�}インカローズ(植物)……Inca rose(Nepa)
バラ科の植物。
南米に生息していた事からこの名前がついた。
『薔薇』とは書くが、私たちに最も親しい
あの美しい花をさかせる種とは異なる。
どちらかと言えばワレモコウに近い花。
標高の高い山岳地帯に生息し
春になるとあたりに群生する。
茎は細く、しっかりとしている。
蕾は堅い咢で包まれており、
赤茶色のその蕾には解毒効果にくわえ解熱作用
止血作用などの効果があった。
また、根にも殺菌効果が見られ、他にも様々な
薬効があり一種の万能薬的な薬草であった。
しかし同時に、子房の下に、毒をためる袋がついており
大人一人を痺れされるに十分な毒素を持っていた。
夏になると、白く小さな花を咲かせ、
花になると薬としての効果はなくなるが
甘く清々しい芳香をはなつ。
■
近世に入ってから絶滅した種のひとつで
現在は失われて久しい植物。
万能薬となる蕾が赤茶色で、その中でもとくに赤の濃いものに
強い薬効が見られる事からか(売れば金になる事からも)
学者達は、この植物を『賢者の石』の愛称で呼んでいた
と言われていますが、これはどうも眉唾もの。
(どうやら後から付け加えられた話のようです)
……………Ohter storys
かつてその山岳地帯に文明を築いたカステアという
国家では、『ネパ(Nepa)』という名で呼ばれ
黄金よりも貴重なものとされていた。
『ネパ』とは彼らの民族(フェ)の古い言葉(フェゴン)で
『精霊の指』を意味し、『精霊』とは彼らにとって
あらゆる物に宿る恐るべき神の力であり
また死んで土になった先祖の生まれ変わった姿であり
また親しい兄弟のような存在であった。
彼らはネパの実と根を薬とし、
またその毒をつかって狩りをし、花を香料、
また聖なる植物であるため祭事に神に捧げる
供え物としてきた。
また、彼らの先祖が昔、ネパの花と(=精霊や神と)
兄弟の契りをかわした、という口伝が残っており、
彼等は同じ土に根をおろす兄弟であり、
また同じ魂を分つ分身のような関係だった。
そのためか、自分達が生き続けるかぎりネパは滅びず
ネパが滅びぬ限り自分達も生き続ける、と考えていたようだ。
(彼等にとってネパの花を贈る、ということは
自分自身の命を預けることに等し意味を持つことから、
しばしば信頼と休戦の証として他文明国家に贈られたようだ)
そう言った事から、人々はこの花を貴重な薬というだけでなく、
なによりも親しく大切な存在としていたことが伺える。
また、フェ族にとって、ネパは宗教思想的に、一族の生と死を
あらわす植物だったと言えるかもしれない。
かつては他の文明国家との間で、この貴重な花をもとめて
戦争になることもあったようだ。
しかし、その文明も、近世に入ってからやってきた
西洋国家の侵略を受け、滅びを迎える事になる。
その時にこの『ネパ』の花も、種としての滅びを迎えたらしい。
研究のために持ち帰られた花も、栽培が試みられたが
気候変化のためか一度花を咲かせたきり枯れてしまい、
二度と芽を出す事がなかった。
現在その存在を知る鍵は、持ち帰った『ネパ』を研究した
学者(アイゼン・デューラー)のスケッチと記述のみである。 |
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