15 彼氏のデータ
夏休みの宿題が終わったにも関わらず、桜子は何やら熱心にノートにペンを走らせていた。
「何をしているの?」
俺が尋ねると、
「あなたについてのデータをまとめているの」
また軽く怖いことを言い始めた。
けど、怖い物見たさという言葉があるように……
「ちょっと見せてもらっても良いか?」
「ええ、良いわよ」
桜子はあっさりと見せてくれる。
そこにはビッシリと俺に関する記述がなされていた。
その文字列はひたすらに怖かったけど、俺をデフォルメしたキャラが思いのほか可愛くて和んだ。
そして、まるでゲームみたいに六角形のパラメーターが記してある。
「おいおい、知力とか体力が低いなぁ」
「だって、所詮あなたはその程度でしょ?」
「まあ、否定はできないけど……」
ただ、ある一点だけは突き抜けて高かった。
「おい、このエロって項目は何だ?」
俺が問い質すと、桜子は軽くビクっとした。
「だって、あなた……」
何やらモジモジとし出す。
「何だよ?」
「初めてだったのに、いきなり私を……」
「え?」
「わ、私は今までにそういった経験が無いし、他の女子ともそういった話をする機会が無いからハッキリとは言えないけど……」
桜子は先ほど以上にモジモジとする。
「……光一はエッチが上手よね」
「そうなのか? 俺も分からないけど」
「だ、だって私は初めてだったのに、あんなに……って、言わせないでちょうだい!」
久しぶりに鉛筆で肩をグサグサと刺される。
「痛いです、桜子さん」
「あら、ごめんなさい♡」
♡を付けても許しません。
「ていうか、どんだけ俺のことを観察しているんだよ。右耳のうしろにホクロがあるとか、初めて知ったぞ」
「光一のことは全て余さず知っておきたいの、うふふ」
「怖い、怖いから」
「じゃあ、光一にも、もっと私のことを知ってもらわないと。今なら特別に何でも答えてあげるわよ」
「マジで? じゃあ、スリーサイズを教えてくれ」
「ナイショ♡」
「おい」
俺は仕方なく、心のノートに『グラドル並み』と書いておく。
「分かった、じゃあ好きな食べ物は?」
「のりよ」
「あ、そうなんだ。じゃあ、弁当ものりで巻いたおにぎりを作れば良いじゃん」
いつもはおかずとふりかけごはんなのだ。
「だって、パリッとしたのりが良いんだもん。お弁当だとしっとりちゃうから」
「ああ、確かにな。じゃあ、コンビニのおにぎりとか好きなの?」
「好きよ」
「一番好きな具材は?」
「梅干し♡」
何だろう、何か久しぶりにこいつの普通の女子みたいな顔を見て……
「……可愛いな」
「えっ?」
「あ、ごめん」
「何で謝るの? クソほど嬉しいからあと百万回は言って」
「喉が壊れます」
「良いじゃない。私だって、あなたに壊されそうに……あっ」
「あっ、じゃねーよ」
「ちなみに、童貞を卒業したことを友達に自慢した?」
「いや、知っていると思うけど、俺はボッチだから」
「うん、知っている。言ってみだだけ」
「性格悪いなぁ」
「あなたにだけよ」
「尚のこと悪いわ」
彼女の笑顔を殴りたいと思う俺は最低だろうか。
「そんなに怒らないで。またエッチさせてあげるから」
「いや、今日はちょっと疲れているから……」
「エッチさせてあげるから」
「……笑顔が怖い」
「あら、自分の彼女を捕まえてそんなに怖い、怖いって言って。失礼だと思わないの?」
「お前の方が大概失礼だからな」
「うふふ」
「笑ってごまかすな」
「ねぇ、私のこと好き?」
「唐突に聞くなぁ」
「ねぇ、早く答えてよ」
「……好きです」
「私もよ」
ちゅっ、と桜子は俺にキスをした。
「これで今日の分のキスは終わりだな」
「ううん、今のはほっぺだから、ノーカン」
「また勝手に新たなルールを加えたな」
「えっ、咥える? そんな、私にはまだ早いわよ……」
「お前は何を想像しているんだ」
「あっ、ダメ、光一……私のお口の中でそんな……」
「はい、桜子さんアウト!」
俺が言うと、桜子はなぜかニヤリとする。
「あら、元気じゃない。そんな風に大きな声を出しちゃって」
「お前のせいだろうが」
俺は文句を言いながらため息を漏らす。
そして、何だかんだ言いつつも、桜子を抱いた。