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 増え続ける財政赤字は政府の懐事情だけでなく、日本の民主主義の危うさをも表している。

 1947年に施行された財政法は4条で「国の歳出は、公債又(また)は借入金以外の歳入を以(もっ)て、その財源としなければならない」と定めた。この条文ができたのは、単に健全財政を義務づけるためだけではない。

 法施行直後に出版された「財政法逐条解説」にはこう記されている。「公債のないところに戦争はないと断言し得るのである。従って、本条は新憲法戦争放棄の規定を裏書き保証せんとするものである」

 序文では財政法に「幾多の抜け道」があるとしたうえで、運用次第では「意味をなさない」恐れも指摘していた。著者の懸念どおり、財政の縛りは次第に骨抜きにされていく。

 均衡財政は20年弱しか続かず、財政法が例外として認めた建設国債ばかりか、禁止したはずの赤字国債すら、特例法による発行が常態化した。

 今年度新たに発行される国債は空前の90兆円にのぼる。中央大学の関野満夫教授によると、真珠湾攻撃があった41年度の借金への依存度は56・4%(一般会計と、廃止された臨時軍事費特別会計の合算)。今年度の56・3%はこれとほぼ並ぶ。

 今年度末の政府債務残高は国内総生産の2・6倍。44年度末の2倍を上回る。まさに異常としか言いようがない。

 無論、いまの借金まみれの財政は戦争のせいではない。高齢化で社会保障費がかさむうえ、バブル崩壊やリーマン・ショック後の経済対策、震災復興、新型コロナウイルス対策と続いたことが一因だ。

 ただ、借金に歯止めがないと権力が暴走しかねないことを、心にとどめておく必要がある。

 戦時中は軍への文民統制が機能しなかった。満州事変後、議会の承認無しで使える予備費を乱用したことも、その一例だ。

 財政法が健全財政とともに財政民主主義を柱に据えたのは、当時の教訓からだ。

 戦後75年の今、この原則も骨抜きの危機にさらされている。政府はコロナ対策を柔軟に行うためとして今年度、総額12兆円を予備費として計上した。一般会計に占める比率は7・5%。42年度の9・1%に迫る。

 コロナ対策が必要であれば、補正予算として国会に議決を求めるのが筋だ。だが、与党ばかりか多くの主要野党も、この巨額の予備費を認めた。

 財政法の規定には、戦火や、戦後の預金封鎖などの混乱で、国民生活を困窮させたことへの反省が込められている。国会と政府は、条文の歴史的な意味を忘れてはならない。

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