世界で活躍する日本の高級車ブランドの筆頭といえば「レクサス」だが、日本初の高級車ブランドの先駆者は、ホンダの「Acura(アキュラ)」だ。
アキュラは1986年に誕生。ホンダは一時、日本国内への導入も明言していたが、その後、方針は撤回され、国内展開は幻と消えた。
そんな日本ではあまり知られていないが、世界最大の自動車市場に挑み続ける、日本の個性派高級車「アキュラ」の今に迫った。
文:大音安弘/写真:Acura
【画像ギャラリー】国内展開はもう望めないのか!? ホンダの北米向け高級ブランド「アキュラ」を写真で見る!!
■アキュラは国産高級車ブランドのパイオニア
「アキュラ」は、1986年より米国より展開されたホンダの高級車専用ブランドだ。
1989年の「レクサス」、「インフィニティ」よりも、いち早く高級車市場に参入できたのは、1982年に、日本の自動車メーカーとしては初となる現地工場をオハイオ州に設立。アコードの生産を開始し、1985年には現地研究所も設立するなど、米国での基盤を早くから構築したことが挙げられる。
ブランド名のAcuraは、「Accuracy」から生まれた造語。「正確さ・的確さ」の意味を含むあたりは、「ハイテク・ジャパン!」と称えられた当時の日本車のトータル性能を示すものなのだろう。
それを裏付けるように、「A」の文字をモチーフとしたエンブレムには、測定器の「ノギス」がモチーフ。またホンダの「H」マークを逆にしたデザインでもあり、二つのブランドの関連性を示すものでもあるのだ。
当初は、ホンダ車の名称そのままに「アキュラ・レジェンド」や「アキュラ・インテグラ」としていたが、差別化を図るべく、レクサスなどと同様のRLX(日本名:レジェンド)などの英文字表記に変更している。
■北米に特化した高級車ブランドに成長
現在のアキュラの展開市場は、アメリカ、カナダ、メキシコ、クウェートと限定的だ。
2019年の販売実績は、やはりアメリカがダントツで、15万7385台。カナダの1万9781台、中国の1万5008台、メキシコ1809台と続く。クウェートの市場規模は小さく2桁台とのこと。つまり主戦場は、開発拠点もある北米なのだ。
そのため、アキュラのモデルは、アメリカナイズされている点が多い。内外装はもちろんだが、性能面でも専用のアップグレードが施されているのも特徴なのだ。
最新のアキュラのラインナップについても紹介したい。現在は、セダンとSUVが中心で、ブランドフラッグシップモデルとしてスーパースポーツ「NSX」が君臨する形だ。
■まもなく「タイプS」復活! アキュラの現行ラインナップは?
アキュラのラインナップは、セダンとSUVに特化したもの。意外にもクーペやオープンカー、ステーションワゴンなども存在しない。最も個性的な存在が、ブランドのアイコンとなるスーパースポーツ「NSX」だ。
復活を果たした2代目となる最新型は、米国の専用工場でハンドメイドされ、ホンダ仕様も含め、全世界へと供給。まさに米国のアキュラファンの誇りだ。
主力のひとつであるセダンは、大中小が揃っている。まずブランドエントリーとなるコンパクトセダン「ILX」は、急成長を遂げる米国のコンパクト高級セダンであるため、ミレニアル世代にも人気が高いという。現行型は、先代の米国シビックをベースとするが、よりラグジュリーな仕立てとなっている。
アキュラセダンの中核的モデルがミッドサイズセダン「TLX」だ。同クラスのホンダ・アコードが6ライトスタイルの4ドアクーペに転身したのに対して、こちらは純粋なスポーツセダンスタイルを貫く。これも走りの良さにこだわるためだろう。
実は、2020年秋に新型となる予定で、全車ターボエンジンを採用し、よりポテンシャルを高めたスポーツセダンとなる模様。
スタイルもすでに公開済みだが、やはり純粋なセダンスタイルを受け継いでおり、来週には高性能モデル「タイプS」の復活を予告するなど、アキュラ開発陣の気合たっぷりのモデルだ。
セダンのフラッグシップが、日本ではレジェンドの名で親しまれる「RLX」だ。レジェンド同様の3モーターハイブリッド+SH-AWDの高性能ハイブリッド仕様に加え、同じ3.5L・V6SOHCエンジンを搭載するFF車も用意されるのが特徴。
実は、レジェンドとRLXはすべて日本製。このため、現行ラインナップで唯一のメイドインジャパンのアキュラとなる。
■屋台骨はSUV アキュラ最量販車は「RDX」
今や屋台骨となっているのが、もう一つの主力、SUVである。米国規格だとコンパクトとミッドサイズの2種類のSUVを用意。
コンパクトSUV「RDX」は、北米アキュラで最も好調なセールスを記録するモデルだ。プラットフォームこそCR-Vと共有するが、各部は専用に開発されており、ビジュアル面での共通性は皆無。
ファミリー色はなく、スポーティかつアバンギャルドな都会派クロスオーバーに仕立てられている。パワートレインも、10ATを組み合わせた2.0Lの4気筒ターボエンジンを搭載する。
もう一台が、アキュラSUVのフラッグシップとなる「MDX」だ。ミッドサイズとはいえ、5m弱あるボディは迫力満点。アキュラ唯一の3列7人乗り仕様となるが、走りへの妥協もなく、ニュルブルクリンクでの開発テストを実施しているほど。
3.5LのV6が基本だが、フラッグシップセダン「RLX」同様に、3モーターハイブリッドとSH-AWDを組み合わせた仕様も用意。こちらはエンジンが3.0LのV6に変更される。
番外編として、中国市場専用車も簡単に紹介しよう。ミッドサイズセダン「TLX」は、中国では仕様を変更し、ロングボディの「TLX-L」に。標準ボディなしというのが、いかにも中国らしいところ。
ちなみに中国では、ロングボディが人気のため、他の高級車ブランドも、他市場には存在しないロングボディを設定することが多い。
中国の完全オリジナルとなるのが、「CDX」。プラットフォームこそヴェゼルのものを流用しているSUVだが、ボディサイズは一回り以上も拡大され、堂々たるものに。
キャラクターは、ヴェゼル同様に都会的かつスポーティな内外装だが、無論、異なるデザインとなり、豪華な作りだ。1.5Lターボと2.0Lのハイブリッドが展開される。この2車種は、いずれも中国で製造されている。
■米国発の強みを活かしきれていない!?
米国育ちのアキュラは、ホンダの米国戦略の巧みさから、日本の高級ブランドの先陣を切ることができたが、その成長と活躍には、歯がゆさも感じる。
すでにロシアやブラジルといった新規市場からの撤退。中国市場でも専用車を投入するなど努力しているが、現地でのホンダ車販売と比較すると、存在感は薄め。
また、念願だった日本導入も断念するなど、そのブランド力を活かしきれていないのが現状だ。主戦場となる北米での2019年の販売台数も、ホンダ全体の約9.4%に過ぎない。
輸入車ならば、仕方なしともいえるが、アキュラは、その99%が米国製。その強みが活かされていないとも映るのだ。
しかし、世界最大の自動車市場である米国を中心に展開するアキュラは、アメリカを第2の故郷とする日本の高級車だ。何よりも米国ファンの声に機敏に応える現地開発拠点もあり、そこではホンダではなく、アキュラ視点のクルマ作りが行われている。
アメリカナイズされたホンダらしい新たな高級車像が築ければ、今の世界の高級車とも異なる新しい存在となれるのではないか。そういう点でも、タイプS復活が予告させるスポーツセダン新型「TLX」の活躍に期待したい。