米津玄師、DA PUMP、あいみょん…国民的ヒットと日本の難題

そして世界では何が起きていたのか
現代ビジネス編集部

柴 あいみょんについては、宇野さんはどう捉えていますか? 確実に新しい時代の女性シンガーソングライターであるとは思うんですけれども。

宇野 彼女についてまず言えるのは、いよいよ「ストリーミングの時代」以降のスターが登場したということだよね。

柴 2018年後半は、Apple MusicでもSpotifyでもLINE MUSICでもあいみょんの曲がずっと上位を占有していました。

元日のチャートには紅白歌合戦で誰が爪痕を残したかが反映されるものなんですが、元日の時点でのそれぞれのチャートでも1位があいみょん。その後もずっと上位に居続けて、1月5日時点でのSpotifyとApple Musicのランキングでは、トップ3があいみょんの「マリーゴールド」「今夜このまま」「君はロックを聴かない」。まるでアメリカに進出した当時のビートルズみたいなことになってます。

(左)Spotify(右)Apple Musicのチャート

宇野 最近の曲だけではなく、1年以上前のシングル「君はロックを聴かない」やインディーズ時代のシングル「貴方解剖純愛歌〜死ね〜」みたいな、過去の曲までトップ10に入っているのが特徴的だよね。

柴 アーティストがブレイクした時に過去の作品まで売れるというのは、Mr.Childrenや椎名林檎がブレイクした時にも起きた現象ですけど、ストリーミングの環境がその状況をより顕在化させてますね。

宇野 あいみょんがソングライターとして、そしてシンガーとして、圧倒的な魅力を持っているのは間違いないことだけど、インタビューを読むと意外に素朴な人でもある。

デビュー当初の宇多田ヒカルみたいな無意識の天才というわけでも、椎名林檎みたいな計算され尽くされたインテリジェンスがあるわけではないんだよね。

柴 彼女は父親の影響で聞いた浜田省吾や吉田拓郎、あとは小沢健二をルーツにあげているんですよね。僕としては、フォークからニューミュージックを経てJ-POPに至る日本の女性シンガーソングライターの潮流の正統な後継者だと捉えています。

宇野 そうそう。アーティストとしての佇まいや言葉遣いは今っぽいけれど、歌詞の根っこにある価値観自体はそこまで新しいものではない。

というのも、今って世界的には、女性をエンパワーメントするような、いわゆる「Time's Up」的な価値観をたずさえたスターが評価の軸に乗りやすい時代なんだけど。

柴 CHAIとかSuperorganismの野口オロノはまさにそういう存在ですね。

宇野 そういう視点で見ると、あいみょんの歌詞の価値観はわりと保守的なところがある。逆にだからこそ、日本でこれだけヒットしているのかもしれない。

ただ、音作りに関しては「満月の夜から」以降からは特に、ビートが強調されてボーカルが前に出てくるという、今の海外のポップミュージックの基準を意識したアレンジになってきているよね。

ヒット連発のライジングプロダクション

柴 少なくとも今は数年前までのガラパゴス化したJ-POPのシーンとは状況が変わって、グローバルな潮流にアンテナを張ってないとヒット曲が出せないという状況になってきているのは間違いないと思います。

そういう意味では、DA PUMPの「U.S.A.」もそうですね。音だけを最初に聴いたときには「ダサかっこいい」という話題性だけで終わると思っていたんですけど、そのパフォーマンスも含めるなら、あの曲は「シュートダンス」を踊っているわけですよね。

世界的なトレンドをいち早く取り入れて、ただ、それをそのままやっても広まらないから「いいねダンス」と翻訳して、それをユーロビートのカバー曲に乗せて歌って踊った。実は綿密な戦略性をもとに作られていた曲だった。

ISSA(DA PUMP)〔PHOTO〕gettyimages

宇野 2018年8月刊行の『クイック・ジャパン』でのインタビューでも、ISSAはDA PUMPがストリート・カルチャーの文脈にあることを強調していた。で、同じ号のライジングプロダクション平哲夫社長のインタビューが衝撃的でさ。

DA PUMPが「U.S.A.」をカバーするという企画が、これも同じく平社長が80年代に仕掛けた荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」のリバイバル・ヒットの次の矢であったことも明言しているんだけど、同時に今がストリーミングの時代であることも、ラップの時代であることも深く理解していて。現在72歳の芸能界の御大にこんなことを言うのは失礼かもしれないけど、本当にキレキレで。

柴 日本の音楽シーンでは例外的に海外の音楽シーンともシンクロする作品をリリースし続けている三浦大知もw-inds.もライジングですからね。

宇野 そう。もっと言えば、安室奈美恵だって最後の3年間以外はライジングだったわけで。「U.S.A.」のような仕掛けの的確さもさることながら、音楽的な自由を与えた方がいいアーティストには徹底してそういう環境を与えてきた。

安室奈美恵はK-POPのクリエイター陣との接触も早かったけど、今になってみれば圧倒的に正しかったのがわかる。結局、今の日本の10代も、BTSやBLACKPINKを通して最前線のポップ・カルチャーに接していることになってるんだよね。

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