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魔王学院の不適合者 ~史上最強の魔王の始祖、転生して子孫たちの学校へ通う~ 作者:

第一章 魔王学院編

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実技試験


 闘技場のある区画では列が分けられていた。

 近くには騎士の銅像が並んでおり、そこにとまっていたフクロウが言葉を発した。


「招待状に記されたアルファベットの列へお並びください」


 もらった招待状を確認する。Fの文字があった。


「ミーシャは」


「……E……」


 彼女は招待状を見せて言う。


 それぞれの列の最後尾にフクロウが飛んでおり、アルファベットが書かれていた羊皮紙を持っている。招待状と同じ列に並べということだろう。


「じゃ、入学したらよろしくな」


「……ん……」


 ミーシャと別れ、俺はFの列に並ぶ。先頭は遙か先だが、遠見の魔眼で様子を確認する。どうやら、一人ずつ控え室に入っているようだった。


 順番が来るのには時間がかかりそうだ。なにせ、ここだけでもざっと一○○名はいる。すべての列を合わせれば七○○名ほどか。

 二千年経ったとはいえ、よくもこれだけの子孫が増えたものだ。どうやら血が絶える心配などする必要もなかったらしいな。


 そんなこと考えながらも、時間が過ぎるのをぼんやりと待つ。

 しばらく経った後、俺は列の先頭におり、目の前に控え室があった。


 中へ入る。すると、そこにいたのは、またしてもフクロウだ。


 しかし、誰の使い魔なのだろうな、これは。

 見たところ魔力の痕跡を感じない。主人が誰なのかわからないように、うまく隠しているのだろう。

 この時代にも、少しはまともな魔法を使える者もいるようだ。


「ようこそ、いらっしゃいました。これより実技試験の内容を説明します」


 招待しておいて、試験をするということは、入学の可否を判断するものではないのだろう。

 それもあるにはあるのかもしれないが、一番の目的は転生した魔王の始祖を見つけることに違いない。


 俺が転生するのは今回が初めてだ。記憶を持ったままの転生はさほど珍しくないはずだが、魔王アノスの自覚がどこまであるか、残された魔族たちにはわからなかったのだろう。

 名乗り出ればそれで済む話だが、まあ、ここまでお膳立てをされたのだ。つき合ってやるのが礼儀と言えよう。


「実技試験では、闘技場で生徒同士が決闘を行います。五人勝ち抜いた者は魔力測定、適正検査を受けた後に、魔王学院デルゾゲードへの入学を許可されます。敗者は残念ながら、不合格となります」


 魔王の始祖ならば、万が一にも負けることはない、か。

 それにその者が使う魔法を見れば、始祖かどうかの判別ができるだろう。


 少々シンプルすぎる試験内容だが、まあ、妥当なところか。


「あらゆる武器、防具、魔法具の使用を許可します。なにか質問はございますか?」


「特にない」


「では、あなたに始祖の祝福があらんことを」


 俺は控え室の奧のドアを開いた。薄暗く、細長い石畳の通路が長く続いている。

 自分の城とはいえ、本来は見せ物のため、闘技者たちが戦う場所だ。さすがにここを通るのは初めてだな。


 まっすぐ通路を進んでくと、やがて外から漏れている明かりが見えた。


 通路を出れば、そこは高く円形になった壁に囲まれた闘技場である。

 壁よりも更に高い位置は観客席になっており、そこにはちらほらと魔族がいた。

 全員揃いの制服をつけているところを見ると、魔王学院の生徒か。


「よう。また会ったなぁ」


 闘技場の反対側には浅黒い肌の男がいた。

 先程、軽くあしらってやったゼペスだ。


 ふむ。雑魚が相手では、俺が始祖だと理解してもらうのは難しいが、さて、どうするか?


「貴様ぁ、聞いてんのか、ああっ?」


 特に答えることなく俺が二、三歩前へ歩くと、後ろの通路が魔法障壁で閉められた。

 すると、ゼペスが得意気に言った。


「おっと。退路が塞がれたのが、そんなに心配か?」


「なに、貴様が逃げられないのでは可哀相だと思っただけだ。まあ、殺しはしないから安心するといい」


 忌々しそうにゼペスが舌打ちをする。

 やれやれ。親切で言ってやったのに、礼儀を知らない男だな。


 それとも、まだ力の差を理解していないアホなのか?


「言っとくがな、俺はそんな甘っちょろい真似はしねえ。貴様のそのすかし顔を恐怖に染まったぐちゃぐちゃの泣きっ面に変えてから、殺してやるよ」


 ぶふっと俺はたまらず噴き出してしまった。


「くくく、はっはっは。いやいや、殺す? 誰を? 俺をか?」


 俺はゼペスを睥睨する。


「分を弁えろ、道化」


 自然と言葉に魔力が込められるも、ゼペスはその命令に強制されることはなかった。


 彼が纏っている鈍色の鎧が、反魔法の魔法陣を展開している。


「は。もうその手は食わねえよ。この反魔の鎧はどんな魔法をも封じる魔力が込められている」


 なるほど。あんな鎧に頼ってるから、反魔法が不得手なわけか。

 我が子孫ながら、つくづく情けない男だ。


「武器、防具、魔法具の使用を許可します。勝敗はどちらかの死亡か、ギブアップの宣言によって決します」


 上空からのフクロウの声が、闘技場全体に響いた。


「それでは、これより実技試験を開始します!」


 すぐさま、ゼペスは腰に提げた剣を抜き放つ。

 刀身が煌々と燃えていた。


「驚いたかよ? 魔剣ゼフリード、我がインドゥ家に代々受け継がれてきた太古の炎より生まれし剣だ。これは俺の魔力は十数倍にも増幅させる。反魔法が得意なようだが、この剣の炎は消せまい」


「ふむ。貴様もしかして、算数が苦手か?」


 間合いを詰めながらも、ゼペスは怒気を露わにする。


「なにが言いたい?」


「一を十数倍したところで、十かそこらだろう」


「ほざけっ!」


 ゼペスが地面を蹴る。次の瞬間、目の前に奴が現れ、俺は魔剣ゼフリードの間合いに入っていた。


「死にな」


 ふわぁ。俺は欠伸をかみ殺す。


 しかし、ずいぶんと遅いな。

 俺が剣を持っていたら、もう百回は斬っているのだが、まあ、子供の遊戯に本気を出す大人もいまい。つき合ってやるか。


 武器はともかく、使い手がこれでは、わざわざ避けるまでもないだろう。


 横一閃に振るわれた魔剣ゼフリードが、俺の首筋に触れる――ぼんやりとしていた俺は、そこで初めてその剣をまともに見た。


 まずい! と俺は寸前で魔剣を躱した。


「ほう。うまく避けるじゃねえか」


 危ない危ない。あと数ミリ押し込まれていたら、俺が常時纏っている微弱な反魔法にやられ、剣が真っ二つに折れていたぞ。


 インドゥ家に代々受け継がれてきたということは家宝だろう。いくらなまくらとはいえ、そんな大事なものを折るというのは、さすがに良心の呵責がだな。


 しかし――


「これが、魔剣か」


「そうだ。初めて見るか? 現代の魔法とはひと味違う、真の魔法を。そう、これが、魔を秘めた古の剣。神々の時代の産物。魔剣ゼフリードだ!」


 ……これが魔剣かぁ。

 こんなものに比べれば、神々の時代に落ちていた、そこらの棒きれの方がよっぽどの魔力を秘めている。


 神々の時代の産物と言ってはいるが、偽物をつかまされたのだろう。真の魔剣は意志を持つ。そして、その莫大な魔力でもって持ち主さえも蝕むのだ。


 魔剣という言葉も、ずいぶんと軽々しく扱われるようになったものだ。


「ふっ」


 息を吐く。すると、魔剣ゼフリードの炎が消えた。


「げ、げぇぇっ!?」


 品のないゼペスの悲鳴とともに、観客席から驚きの声が漏れる。


「……し、信じられん……! あいつ、魔剣ゼフリードの炎を消しやがった……!?」


「世界の終わりまで消えないと言われている古の炎を……しかも魔法陣を展開するところすら見えなかったぞ……!!」


 ぎりぎりとゼペスは歯を食いしばる。


「貴様、まさか、封印魔法を……!?」


「なに、吹き消しただけだ。その剣に秘められた程度の魔力でも、まあ数年もすればまた炎を灯すだろう」


 ゼペスは苦渋の表情を浮かべる。


「……封印魔法に、強制魔法、確かに凄まじいレベルで魔力を積んでいるようだが、どうやらお前が扱う魔法は、戦闘向きではなさそうだ。それでいったいこの反魔の鎧をどう突破する?」


 ふむ。撫でてやれば砕け散りそうな鎧だが、それも大人気ないか?


「突破したところで自慢になりそうにないな」


「ふん。怖じ気づいたか」


「いや、一つ面白い提案がある。そもそも俺と貴様が同じ立場で争うことが間違っているからな」


 警戒するようにゼペスが俺を睨む。


「ハンデだ。俺はここから一歩も動かない。魔法陣も展開せず、言葉にも息にも魔力を込めない。手足はもちろん、目も髪の毛も使わず、瞬きすらせずに貴様を倒そう」


「は! ハッタリも大概にしろ。それとも負けたときの言い訳か? どうやらお前の魔法が戦闘向きじゃないというの、は……」


ゼペスが血を吐く。


「……馬鹿、な……これは……」


「聞こえたか?」


 どくん、と音が響く。


「心臓の鼓動だ」


 鼓動に魔力がこもり、その音がゼペスの体内を激しく揺さぶった。反魔の鎧を身につけてはいるが、あまり上等な品とは言えない。反魔法の魔法陣にはいくつもの隙間があり、俺の鼓動はそこを通った。


「か、は……」


 全身から血を噴き出し、ゼペスは膝をつく、そして前のめりに倒れた。


「ふむ。しかし、参った。こう弱くては、迂闊にドキドキしたら、皆死んでしまうな」


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