コロナへの中傷 感染するのは罪でない

2020年8月27日 07時21分
 新型コロナ感染を巡る中傷や差別が再び激しくなっている。責められる患者らの口は重くなり、感染の実態や経路解明の壁ともなりかねない。感染は罪ではない。思いやりを持って接したい。
 感染者を出した学校や飲食店などへのバッシングが続いている。
 サッカー部員ら約百人が感染した立正大淞南(しょうなん)高校(島根県)は、インターネット上で誹謗(ひぼう)中傷に加え、生徒らの写真が拡散された。
 五十人以上のラグビー部員が感染した天理大(奈良県)では、部員でない学生も教育実習やアルバイトを断られた。
 浜松市のクラスター(感染者集団)発生源の一つとなったラウンジの店員、顧客の名前や写真などもネットにさらされた。
 東京都から青森県の実家に帰省した男性の実家玄関先には「なんでこの時期に東京から来るのですか。この通りは小さい子もいるのです。そして高齢者もです。安全だと言い切れますか」などと走り書きされた紙が投げ込まれた。
 男性はPCR検査を受け、陰性を確認した上で帰省したという。「自粛警察」と同様、監視社会を表すような「帰省警察」なる言葉も話題になった。
 目に余る中傷や差別に、萩生田光一文科相は同調しないよう呼び掛けるメッセージを発表。政府は偏見や差別への対策を検討するワーキンググループを設置する。自治体も対策に乗り出し、茨城県は差別禁止条例を制定する方針だ。
 だが、何より問われているのは個々人や社会の度量だ。
 えたいのしれない感染症を前に不安が募るのは確かだ。軽率な行動が感染を広げた例もあったかもしれない。しかし、十分な対策をしても感染することはあり得る。
 感染をあげつらってたたき、ただでさえ、弱っている患者や関係者が謝罪する社会は寂しい。誰もがなり得る感染症は、罪でも罰でもない。むしろ、患者らを励まし、闘病体験などを今後に生かす道を探りたい。
 淞南高校のライバルの強豪、青森山田高校(青森県)サッカー部は「コロナに負けるな。ともに頑張ろう」とエールを送る動画を公開した。激励の気持ちを共有したい。
 中世の欧州でペストが流行した際、各地で組織された自警団などが、井戸に汚染物を投げ込んだのが原因などとユダヤ人に言い掛かりをつけ、迫害したという。差別はエスカレートし得る、という歴史の教訓も忘れてはなるまい。

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