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魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ 作者:

第一章 魔王学院編

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魔力測定


「実技試験を終了します。合格者アノス・ヴォルディゴードは、大鏡の間へ移動してください」


 上空からフクロウの声が響く。

 大鏡の間は、闘技場から出てすぐそこだ。魔法障壁が解除されたのを確認すると、俺は元来た出入り口に引き返す。


「ああぁぁぁ……待てぇぇぇ……痛え……痛え……痛え……殺す……殺すぅぅ……」


「おっと。忘れていた」


 振り返り、腐死者ゾンビと化したゼペスを見る。さすがにこのままでは哀れだろう。

 <蘇生インガル>を使い、腐死化を解いてやる。ついでにリオルグも生き返らせておいた。


「まったく殺したら死ぬわ、腐死者ゾンビになったぐらいで正気を失うわ、世話の焼ける奴らだ」


 リオルグとゼペスはなにか言いたげな目で俺のことを見ていたが、言葉を発することはなかった。あまりの正論にぐうの音も出ないに違いない。


「じゃあな。強くなったらまた来い。いつでも相手をしてやる」


 そう言い残し、闘技場を後にする。


「……二度とご免だ……化け物め……」


 そんな声が背中にかけられた。


 フクロウに言われた通り、俺は大鏡の間にやってくる。姿見よりも大きな鏡がいくつも置いてある部屋だ。中にはすでに多くの魔族たちがいた。ざっと百名ほどか。実技試験の合格者たちだろう。


その中に見知った顔があった。


「よう、ミーシャ」


 プラチナブロンドの長い髪をふわりと揺らしながら、少女は振り向く。


「戦うのは苦手だって言ってたわりに、実技試験を突破したみたいだな」


「……たまたま……」


 ミーシャはそう言うが、さすがにたまたまで五人抜きはできないだろう。案外、ゼペスやリオルグよりも実力があるのかもしれない。


「ところで、この後はなにがあるんだった?」


 聞いたような気もするが、特に興味がなかったので覚えていない。


「実技試験に合格すれば、入学は決定。残りは魔力測定と適性検査」


「ということは、ここにいる奴ら全員が同級生になるというわけか」


 ざっと視線を巡らす。しかし、様子がおかしい。誰も俺と目を合わせようとしないのだ。

 視線が合った瞬間、怯えるように目を背ける者もいた。


「なんだ? 人見知りする奴らだな?」


「……違うと思う……」


「だが、目を合わせようともしないぞ」


「アノスの魔法に怯えてる」


「というと?」


「<腐死イグルム>」


 なるほど。


「それを知ってるってことは、ミーシャは観客席にいたのか?」


 ミーシャは無表情で首を横に振った。


「合格者は試験の様子が見られる」


 そう口にして、ミーシャは目の前の大鏡を指さす。

 そういうことか、と俺は合点がいった。

 この部屋の大鏡にはデルゾゲードのあらゆる場所を映す遠見の魔法がかけられている。ミーシャは遠見の大鏡を通して、俺の実技試験の様子を見ていたのだ。


「しかし、<腐死イグルム>に怯えるというのは解せないな。大した魔法じゃないと思うが」


 ミーシャは無表情でじーっと俺の顔を見つめている。


「……ひどいか?」


 こくり、とミーシャはうなずく。


「ちなみに聞いておくが、どのぐらいひどい?」


 ミーシャは表情を変えずにじっと考える。


「……鬼畜外道魔法……」


「ははっ。またまた。手持ちの魔法の中でも<腐死イグルム>は健全な方だぞ」


 爽やかな声が出た。


「…………」


 ミーシャはまたじっくりと考え、小さな声で言った。


「撤回する」


「そうだろそうだろ」


「魔法じゃなくて、アノスが鬼畜外道」


「今のはほんの冗談だ」


 即行で訂正した。鬼畜外道の汚名を被るぐらいなら、多少の嘘はやむを得ないだろう。

 そもそも転生したばかりで、この時代の価値観が今ひとつわかっていないのだ。


「よかった」


 信じてもらえたので、ふう、と胸を撫で下ろす。


「でも、ミーシャは怯えないんだな」


「怖いものはない」


 それはそれは、意外な台詞だ。


「見かけによらず、度胸があるんだな」


「普通」


 そう淡々と喋るミーシャが怖がるところは、確かに想像がつきづらい。ぼんやりしているとも言えるが、物怖じしない性格なのだろう。


 そんなことを考えていると、フクロウが飛んできた。


「只今より、魔力測定を行います。魔力水晶の前にお並びください。測定後は隣の部屋に移動し、適性検査を行います」


 魔力水晶? 聞いたことのない魔法具だな。

 そもそも神話の時代では魔力を測定する方法がなかった。

 どうやら退化したものばかりではないということか。


「で、その魔力水晶はどこにあるんだ?」


「こっち」


 ミーシャが歩き出したので、俺はその後についていった。

 他の受験者たちも場所を知っているようで、しばらくして数本の列が形成され始めた。どうやら、魔力水晶はいくつもあり、各箇所で測定が行われているようだ。


 その様子を見物してみる。魔力水晶は紫色の巨大なクリスタルで、大鏡とセットになっていた。クリスタルに触れると魔力を検知し、その結果が大鏡に映し出されるようだ。


「126」

「218」

「98」

「145」


 大鏡の前にいるフクロウが数字を口にしている。それが測定した魔力というわけだ。肌感覚でしか知ることのできなかった魔力が数値化ができるとは、便利な時代になったものだ。


 魔力測定は数秒で結果が出る。列はみるみるうちに進み、ミーシャの番だった。


「がんばれ」


「……結果は同じ……」


 確かに頑張ったところで魔力が増減するわけでもないか。


「まあ、でも、がんばれ」


 ミーシャは無表情で俺をじっと見る。


「……ん……」


 そう返事をして、彼女は魔力水晶に触れた。

 数秒後、大鏡に結果が表示される。


「100246」


 思わず、俺は感心した。これまでは殆ど三桁代の数字が続いていたのに、一○万超えとは。ミーシャは思った以上に魔法の才能に優れているようだな。


「すごいな、ミーシャ」


 そう褒めると、少し照れたのか、彼女は俯いた。


「……アノスは、もっとすごい……?」


「ああ」


 そう口にして、俺は魔力水晶に触れた。魔力を計るのは初めての経験だが、果たしてどのぐらいの数値になるのか?

 ひょっとすると億を超えてしまうかもしれないな。そうなれば、さすがにこの時代の鈍い連中共も、俺が始祖だということを理解せざるを得ないだろう。


「0」


 フクロウが言うのと同時、バシュンッと音を立てて魔力水晶が粉々に砕け散った。


「計測は終了しました。適性検査にお進みください」


 ふむ。魔力水晶が壊れたことを、あまり気にしていないように見えるな。 


「そう言われても、0はありえないと思うぞ……」


 それでは魔法は使えない。考えればわかることだが、フクロウは言った。


「計測は終了しました。適性検査にお進みください」


 ちぃ、使えない使い魔だな。


「使い魔は命令に従うだけ」


 ミーシャがそう言った。


「まあ、そうみたいだな」


 じーっとミーシャが俺の顔を見つめる。


「どうした?」


「……初めて見た……」


「なにがだ?」


「魔力が強すぎて魔力水晶が壊れるところ」


 ああ、なるほどな。


 魔力水晶の破片に魔眼を働かせ、その構造を解析したところ、どうも触れた者の魔力に反応し水晶を肥大化しているようだ。水晶の体積がどれだけ増えたかを計測して、それを数値に変換しているというわけである。


 しかし、一定以上の魔力になると限界を超え、体積を増やすどころか、激しい魔法反応により粉々に砕け散ってしまう。便利なものができたと思ったが、これでは俺の魔力を計るなど到底できないだろう。


「0じゃなくて、測定不能ってことにしておいてくれればいいのにな」


「無理」


「なんでだ?」


「魔力水晶は壊れない」


「壊れたぞ」


 一瞬口を閉ざし、ミーシャは淡々と言った。


「アノスは規格外」


「でも、ミーシャにはわかったわけだろ?」


「魔眼は得意。他の人には無理」


 魔力が強すぎて魔力水晶が壊れたということが、他の人にはわからないという意味か。

 それに、どうもこの入学試験は、使い魔に任せきりのようだからな。

 命令されたことしか実行できない使い魔は、そもそも魔力水晶が壊れたときの対処をろくにできない。せいぜい新しいものを用意するぐらいだろう。

 俺の魔力が0ということと、魔力水晶の破壊は無関係だと判断されるわけだ。


「わかる人にはわかる。でも、大体無理」


 やれやれ。学院側にまともな人材がいればよかったのだが、まさか入学試験で魔力水晶を破壊するほどの魔力の持ち主が来るとは想定していなかったのだろう。


 しかし、魔王の始祖が転生するという話は語り継がれていただろうにな。ミーシャも初めて見たと言っていたし、そもそも、魔力水晶は絶対に壊れないことが前提なのかもしれない。

 それもこれも、この時代の魔族の魔眼が脆弱だからだろう。よく深淵を覗けば、一定以上の魔力を超えた場合、魔力水晶が破壊されることがわかったはずだ。


 それとも、魔王アノスであっても、そんな規格外の魔力を持っているわけがないと決めつけていたか?

 だとすれば、俺も舐められたものだな。


 とはいえ、たかだか数字にこだわるのも大人気ないか。

 俺の魔力が減ったわけでもあるまい。


「まあ、ミーシャがわかってくれたからいいことにするか」


「そう?」


「おう。ありがとな」


 無表情で考えた後、ミーシャは言った。


「どういたしまして」


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