医師・専門家が意見する「岡田晴恵さんはもう退場されてはどうか」 高視聴率の仕掛け人、ではあるが…
「多忙で、半年で10キロ以上痩せた」とはにかむ「コロナの女王」。彼女の優しい語り口は、国民を時に魅了し、時に騙してきた。岡田さんは救世主か、それともデマゴーグか……発売中の『週刊現代』が特集する。
恐怖を煽り続ける
〈岡田晴恵さんは、真面目で素敵な人。頑張ってほしい!〉
〈どんなにバッシングされても、先生を信じます〉
8月22日、TBS系のトーク番組『サワコの朝』に、白鷗大学教授の岡田晴恵さん(57歳)がゲスト出演すると、SNSには岡田さんへのエールが次々に投稿された。
いまや岡田晴恵さんは、日本人のコロナ観に最も影響を与えた人物といっていいだろう。
『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)や『Nスタ』(TBS系)に連日出演し、岡田さんはコロナ情報を発信し続ける。
'20年上半期のTV番組出演数は276回で、芸人のハリセンボン・近藤春菜と並び女性1位だった。
ところが、現場の医師や専門家たちは岡田さんに対し、称賛どころか、怒りの声を上げている。
「岡田さんは医療や診断検査の基礎も知らずに検査を増やせと主張する。怒りを越えてむなしさが募り、『モーニングショー』を見るのはやめました」(医学博士・左門新氏)
「コロナ禍のなか、7月にはワタナベエンターテインメントに所属したらしいですが、いったい何が目的なのか理解できません」(40代・都内開業医)
現場の医師や感染症のプロはなぜここまで怒っているのか。本誌では、新型コロナ関連で岡田さんがテレビに初出演した1月25日から現在までの全発言を医師・専門家20人とともに精査し、岡田晴恵さんの発言の何が問題なのかを探った。
岡田さんの最大の特徴は「コロナは怖いと過剰に煽ること」だ。
たとえば7月14日放送の『モーニングショー』では、「若い人でも急に悪くなることはあります」「海外では20代でも500人に1人は亡くなっています」と訴えている。
ところが、コロナの実態は、少なくとも若者が恐れるような病ではない。
「20代で新型コロナによって亡くなった日本人は、力士の勝武士(享年28)だけです。しかも、糖尿病の持病もあった」(ちぎら医院院長・千木良まこと氏)
岡田さんは海外のデータを引き合いに出したが、日本は欧米より死者数が少ないのは周知の事実。海外と同じように考える必然性もない。
「岡田さんは、子どもの心配をする母親のような口調でコロナは危険だと繰り返します。彼女の発言を真に受け、炎天下でもマスクを外さない人が多いのではないでしょうか」(30代・都内内科医)
その後、陽性者は増えたものの、死者数は「第1波」の時のようには増えなかった。
それでも岡田さんは「コロナは怖い」と繰り返し続ける。たとえば、コロナウイルスが変異して弱毒化していくという意見に対し、岡田さんは、「弱毒化していくには数十年、数百年の期間がかかる」(8月14日『モーニングショー』)と言う。
これは科学的な事実を無視した発言だと語るのは、東京大学名誉教授で元日本学術会議副会長の唐木英明氏だ。
「この半年ほどですでに少なくとも3種類の大きな変異が見つかっており、弱毒化が起こっているという見解もあります。『数十年、数百年』という根拠はありません」
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岡田さんの発言を真に受け、コロナを過剰に恐れる人は増殖していく。そして「コロナは怖い」という前提のもと、岡田さんは「さらに酷いことになる」という「予言」を連発してきた。
緊急事態宣言発令後の4月13日、「今のニューヨークは2週間後の東京です。地獄になります」と岡田さんが断言したのを覚えている人も多いだろう。
それから4ヵ月経ち、ニューヨーク市の新型コロナ死者数は約2万3658人となったが、日本全体の死者数は1201人しか出ていない(8月25日現在)。
陰謀論では?
7月に再び感染者が増え始めると、岡田さんは再び「2週間後には」という「予言」を行った。
「医療現場も、あと2週間したら大変な混乱になる可能性もありますよ」(7月13日『モーニングショー』)。たしかに2週間後に都内の重症者数は6人から19人に増えたが、「大変な混乱」にはなっていない。
「どんなに優れた科学者でも仮説が外れることはあります。岡田さんの問題は、仮説が間違っていたときに、なぜ予測と違ったかを説明しないことです」(前出・唐木氏)
予測を外すだけならまだ害も少ない。だが、岡田さんはこれまで数々の「陰謀論」や「デマ」をテレビを通して発表し、それらを事実と信じ込む視聴者が続出した。
国内での感染が広がり始めた2月初旬では、コロナの検査は民間ではまだ実施されず、不安を感じる人も多かった。
そんな中、岡田さんはその理由を「感染研がPCR検査を民間に拡大することに消極的なのは、データを独占したいOBがいるから」と語ったのだ。
「この発言は、国立感染症研究所に対する重大な告発であり調査されるべきものです。しかし岡田さんは、その根拠を一切示しませんでした。データをもって事実を証明することは、科学者の基本中の基本であるはずです」(前出・唐木氏)
検査が拡大されなかったのには、検査薬が揃わないなど、合理的理由があった。当の感染研は疑惑に対し「事実誤認であり、感染症対策への悪影響を及ぼしている」と反論している。
これに懲りず、4月28日の『モーニングショー』ではコメンテーターの玉川徹氏が「行政の検査機関は土日に休んでいる」と指摘し、岡田さんも「(土日にPCR検査しているのが)全部、民間だというのは私も聞き及んでいます」と同調した。
過剰なサービス精神
だが、行政の検査は土日にも行われていたことが判明し、翌日の放送で謝罪と訂正に追い込まれた。ワイドショーに出演した経験がある医師が匿名でこう明かす。
「生放送では、打ち合わせにない話を突然司会者からふられることもあります。専門家は本来、分からないことは『分からない』と答えるべきですが、岡田さんは何でもコメントしてしまっている」
岡田さんは感染症の怖さを伝える書籍を100冊以上出版している。新型インフルエンザを題材にした『病気の魔女と薬の魔女』というファンタジー小説まである。
だが、「分かりやすく、面白く伝えたい」という彼女のサービス精神も、内容が間違っていれば社会に混乱を招くだけだ。
不安を煽る岡田さんの発言の真偽は、医師や専門家ならすぐ見破れる。
ところが、一般の視聴者は岡田さんの語り口に簡単に騙される。社会心理学者で新潟青陵大学教授の碓井真史氏は、その理由をこう分析する。
「コロナ禍のような非常時に、人間はまず『恐怖情報』を求めます。たとえば『地震の後にさらに大きな余震がくる』といったもので、『今、自分は恐怖を感じている』ということを正当化する情報を信じてしまうのです」
とはいえ、単にコロナの恐怖を煽るだけの専門家なら他にもいる。岡田晴恵さんが彼らと違う「特別な存在」になることができたのは、彼女が人々に「恐怖」だけでなく、「希望」を与えてきたからだ。碓井氏が続ける。
「人々は非常時や不安にかられたときに、ネガティブな情報だけでなく、『希望情報』を求める傾向もあります。『お湯を飲めば感染しない』といった情報には、デマでも飛びついてしまうのです」
岡田さんが提示してきた「希望」とはなにか。ずばり、「アビガン」と「PCR検査」だ。
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5月19日の『モーニングショー』で岡田さんは「早く患者さんを見つけ、早く隔離して、早く治療して、早くアビガンを与えるべき」と主張した。同番組ではこの時期、アビガンを「激推し」していた。
「しかし、アビガンの臨床試験データがでたのは7月10日ですから、5月の段階ではまだ科学的根拠はなかった。安易にアビガンを使えば使うほど、薬が効きにくくなる『耐性ウイルス』が生まれる危険もある。盛んに持ち上げるべきものではない」(50代・都内開業医)
結局、アビガンの有効性がないことが分かると、何の説明もなく、「アビガンを使え」という主張は止めてしまった。岡田さんはいつも「言いっぱなし」で、発言の責任を取ろうとはしない。
「夢の特効薬」を失った岡田さんだが、まだ「PCR検査」という「希望」が残っている。「東京や全国を救っていきたいという思いだとすると、圧倒的に検査数が足らない」(7月27日『モーニングショー』)と岡田さんは猛プッシュを続ける。
だが、PCR検査さえ受ければ感染者と非感染者が明らかになり、感染拡大を防げるというのは、「夢物語」に過ぎない。
10人中3人は感染していても陰性と出る「偽陰性」の問題はよく知られているが、もっと根本的な問題がある。
「PCR検査で分かるのは、『いま、体内に一定量のウイルスがいるか』だけです。1週間後、10日後にはウイルスが増えたり、新たに感染したりするリスクがあります。安心のために検査をしてもキリがないのです」(浜松医療センター感染症内科部長の矢野邦夫氏)
8月24日の『モーニングショー』では、世田谷区が4億円をかけて保育士や介護施設職員ら2万人に検査をすると紹介された。岡田さんは一斉検査を「2週間に1度、やればいい」と提案した。
それに対し、羽鳥アナウンサーが切り返す。
「毎回4億円かかりますが……」
ところが岡田さんは何も答えず、番組はそのまま進行した―。
「一斉検査に意味があるかを考えて発言したとは、到底思えません。PCR検査には1回あたり約2万円かかる。『偽陰性』を考慮して陰性者に2回以上ずつ検査すれば、それだけで健康保険財政は破綻します」(前出・左門氏)
検査を行う予算や人員も考えると、やたらにPCR検査を増やすのはよい戦略ではない。にもかかわらず、岡田さんはPCR検査という「希望」を振りかざし続ける。
視聴者はなぜ信じる?
「岡田さんの手法はまるで健康食品のCMです。まず不安を煽り、PCR検査という解決策を提示する。同じパターンの発言に『ホントに大丈夫?』と思い始めた視聴者もいるでしょう。しかし、岡田さんの発言を妄信する視聴者も根強いのです」(麻酔科医・筒井冨美氏)
岡田晴恵さんが出演する『モーニングショー』の視聴率は5月4日に番組史上最高となる14・1%を記録した。同時間帯に放送されている日テレの『スッキリ』の視聴率は約6%台だ。
岡田晴恵さんは、難解な「エビデンス」にはこだわらず、専門用語も使わない。視聴者と一緒にコロナを怖がってくれる。こんな「専門家」は、これまでいなかった。しかし、岡田さんが恐怖を煽り、人々を過剰に不安にさせた事実は消えない。
「週6日間収録するようなスケジュールで、最新論文を追うことができるのでしょうか。科学者である以上、芸能人のような主観的なコメントも許されません」(神戸学院大学教授・中野雅至氏)
『サワコの朝』で岡田さんは、「感染者数が増えると辛くて、スタジオを出てから大泣きしたこともある」とも明かした。
そんなに苦しいなら、「タレント」はやめ、「科学者」としての本業に専念すればいい。無理はなさらず、そろそろ身を引いてはいかがでしょうか。
発売中の『週刊現代』ではこのほかにも、「妻が死んだ後、夫が死んだ後にひとりで生きるための準備」「安倍『重病→退陣』の渦中で二階がやっていること」「旅行会社『JTB』で何が起きているか」などを特集している。
『週刊現代』2020年9月5日号より