河井夫妻初公判 公正な選挙を問う機に
2020年8月26日 06時57分
政治活動か選挙活動か−。昨年夏の参院選広島選挙区での選挙違反事件の裁判は前法相の河井克行・案里夫妻と検察側が全面対決の形で裁判が始まった。公正な選挙とは何かを考える機会にしたい。
「(現金の供与は)統一地方選に立候補していた本人への陣中見舞いや当選祝いだった」「自民党の党勢拡大のための政治活動や選挙運動の準備行為を行っていただけ」−河井夫妻はそのような趣旨を述べて、起訴内容を否認。無罪を主張した。
昨年三月から八月にかけ、参院選に出馬・当選した案里被告への票の取りまとめなどを依頼し、地元の県議や市議ら百人に計二千九百万円余りを配った。それが克行被告に対する起訴内容だ。案里被告はそのうち五人に計百七十万円を配ったとされる。
だが、選挙から三カ月も時期が離れていると、これまで捜査当局は必ずしも積極的に選挙違反として立件してこなかったようだ。政治家が行う地盤を培養する政治活動と区別がつきにくいためだ。おのずと金銭の授受があっても立証は困難になる。
実際に河井被告側は現金供与の事実を認めつつも、「投票や票のとりまとめの依頼、報酬ではない」「実務上、広く慣習として行われ、許容される政治活動に伴う現金供与だ」と述べた。
もっとも検察側は冒頭陳述で、広島選挙区では自民党本部が候補者二人の擁立を決めたが、広島県連は反発し、案里被告の選挙情勢が厳しかったと述べた。そのため陣中見舞いなどの名目で現金を配布し、選挙運動を依頼した−などと事件構図を描いた。
政治活動なのか、選挙活動なのか、それが最大の争点といえる。検察側は「選挙の買収」だったとの立証のため、今後、百人もの地元議員らの証人尋問を行う異例の裁判となる。捜査段階での供述調書に弁護側が同意しないためだ。現金の趣旨などを法廷で直接問いただす光景となるはずだ。
問題なのは、現金の受領側を検察側が起訴しなかったことだ。有利な自白を得る「裏取引」で、「違法捜査による起訴だ」とも弁護側から指弾された。自民党からの一億五千万円の使途も不明のままだ。買収の原資ならば検察側は公判で明らかにすべきだ。
何より日本の選挙風景が政治活動と混然とする実態があり、慣習で金がばらまかれているなら問題だ。公正な選挙の在り方を根源的に問い直す裁判でもありたい。
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