川鶴酒造の「川鶴」
川鶴酒造の「川鶴」

時代のニーズを読み、香川県を代表する酒蔵となった川鶴酒造の10年間の変化

10年以上前は地元向けの普通酒造りが主体で、首都圏や関西圏などの都市部では無名だった香川県観音寺市の川鶴酒造。しかし、現在は特定名称酒の美酒造りに舵を切り、時代のニーズにあったユニークな新製品を相次いで投入して変身を果たしつつあります。

今や香川県を代表する酒蔵のひとつともいえる存在となった、川鶴酒造の軌跡をたどります。

川人裕一郎社長(右端)と蔵人のみなさん

川鶴酒蔵の川人裕一郎社長(右端)と蔵人のみなさん

「蔵がなくなる」危機を感じ、特定名称酒造りへ転換

川鶴酒造の創業は1891年。現在の蔵元、川人裕一郎社長の父上である川人洋造さんの時代は高度成長期ということもあり、拡大路線をひた走って、生産量は10,000石を超える勢いだったそうです。当時小学生だった裕一郎さんも「子供心にも蔵の中は活気に満ちていて、誰もが元気一杯でした」と振り返っています。

ところが東京農業大学を卒業して、大手ビール会社に勤務した後、28歳で蔵に帰った時には4,000石ほどにまで減っていました。

「それでもまだいい方でした。むしろ、私が帰ってきた後から、うちが主体としていた地元向けの普通酒の生産量がどんどん落ち込むことに。地元の人口減と高齢化という問題も重なり、みるみるうちに半分の2,000石を割り込んでしまいました。このままでは、うちの蔵はなくなってしまうのではと危機感を募らせていたのを覚えています」

川鶴酒蔵での造りの様子

大学に入学してから10年近く東京で暮らしていた川人さんは。人気を集めて伸びていく日本酒の銘柄もたくさん飲んだといいます。

「うちの酒は普通酒が主体で後味も甘く、時代の嗜好の変化に遅れをとっている。しかも、地元の市場は縮小を続けている。これでは八方ふさがりです。醸造規模が小さくなったのだから、むしろ特定名称酒に軸足を移し、特約店経由での販路拡大で生き残りを賭け、地元市場の活性化を図るしかないと決意しました」

「川鶴」の実力を知るために、全国を酒蔵をまわる日々

幸いなことに、特定名称酒を造るための小仕込み用のタンクは相当数あり、かつその部屋に冷房設備が入っていたので、2000年ごろから純米酒や純米吟醸酒造りに注力しました。

酒米は地元産の「オオセト」や「さぬきよいまい」を使って個性を維持。自社で造る無濾過生原酒などの酒が、高品質の日本酒が流通する首都圏でどのように評価されるのか実力を知りたいと考え、2010年から川人さんは自ら関東や関西の有力酒販店を巡り始めます。

「当時、蔵には営業担当者もいましたが、県外への営業経験はほとんどない状態でした。それなら自分が足を運ぶしかないと腹を括って、全国を行脚して回りました。酒を持って、酒販店さんに飛び込みで売り込む日々でした」

タンクを確認する川人裕一郎社長

そのころは、地方の地酒蔵には緩やかな追い風が吹いており、現在のように多くの銘柄がひしめく状況でもありませんでした。これらが幸いして、持ち込んだ生原酒を飲んでもらうと、「面白い。試しに取り扱うよ」というお店が少しずつ増えていったそうです。

こうして川鶴酒造は徐々に知名度を上げながら、より美味しい酒が造れるように、着々と設備改善を進めていきました。

香川名物「骨付き鶏」にぴったりの日本酒「讃岐くらうでぃ」

一方で、「昔ながらの日本酒を造っているだけでは、この時代の多様なニーズには対応できない。話題性も含めて、いろいろな面白い酒を造ろう」と、社員たちと新商品の開発にも取り組みました。

イチゴや桃、ココアと日本酒を合わせたリキュールを矢継ぎ早に投入するとともに、地元の特産品であるいりこ(煮干し)を炙って日本酒に入れた「炙りいりこ酒」も開発。

超熱燗専用酒として2010年に発売したところ、これが評判を呼びました。「地元の特産品との相性が重要になる」と確信した川人さんは、香川県丸亀市が発祥とされる、香川県内で大人気の骨付き鶏に着目。塩と胡椒とニンニクで下味をつけた鶏の骨付き肉はとてもスパイシーな味わいで、多くの人はビールを飲みながら食べるそう。

「そこに日本酒が割って入るにはどうすればいいか。それなら、ビールと同じアルコール度数にして、強烈なスパイシーな味わいに負けないように酸味もしっかり表現しよう」と社員のみんなで考えた結論が、濁り酒でアルコール度数が6度の日本酒でした。酸味がたくさん造られる白麹を使った、まさに乳酸飲料のような味わいです。

川鶴酒図での瓶詰めの様子

「讃岐くらうでぃ」という名前で2012年に発売したところ、予想以上のヒットに。

「まずは地元から広げるつもりでしたが、全国に広がっていって、今では鶏のから揚げや焼き鳥を主体とする飲食店さんなどが力を入れて販売してくれています。僕らも、『夏場はビールジョッキに氷をたっぷり入れて、そこに讃岐くらうでぃをドバドバッと注いで飲んでください』と説明しています」

「讃岐くらうでぃ」は年間を通して需要があり、今や川鶴酒造の大黒柱のひとつに育ちつつあります。

川鶴酒造の「讃岐くらうでぃ」

地元の清酒需要の減退は続いていますが、大都市圏での好調と、輸出の増加で川鶴酒造の造りは安定軌道に入っています。冬場は製造社員たちと一緒に、川人さんも造りに加わり、楽しく酒造りをするべく努力しているそうです。

「近年、人気がある日本酒は、透明感のある綺麗な酒質が多いのですが、うちはそれとは少し違っていて、力強い米の味わいが売り。日本酒が好きになっていろいろなお酒を飲んだあとに、もう少しステップアップしたいと考えている人たちに飲んでいただきたい」と語る川人さん。

川鶴酒造が、今後繰り出すお酒に期待が高まります。

(取材・文/空太郎)

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