くようになったときに、そこでヒット曲が生まれるのかどうか。それは2年前にはまだわからなかった。

趣味嗜好は多様化しているし、サービスはそれぞれの好みにパーソナライズして、誰もが自分の聴きたい曲を聴くようになってヒットは生まれなくなっていくんじゃないかという意見もあった。

けれど、ここ2〜3年の、特にアメリカでの動きを見ていると、どうやら起こっていることは真逆ですよね。

宇野 ヒット曲はガンガン出てきてるよね。「ヒットの崩壊」どころか「ヒットの氾濫」になっている。

柴 そうなんです。誰もがヒット曲ばかりを聴くようになってしまっている。ドレイクが圧倒的な数字を叩き出して、ビートルズやマイケル・ジャクソンの持っていた記録を塗り替えてしまったのが2018年だった。

宇野 そして、あいみょんも日本のドレイクみたいな状態になっている。でも逆に、ヒットが氾濫してるその裏側には全然聴かれない音楽の暗黒が広がっているっていう状況になってもいる。

柴 そうなんですよ。音楽の世界は多様化しているけれど、その一方で『ヒットの崩壊』で書いた“ロングテールとモンスターヘッドの両極化”がさらに進んでいる。そういう問題がより顕在化しているのが今だと思います。

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