マスク転売 規制解除は早過ぎる
2020年8月28日 08時07分
政府が二十九日、供給体制が確立されたとしてマスクの転売規制を解除する。だがコロナ禍収束のめどは立っておらず、秋口以降、他の感染症拡大の懸念も出てくる。解除は時期尚早ではないか。
マスクはコロナ禍の影響によりインターネットでの高値販売が横行し極端な品不足に陥った。政府は三月、国民生活安定緊急措置法の施行令を改め転売規制に踏み切った。五月にはアルコール消毒液にも同様の措置が取られた。今回の規制解除はマスク、消毒液の双方が対象となる。
菅義偉官房長官は二十六日の会見で「八月には国内供給量が十億枚程度となる」と述べた。確かに現段階では入手困難な状況はほぼ解消され、中国からの輸入頼みだった供給体制も国内分が五割を占めるようになった。
だが今後、需給バランスが大きく崩れる恐れがあることを強く指摘したい。
マスクのネット転売では「自分で使用する分が余ったため」というケースは少ない。多くは買い占めた後高値販売する悪質な事例だ。規制解除で「転売ヤー」と呼ばれる人々が一気に買い占め、値をつり上げて売却する動きが横行しないか懸念せざるを得ない。
特にコロナ禍発生後に開発・販売された一部の高品質マスクは現状でも入手が難しい。高品質から高値転売が始まり、それが全体に波及する負の連鎖が起こる可能性は高いのではないか。
医療機関や介護施設への供給も心配だ。医療用の高機能マスクを大量購入して転売することも再発しかねない。命に直結する問題であり見過ごすわけにはいかない。
秋が深まるにつれインフルエンザ流行の危険も高まりマスク需要は高まる一方だ。さらに占有率が低下したとはいえ、中国産マスクへの依存も続くはずだ。米中の緊張や香港情勢が混乱する中、対中貿易の環境悪化も念頭に置く必要がある。
山積する懸念材料をみる限り、なぜこのタイミングで規制を解除するのか理解に苦しむ。加藤勝信厚生労働相は「購入困難になれば規制の再実施を検討する」との姿勢だ。だが高値転売が始まった後の対応では遅きに失するだろう。
自由な経済行為としての転売を原則認めることに異論はない。しかし、マスクや消毒液など命を守る特別な製品に限っては、危機が去るまで規制の網をかぶせ続けるべきである。
関連キーワード
PR情報