動物や植物の遺伝子を調べ、そのデータを医療や農業に生かそうという「遺伝子診断」の技術も日々進化している。
「塩分濃度が上がった水田でも育つイネのゲノム(全遺伝子情報)はどのようなものになるのだろうか」。岩手生物工学研究センターの寺内良平研究部長は、津波の被害を受けた農地の再生可能性を探る研究をシーケンサーを使って急ピッチで進めている。
日本でも6月1日にタカラバイオがヒトゲノムを完全解読する国内初のサービスを始めた。ところが、BGIやタカラへのシーケンサーの主な供給源は世界最大手の米イルミナだ。重点分野として米政府が資金を投じ、育成してきたトップランナーである。
シーケンサーは2、3年おきにハードが世代交代するが、消耗品の試薬キットで稼ぐ複合機に近いビジネスモデルを確立している。イルミナの時価総額は既に90億ドル(約7200億円)に達する。
米国では同分野への参入が相次いでいる。グーグルに加え米IBMはスパコンやクラウドコンピューティングなどを使った高速情報処理で個人のゲノム分析価格を1000ドル(約8万円)以下にする技術を開発中。スイス製薬大手ロシュと提携し、解析コストを大幅に下げる装置の研究もしている。米マイクロソフトもパデュー大学と共同で遺伝子の特性をふまえて医師の薬の処方を支援するソフトウエアを開発している。「日系メーカーの名前は聞こえてこない。M&A以外で今から参入するのは難しい」(上昌広東京大学教授)のが現実だ。
そんな中、布石を打ち始めたのが韓国のサムスングループ。昨年、イルミナのライバルである米ライフ・テクノロジーズとの提携を発表した。サムスンは半導体の技術基盤を生かし、遺伝子分析向けに大規模な電算処理システムとソフトを開発する。実用化にはグループが持つ大規模病院も活用する。