東京都知事選挙は、366万票を獲得した小池百合子氏の再選で幕を閉じた。この得票は猪瀬直樹氏の433万に次ぐ、歴代第2位の得票であった。これに対し、立憲民主党と共産党が支援した元日弁連会長の宇都宮健児氏は84万票、れいわ新撰組党首の山本太郎氏が66万票、日本維新の会の推薦する熊本県元副知事の小野泰輔氏が61万票であった。

 

 結果から見れば小池氏の圧勝であるが、東京都民は本当に小池氏が都知事として適任であると考えたのであろうか?

 

 都知事選挙として並行して行われた都議員の補欠選挙においては、自民党が4つの選挙区において全て勝利した。特に注目すべきは北区の補選で、ここには小池百合子氏が「娘のような存在」と熱烈に支持する小池百合子元秘書/元宝塚歌劇団宙組男役/都民ファーストの会公認の天風いぶき氏が立候補したが、当選した自民党の山田氏(5.2万票)の半分にも満たない得票(2.3万票)で敗れている。天風氏は、立憲民主党の斎藤氏(3.6万票)、日本維新の会の佐藤氏(3.4万票)にも及ばない得票であった。

 

 後者の投票結果から言えることは、都民はけっして小池氏を熱烈に支持して歴代2位の票を与えたのではないということだろう。もし小池氏が熱烈に支持されていれば、大阪府知事の吉村氏のコロナ対策が評価されて日本維新の会が推す東京では無名の小野泰輔氏が多くの票を得たのと同様に、天風氏は「都民ファーストの会」の支持層以上の票を得られたであろう。「国会議員白書ブログ」(http://blog.sugawarataku.net/article/187673936.html)において、小池氏の地域別得票の解析が行われているが、小池氏が得票率を大きく伸ばしていたのは区部よりも都下西部、町村部、島嶼部とのことである。また、前回の選挙で自民党と公明党が擁立した増田寛也候補の得票率と小池百合子候補の得票率を比較すると極めて高い相関があり、そのブログでは「今回小池候補が圧勝したのは前回自民党と公明党が擁立した候補に投票した両党の忠実な支持者を今回獲得できたことが大きい」という結論に至っている。つまり、小池氏の圧勝の主な理由の一つは、今回は自民党が対立候補を立てず、実質的には小池氏を支援したためということである。

 

ただしそれだけではなく、対立候補の側にも問題があったように思われる。出口調査の結果によると、立憲民主党の支持層の36%が小池氏に投票し、これは宇都宮氏の得票率の38%とほぼ同等であった。共産党の支持層ですら18%が小池氏に投票しているhttps://news.yahoo.co.jp/articles/13de513f794ae986eb2221

d938b073edec46dd0f)。(毎日新聞では立憲民主党の支持層の45.9%が宇都宮氏、31.6%が小池氏:https://mainichi.jp/senkyo/articles/20200705/k00/00m/010/208000c)。このようなことは今までの都知事選挙ではなかったことであり、宇都宮氏が知事候補として適任とは思われなかったことを示しているということであろう。

 

勿論、コロナ禍の選挙であることが影響したことも否めない。通常であれば、候補者同士での討論会が行われ、現職に対しては複数の候補者から公約の実現度が厳しく批判されることとなる。ところが、今回はそのような討論会がテレビやマスメディアで行われていない(https://news.yahoo.co.jp/articles/67d00f0e377c6b8feda443449422727deef6c99b)。もし討論会が行われれば、4年前の選挙の「7つのゼロ」という公約の大半が実現されていないことが都民に強く認識されただろう(https://www.tokyo-np.co.jp/article/16950)し、また「築地は守る」の大嘘が指摘されて小池氏が答えに窮し、支持率を落とす場面もあったであろう。

 

コロナ禍のような天災下では、新しい未知なるものへの恐怖感が先立ち、それゆえ選挙では現職が有利となるのは当然である。勿論、対応を誤って支持率を落とす人も出るが、小池氏はそのような「尻尾」を出すほど愚かではない。しかしながら、理解力の高い人ならば、小池氏のコロナ禍への対応は、単に自分の能力があることを見せびらかす(自身の価値を高める)場当たり的な対応であることは理解できるであろう。522日に発表された「新型コロナウイルス感染症を乗り越えるためのロードマップロードマップ」は、吉村知事の「大阪モデル」の評判が良いので、対抗して作った実質的には「パクリ」である(https://news.yahoo.co.jp/articles/487952b7e8f74e73c1d9

c12f8752b4d0e6b22adc)(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61135)。このロードマップに基づいた東京アラートを発してレンボーブリッジを赤く染めたが、終息してきたと思っていたコロナ感染が再度広まり出すと、「ロードマップ」で示されていた外出自粛や休業要請の感染状況の目安を簡単に破棄してしまった(https://www.tokyo-np.co.jp/article/35270)。要は、大阪府知事が「大阪モデル」で高い評価を受けているので、それなら私も能力があるところを見せなくてはと、見せかけと耳触りだけは良い「ロードマップ」を作ったが、感染再発の可能性を完全に見誤っており、このままだと再度休業要請をしなくてはならなくなるので、あわてて引っ込めたというお粗末な話なのである。このような彼女のための人気取り政策に振り回される都庁の役人も可哀想であり、それゆえ都庁職員の小池氏の評価は歴代最低なのであろう(https://news.yahoo.co.jp/byline/yamaguchikazuomi/20200626-00185158/)。

 

通常ならば、そのような場当たり的な政策は強く批判されるところだが、このような状況においては、そういった批判が「経済が立ち行かなくなれば多くの人が困る」という大義名分で逆に批判される可能性もあり、批判をしにくい面がある。また通常の人間ならば、自分の判断ミスに対して良心の呵責が多少なりともあるので、それが言動に表れるが、小池氏はまったく何もなかったかのように自信を持って前言を撤回するので、他人への依存性が高い人には「決断が早い」、「頼もしい」というイメージを植え付けることができる。これが、小池氏のコロナ対策が60%もの人から支持された理由であろう(https://mainichi.jp/senkyo/articles/20200705/k00/00m/010/208000c)。また、安倍首相や官邸が「アベノマスク」等のひどい政策を行っているので、「それと比較したら小池氏の政策はまとも」と思われた面があるかもしれない。

 

 4つの都議補選全勝の結果を受けて、安倍首相近辺では衆議院の「9月解散」説が出ているようである。更に安倍氏の自民党総裁の任期が来るのと、人気低下に伴って、その後釜には「小池総理」という説も出ているらしい(https://news.yahoo.co.jp/byline/takahashiryohei/20200709-00187216/)。しかし、これはあり得ないだろう。小池氏再選の理由の一つは、「コロナ対策という観点からは現職知事の方が無難」という面もあるのだから、都知事の仕事を捨てて9月に衆議院選挙に出ればそういった人からの支持を失い、「娘」の天風氏どころか「母親」も同じ目にあう可能性は高いだろう。また来年の「簡素化」オリンピックの開催とその「後片付け」(赤字への対処)も小池氏の仕事と考えている人も多いだろう。主だった都知事選候補者の中で「来年実施」を訴えたのは彼女だけだったのだから。それゆえ9月の衆議院選挙に出れば、その点でも強い批判を受けるだろう。つまり、自民党は小池氏を再選させることによって、彼女の直近での国政への道を閉ざしたのである。小池氏が国政へ出るには、来年オリンピックを終えて(中止の可能性が高いように思うが)、開催費用の赤字に対する対応の目鼻立ちをつける必要があり、そうでないと立候補しても支持を集めることは難しいだろう。

 

 さて立憲民主党などの野党であるが、もう少し強くなってもらわないと日本は良くならない。野党があまりにも弱いので、退任した後は日本の歴史において汚点だけを残すであろう安倍氏が(おそらく後世の歴史書には「「戦後政治の総決算」を掲げて登場した安倍首相であるが、アベノミクスは借金だけを残す結果となり、また側近政治によって役人は首相の顔色ばかりみて公僕たる志を失い、人心は乱れ、奥さんは言うことを聞かず、最後はコロナに対するお粗末な対応によってその終焉を迎えた」と書かれるであろう)、憲政史上最長の在任の首相を続けている。立憲民主党においては、若い有能な人を見つけ出して、積極的に世代交代を図るべきであろう。民主党時代の政治の失敗(東日本大震災と福島原発のメルトダウンという不慮の事故も禍いした。コロナ禍における対応を見ていれば、実は自民党も立憲民主の対応能力とそんなに変わらない)のイメージが拭えないので、若い人からの支持が得られていないように思われる。また、野党系の知事は行政手腕を発揮し、野党の政治家でも行政能力があることを示す必要があるだろう。「批判のための批判」に対しては、多くの国民が支持をしなくなっている。