山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信

症状

新型コロナウイルスの心臓への影響(8月4日)

新型コロナウイルスと心臓に関する3つの論文を紹介します。若者を含めて報告が増えている後遺症に、ウイルスによる心臓へのダメージが影響している可能性があり、今後の研究が必要です。

Puntmann et al., Outcomes of Cardiovascular Magnetic Resonance Imaging in Patients Recently Recovered From Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). JAMA Cardiology 7月27日オンライン版
https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2768916
(内容)
ドイツからの報告。新型コロナウイルスに感染して2から3か月経過した100名に対しての心臓のMRI検査を行った。平均年齢は49歳(45から53歳)。感染が確定してからMRI検査までの期間は平均71日(64から92日)。67名は自宅で療養。33名は入院して治療を受けた。MRIの結果、78名では心臓MRIで画像上の異常が認められ、60名では感染から2か月以上経過しているのにも関わらず心筋の炎症が続いていた。感染時の症状の重さにかかわらず、多くの感染経験者で心臓への影響が続く可能性が示唆された。

Lindner et al., Association of Cardiac Infection With SARS-CoV-2 in Confirmed COVID-19 Autopsy Cases. JAMA Cardiology 7月27日オンライン版
https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2768914
(
内容)
新型コロナウイルスで死亡した患者を解剖し、心臓への影響を調べたドイツからの報告。対象となったのは39名で、死亡時の平均年齢は85歳(78から89歳)であった。心臓組織から検体を採取しPCR検査を行ったところ、24名(61.5%)で新型コロナウイルスのRNAが検出された。16名では、RNA量が特に多かった。この16名においては、炎症性サイトカインの遺伝子発現も増加していた。しかし、リンパ球などの炎症性細胞の浸潤は認めなかった。ウイルスは心筋そのものではなく、間質細胞もしくは浸潤しているマクロファージに存在していると考えられた。ウイルスの存在が長期的にどのような影響を与えるか、今後の検討が必要である。

Nishiga et al. COVID-19 and cardiovascular disease: from basic mechanisms to clinical perspectives. Nature Review Cardiology 7月20日オンライン版
https://www.nature.com/articles/s41569-020-0413-9
(内容)
京大循環器内科からスタンフォード大学に留学中の西賀先生の総説。ウイルスの心臓や血管への影響、高血圧など循環器の基礎疾患がウイルス感染者の重症度に与える影響、そして検討されている治療薬の心臓など循環器への影響について、これまでの知見が解説されています。

退院後も多くの人で症状が続く(7月10日)

Carfi et al., Persistent Symptoms in Patients After Acute COVID-19. JAMA 7月9日オンライン
JAMAのサイト
(内容)
イタリアからの報告。ローマの大学病院が、新型コロナウイルス感染で入院し、回復後に退院した人の経過観察外来を開設した。退院はWHOの基準(解熱後3日経過、他の症状の軽減、24時間以上間隔を空けたPCRが連続で陰性)に従って決定された。
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21日から529日までに179名が対象となった。14名は研究への参加を承諾せず、22名は外来でのPCRが陽性であったため、最終的には143名が研究対象となった。年齢は19から84歳で平均は56.5歳。37%が女性。平均入院期間は13.5日であった。入院中、72.7%に間質性肺炎が認められ、15%は酸素吸入、5%は人工呼吸器が装着された。
経過観察は、初発症状の出現後、平均60.3日目に行われた。新型コロナウイルスに関係する症状が消失しているのは18(12.6%)のみであった。32%は1つか2つの症状が続き、55%では3つ以上の症状が続いていた。多い症状は倦怠感(53.1%)、息切れ(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸部痛(21.7%)であった(図参照)。44.1%の患者は、感染前に比べて、QOL(生活の質)が低下したと回答した。

乳がん治療中の重症化リスク

Vuagnat et al., COVID-19 in breast cancer patients: a cohort at the Institut Curie hospitals in the Paris area. Breast Cancer Research 528日オンライン版
https://breast-cancer-research.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13058-020-01293-8#Sec2
(内容)
Institut Curie hospitals (ICH, Paris area, France)
からの報告。59名の乳がん患者が新型コロナウイルス感染症と診断された。41名はPCR陽性、他は典型的な肺炎像で診断された。37名は転移が認められ、13名はステロイドを服用していた。59名中28名が新型コロナウイルスにより入院。6名はICUでの治療が必要であった。本論文の解析時点では、45名が回復。10名が入院中。4名が新型コロナウイルス感染症により亡くなった。死亡した4名は、高齢または高血圧などの基礎疾患を持っていた。乳がんの放射線治療の範囲や程度と、新型コロナウイルス肺炎の病態には相関は認められなかった。
(コメント)
患者数は少ないが、乳がんの治療中であっても新型コロナウイルスによる重症化のリスクは変わらないことが示唆された。

イタリアでも川崎病様の小児が急増

Verdoni et al., An outbreak of severe Kawasaki-like disease at the Italian epicentre of the SARS-CoV-2 epidemic: an observational cohort study. Lancet 5月13日オンライン版
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31103-X/fulltext
(内容)
イタリア・ベルガモの小児病院(General Paediatric Unit of Hospital Papa Giovanni XXIII)では、過去5年間(2015年1月1日より2020年2月17日)までに19名の川崎病の治療を行った。しかし新型コロナウイルスが拡大した2カ月間(2020年2月19日から4月20日)で、10名の川崎病様の小児が入院した。10名のうちPCR陽性は2名であったが、8名ではIgG抗体が陽性であった。新型コロナウイルスに関連する症例では、年齢が高く、心臓症状の頻度が高い傾向にあった。

川崎病に似た症状

Riphagen et al., Hyperinflammatory shock in children during COVID-19 pandemic. Lancet 5月7日
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31094-1/fulltext
(内容)
イングランド南東部で小児重症患者の治療を行う病院からの報告。4月中旬の10日間で、8名の川崎病に似た患者が集中治療室に搬入された。このうち4名の家族には新型コロナウイルス感染者がいた。しかし8名の入院時のPCR検査では新型コロナウイルスは検出されなかった。8名のうち6名はアフリカ系カリブ、1人は中東、1人はアジア系であった。高熱、発赤、四肢痛、浮腫、消化器症状が共通してみられたが、微生物の感染は同定されなかった。全員がショック状態となり1名は死亡、他の7名は回復した。死亡した1名は死後に行われたPCR検査で新型コロナウイルス感染が確認された。もう1名も、退院後のPCR検査で陽性であった。
その後、患者数は20名まで増加している。そのうち最初の10名(上記の8名を含む)では、新型コロナウイルスに対する抗体が確認された。
(コメント)
新型コロナウイルスに感染し、いったんは無症状であった小児に、後になって川崎病に似た全身の炎症性ショックが生じる可能性が示唆されている。日本は2月末から休校が続いていおり小児の感染者は少ないが、今後、注意しなければならない。

嗅覚・味覚異常に関する2論文

Spinato et al., Alterations in Smell or Taste in Mildly Symptomatic Outpatients With SARS-CoV-2 Infection. JAMA 4月22日オンライン
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2765183
(内容)
イタリアからの報告。PCRで感染が確認されたが、自宅待機となった202名に対して、検査5から6日後に電話で聞き取り調査を行った。その結果、約2/3で嗅覚または味覚の異常が認められた。その約半分弱は軽度であったが、残りの半分強は重度の嗅覚または味覚異常を認めた。3%では嗅覚・味覚異常が唯一の症状で、12%では初発症状であった。

Yan et al., Self‐reported olfactory loss associates with outpatient clinical course in Covid‐19. Allergy & Rhinology 4月24日オンライン版
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/alr.22592
(内容)
アメリカ・サンディエゴからの報告。嗅覚・味覚の記録がある128名につていの解析。入院が必要であったのは26(20.1%)。入院の必要性と相関のある因子を調べたところ、高年齢、糖尿病、呼吸不全症状に加えて、正常な嗅覚・味覚が統計的に有意となった。入院群では嗅覚・味覚異常が見られたのは約1/4弱であったが、非入院群では約2/3が嗅覚・味覚異常を訴えた。
(コメント)
共に後ろ向き研究であり、また嗅覚・味覚異常は、患者の主観で判断しているので、結果の解釈には注意が必要。しかし、発熱や咳に加えて、嗅覚・味覚異常が新型コロナウイルス感染症の症状の一つであることは間違いない。嗅覚・味覚異常が主な症状の場合、ウイルス侵入箇所が肺から遠いため、重症化(肺炎)しにくいのかもしれない。

チャーター機感染者の約30%は無症状

Nishiura et al., Estimation of the asymptomatic ratio of novel coronavirus infections (COVID-19). International Journal of Infectious Diseases 掲載予定
(内容)
武漢からチャーター機で日本に帰国した人々の解析から、PCR陽性者における無症状者の割合は、約30%であると推定された。
https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(20)30139-9/pdf
(コメント)
下記のクルーズ船の結果と考えて、感染しても30~50%は無症候と考えられる。

クルーズ船感染者の約半数は無症状

Russel et al., Estimating the infection and case fatality ratio for COVID-19 using age-adjusted data from the outbreak on the Diamond Princess cruise ship CMMID Repository 3月5日オンライン公開

ダイヤモンドプリンセス号の乗客乗員の感染、症状の有無、そして不幸にも亡くなった方の割合を報告した論文。表2で、感染者における症状の有無を、年代別に報告している。若年層だけでなく、中高年においても半分前後の感染者が無症候であった。
(コメント)
査読前の論文ではあるが、極めて重要な情報を提供している。年齢にかかわらず感染者の約半分が無症状だったという結果は、私にとっては衝撃的でした。無症候なのは子供や若年者がほとんどと思っていました。
https://cmmid.github.io/topics/covid19/severity/diamond_cruise_cfr_estimates.html

この論文は感染研の下記の解析に基づいている
https://www.niid.go.jp/niid/en/2019-ncov-e/9417-covid-dp-fe-02.html

消化器症状が主訴のことも

Pan et al., Clinical characteristics of COVID-19 patients with digestive symptoms in Hubei, China: a descriptive, cross-sectional, multicenter study. AJG 3月20日オンライン版
(内容)
武漢の3つの病院に入院した204名の解析。99人(48.5%)の種所は消化器症状であった。消化器症状としては食欲不振83名、下痢29名、嘔吐8名、腹痛4名であった。7名は消化器症状のみで、呼吸器症状はなかった。消化器症状を示す患者は重症化する傾向にあった。
https://journals.lww.com/ajg/Documents/COVID_Digestive_Symptoms_AJG_Preproof.pdf
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