清酒生産量全国1位の兵庫県。 その中心地「灘五郷」を訪ねました<前編>
日本酒生産量で全国の3割近く、ダントツのシェアを誇る兵庫県。その県内でナンバーワンの生産地が神戸市・西宮市沿岸部に展開する「灘五郷(なだごごう)」で、『大関』『菊正宗』『沢の鶴』『日本盛』『白鶴』といった有名酒蔵がずらり。その歴史や風土、醸造技術などを学びにフードジャーナリストの里井真由美さんとともに伺いました。
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灘五郷で用いられている仕込み水である「宮水」。江戸時代末期に『櫻正宗』の山邑太左衛門(やまむらたざえもん)によって発見され、その「梅の木井戸」は西宮市久保町にあり、宮水発祥の地の石碑が立っています。
宮水はリンやカルシウム、カリウムなどのミネラルを多く含む硬水で、そのまま飲むのには向きません。しかし、そのミネラルが麹菌や酵母の栄養分となり、酵素の作用を促すため、酒造りにはとても適した水なのです。酒の色を濃くし、風味を悪くする鉄分がほとんど含まれていないのも特徴です。
「昔どのようにして、大量の宮水を運んでいたのか気になります」と里井さん。「大砲(たいほう)」という胴体の長さ約188㎝、両端の直径約1m、胴の中央部約1m15㎝で、杉材と鉄輪でできた容器に入れ、馬車などで運んでいたとか。迫力の大きさで、宮水を入れた時はかなりの重さになります。
優れた酒造りの技術を有する「丹波杜氏」
酒蔵で働く蔵人たちの長である「杜氏」は、酒造りの全責任を負ういわば工場長のような存在。灘五郷の杜氏は、兵庫県東部を拠点とする「丹波(たんば)杜氏」で、南部杜氏(岩手県)、越後杜氏(新潟県)と共に日本三大杜氏の一つに挙げられています。
丹波が比較的灘に近かったことに加え、丹波杜氏の酒造方法が硬水に適していたため、やはり硬水である宮水を使う灘の酒造りに合ったようです。昼夜逆転の生活が半年続くと聞いて「大変な苦労を重ねて、杜氏になるんですね」と里井さん。機械化が進んだ現在の酒造りにおいても、長年経験を積み重ねてきた杜氏が果たす役割の大きさは変わりません。