酒
日本酒発祥の地 島根
神話に見る悠久なる酒の歴史
一般的に旧暦10月は「神無月」といいますが、全国の八百万の神々が出雲の国に集まられることから、島根県では「神在月」といいます。神々は、この地で縁結びや五穀豊穣、酒造りなどについて神議をなされます。
日本最古の歴史書「古事記」や「日本書紀」をはじめ、出雲地方には様々な神話が伝承され、島根の歴史は神と共に語り継がれています。そして、島根に伝わる神話の中で大きな役割を果たすのが「酒」の存在です。
神話の中で神々は酒を醸造し、酒宴を催し、ときには酒の力を使い悪者を退治なされます。そうした、神話のひとつひとつに触れるたびに、島根に根付く悠久なる「酒」の歴史に思いを巡らす筈です。
八岐大蛇を退治したスサノオノミコト
その活躍の立役者と成った八塩折の酒
酒が登場する有名な神話が「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)伝説」です。出雲の国に降り立ったスサノオノミコトは、これから八岐大蛇に食べられてしまうというクシイナダヒメとその両親に出会います。スサノオノミコトはクシイナダヒメとの結婚を条件に、八岐大蛇の退治を申し出ると両親は承諾しました。しばらくして現れた八岐大蛇は、スサノオノミコトが用意した8つの桶に満たされた酒の香りに誘われ、桶に頭を入れて飲み干し酔っぱらい眠ってしまいます。その隙にスサノオノミコトは剣で八岐大蛇を切り刻み退治したのです。こうしてスサノオノミコトはクシイナダヒメと結婚しました。
この時に詠んだのが、「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」という歌で、これが日本で最初の和歌といわれています。
日本最古の酒造りの歴史
主祭神クスノカミを祀る「佐香神社」
1300年前、奈良時代に編纂された出雲国風土記に「この地に神々が集まって酒造りを行い、180日にわたり酒宴を開いた」という記述が残り、日本酒発祥の地と伝えられるのが出雲市の佐香神社(松尾神社)です。酒造りの神様「クスノカミ」を祀り、古くから全国の酒造りに携わる人たちの信仰を集めています。酒造免許を受けており、10月13日の例大祭では境内で醸した濁酒が奉納され、参拝者は御神酒としていただけます。
八百万の神々が酒を酌み交わす
直会と旅立ちの場所「万九千神社」
全国から八百万の神々が出雲の国に集まる旧暦10月「神在月」。神々による神議は出雲大社だけでなく、出雲地方にあるいくつかの神社にて行われます。神々が各神社に滞在した後、最後にお集まりになるのが出雲市の万九千神社です。神々は神議を終えられると、この社で酒を酌み交わす宴会「直会(なおらい)」をなされます。神々も人々が「打ち上げ」をするように、酒で和む時を過ごされるのです。そして、翌年の再会を約束して全国へと旅立たれます。
豊かな自然の恵みと、受け継がれる杜氏の技術
米
「東の魚沼コシヒカリ、西の仁多米」と言われるほど、美味しいお米の産地として有名な島根では、「酒造好適米」も高品質なものが栽培されています。自然に恵まれた環境で、酒造りの為に育てられる良質なお米から島根の銘酒が生まれるのです。
水
中国山地から自然のミネラルが含まれた清流が流れる島根には、日本酒造りに適した水が豊富です。酒蔵の多くは地元の天然湧水や井戸水を仕込み水に使用しています。その多くは軟水で、日本酒がきめ細かく口当たりが良くなるのが特徴です。
技
米と水というシンプルな素材から美味しいお酒を造るのが「杜氏(とうじ)」です。島根では「出雲杜氏」と「石見杜氏」の手で古くから酒が醸されています。伝統的な酒造りはもちろん、科学技術の発展も合わさり多彩な銘酒が生み出されています。
酒造りの現場、酒蔵とはどんなところ?
個性豊かな島根の酒造り
地元のお米や、天然の湧水などにこだわり造られる島根の地酒。米と水のシンプルな素材だからこそ、杜氏の技術はもちろん地域の風土が表れるのが日本酒の魅力です。
科学技術の発展により多様化する酒造り。島根の酒蔵では新たな試みを行いながらも、蔵それぞれの伝統や技術を大切に守り、地域の歴史・風土に根ざした酒造りが行われています。酒蔵を訪れれば、自然・歴史・人など、その土地の魅力に触れることができるでしょう。
風土に根ざす伝統的な酒造り
城下町の風情あふれる山陰の小京都「津和野」。県内でも歴史の古い蔵元が4蔵あり、土地の気候・風土を生かした伝統的な酒造りが行われています。今回伺ったのは明治11年創業の古橋酒造さん。酒蔵は有形文化財に登録されている由緒ある酒蔵です。
津和野は水質日本一と名高い清流「高津川」が流れるなど、古くから自然に恵まれた水の産地として有名で「水の郷百選」にも認定されています。津和野の酒蔵では、仕込み水に青野山の麓に湧く良質の天然水を使い、酒米も地元産の「佐香錦」を中心に使用します。
津和野の冬の風物詩
酒造りが行われる冬場、山間の盆地に位置する津和野では昼間でも気温が上がらず、底冷えする日が続くため、日本酒造りには最適の環境です。自然から与えられる恵みと気候を生かし、昔ながらの伝統的な酒造りが古くから守り続けられています。
古橋酒造さんでは酒造りを行う12月から2月の期間は、通常の酒蔵見学に加え、早朝8時から9時の時間帯で、数百キロのお米を蒸し上げる作業を見学することができます。立ち上がった湯気が蔵の屋根から出ていく様子は、津和野の冬の風物詩となっています。
蔵見学の後は試飲を楽しもう
古橋酒造さんでは代表銘柄「初陣」の他にも、発泡日本酒や地元産の柚子や生姜をブレンドしたリキュールなど、新しい商品開発を行っており、酒蔵見学の後は試飲を楽しめます。是非、酒蔵見学もして、島根の日本酒をお楽しみ下さい。
(取材協力)古橋酒造株式会社
鹿足郡津和野町後田ロ196 TEL 0856-72-0047
【営業時間】8:30~17:00
酒蔵見学:可
※酒造期は作業の都合上見学できない日がございます。
島根には個性豊かな酒蔵がたくさん!見学ができる酒蔵では、酒造りを覗いてみよう!
松江・安来エリア
李白酒造
「酒文化を普及し正しく後世に継承する」という理念のもと、日本はもちろん1980年代より海外輸出も行う。
米田酒造
松江市郊外の湧水と島根県産の酒米を中心に酒造りを行う。「ふっくら旨く、ここちよく」を信条とする。
國暉酒造
松江藩より譲り受けた数百年の大梁の土蔵のもと、城下町松江の宍道湖畔で創業以来酒造りを続ける。
吉田酒造
島根の名水百選に選ばれた超軟水で、手間を惜しまず作られた酒は、やわらかな味わいと出雲流の芳醇な旨味が溢れる。
青砥酒造
120年の歴史の中で育まれた伝統と技で、暮らしの彩りと明日の糧とな酒造りを目指す。
金鳳酒造
「山は大山 お酒はキンポー」のキャッチフレーズで親しまれ、「米の旨さ」を味わえるお酒を醸す150年の歴史を持つ酒蔵。
雲南・奥出雲・飯南エリア
木次酒造
地元雲南の素材にこだわり、蔵元杜氏が精米から始まる酒造りの全行程を責任を持って取り組んでいる。
奥出雲酒造
寒暖差の大きな、山々に囲まれ肥沃な大地と名水で育つ地元米にこだわり、出雲杜氏の技と感性で醸しあげる。
簸上清酒
1712年創業、奥出雲で蔵を構え300年余年。泡無酵母発祥之蔵として知られ、新しい酒造りにも挑戦している。
竹下本店
慶応2年(1866)創業、蔵元竹下家十二代当主・竹下登(第74代内閣総理大臣)の生家。神話のふるさと奥出雲で酒造りを続ける。
赤名酒造
純米酒、純米吟醸酒、純米大吟醸のみを製造する純米酒蔵として柔らかで香り高い酒を造る。タイへの販路開拓や、Facebookによる情報発信も積極的に行う。
出雲エリア
旭日酒造
明治2年創業、米や微生物と真摯に向きあい、新酒から熟成酒、蔵付酵母を導く生酛(もと)造りにも取り組んでいる。
板倉酒造
明治4年創業、“味と香り”を特色に、やわらかく寄り添うような日本酒造りを続ける。
酒持田本店
酒造りの神様を祀る佐香神社のお膝元で、140年に亘り出雲杜氏の技を伝承する。建物は2017年に登録文化財に指定。
富士酒造
「出雲を醸し富士を志す。」出雲杜氏の伝統の技術を尊重し、人と人、食と人など良き縁を結ぶ出雲の地酒として米の持つ特徴を生かした素直で清い酒造りを目指す。
大田・邑南エリア
一宮酒造
世界遺産石見銀山を有する大田市で酒造りを始めて120年。地元産の酒米や原料にこだわりながら、スパークリング清酒やリキュール類の開発にも積極的。
若林酒造
温泉と港の町「温泉津」で酒造りを行う。苦心の末に発見した高瀬の岩清水を仕込み水として使用。酵母無添加の生酛造りを県内で初めて復活。
加茂福酒造
大正11年、賀茂神社の御神酒酒屋として創業。ハイテクタンク導入など近代的な設備から、ユニークな商品を生み出している。
池月酒造
自然豊かな中国山地の中邑南町で、天然の湧水と涼冷な環境で、昔ながらの「木槽しぼり」による手作り醸造にこだわる。
玉櫻酒造
地元の米と酒蔵敷地内の井戸から汲み上げられる仕込み水で造り上げる。飲んで落ち着くような包容力、元気になるような生命力を感じる酒を目指している。
浜田・益田・津和野エリア
日本海酒造
明治21年創業、“人と人との心をつなぐ酒”を酒造りの理念とし、石見の海産物に合うキレのある酒が特徴。
都錦酒造
醸造・発酵を通じて、大地の実りの魅力を増幅し、それを表現する酒造りを志す。
右田本店
1602年創業、島根県内で一番古い酒蔵。代々伝わる伝統の技と地元の原材料で、華やかな香りと上品な旨みが特徴の酒造りを続ける。
岡田屋本店
明治10年の創業以降、地元での販売を地道に続ける。清酒、焼酎乙類、リキュール、甘酒など幅広い酒製造を行っている。
桑原酒場
創業1903年。清流日本一に輝いた「高津川」からの伏流水を仕込水として使用。食との相性を追い求め、冷酒だけでなく常温・燗で楽しめる酒を目指している。
華泉酒造
創業は江戸中期の1730年。創業以来一貫して地元の人に愛される酒造りに努め、辛口でありながら芳醇、本来の日本酒の味わいを追及している。
古橋酒造
青野山山腹からの良質な天然湧水と、地元の米、伝統の技で、日本酒の他発泡日本酒や果実酒など新たな酒造りに取り組んでいる。
財間酒場
江戸時代から続く酒蔵で、築200年以上の蔵を利用した酒蔵資料館を開設。日本酒だけでなく、地元の特産品を利用した焼酎、ぷりん酒などのリキュールも製造している。
隠岐エリア
隠岐酒造
「ユネスコ世界ジオパーク」に認定される隠岐諸島にあり、「昭和の名水百選」に選定された2か所の名水を有する環境の中、清酒・焼酎・リキュールを醸造している。
島根のお酒を買えるお店
島根県物産観光館
伝統工芸品や地元特産品をはじめ、お土産にも嬉しい島根の物産を豊富にラインナップ。県内の観光パンフレットも取り揃えられた島根の魅力たっぷりの施設です。
日比谷しまね館
東京で島根の魅力に触れられる総合情報発信施設。名物・特産品がバラエティ豊かに取り揃えられるほか、島根の観光案内やUIターンの相談も受け付けています。