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元公安刑事「沖縄で中国スパイは活動している」県民も工作の対象か

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7月23日に米ワシントンD.C.に本拠地を置くシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が公表した報告書(表題:日本における中国の影響力)の中に「中国政府が沖縄の新聞社に資金提供をし、影響力を及ぼしている」という記述が盛り込まれ、沖縄の新聞社・沖縄タイムスが8月15日付け朝刊で調査記事を掲載し、資金提供を否定するというニュースが飛び込んできた。

このCSISの記述は慶応大学教授の細谷雄一氏の発言が基となっているが、原文には「間接的(indirect)」とあり、同氏も「直接的」資金援助であることを否定している。ただ、この報告書から言えることは、中国政府による対沖縄工作が確実に存在しており、それを警戒すべきだということだろう。

この記事では、今春まで首都圏警察で外事部門に約10年間従事し、現在は沖縄に拠点を置く筆者が、沖縄における中国の工作活動について考察する。なお本文中は、工作を主導するのが政府、軍、党などのいずれかのレベルであるかが判然としないケースも多いため便宜上「中国」に統一している。

他地域と比べて公安事象が多い沖縄

沖縄における中国の工作活動を見る前に、観光地としての沖縄とは異なる現地の状況をざっと見ておこう。

一般的に公安警察は治安攪乱要因となる組織・団体を監視しているが、そうした視点で見ると、沖縄は公安が対象とする様々な魑魅魍魎が蠢く不気味な地域と言える。他の都道府県と比較すると沖縄県民は日本共産党に対するアレルギーが少ないこともあり「オモテ」の左翼活動家も活発に活動している。そこに右翼がカウンターを仕掛けるので、沖縄県では公安事象に枚挙にいとまがない。

外事関係については、外務省時代にロシアを専門にインテリジェンス業務に従事していた作家の佐藤優氏が地元紙「琉球新報」で連載している「佐藤優のウチナー評論」で、ロシア時事を交えながら沖縄を論じることがあるように、ロシアが沖縄を注視している可能性がうかがえる。

だが、沖縄におけるロシアの動向以上に注視すべきは、やはり中国の工作活動とみられる動向だろう。まことしやかに囁かれているように、沖縄では前県知事の翁長雄志氏、継いだ現知事である玉城デニー氏に対する工作をはじめ、県選出の国会議員、県議、市町村議に対する工作が行われていると考えられる。後述するが、こうした人物らが狙われるのは、情報収集及び世論工作をするために格好の対象であるためである。また反基地運動を行ういわゆる「プロ市民」に対する支援もよく耳にするところだ。

写真AC

外交官、留学生、ビジネスマンをカバーとする?「中国スパイ」の実態

ここで簡単に用語の説明をしておくと、工作に関する言葉では「スパイ」という言葉が一般的だと思うが、警察はこの単語は基本的に使わない。目的国に対する工作全般を指して広く「スパイ活動」や「スパイ工作」、こうした任務に当たる人員を「スパイ」と呼ぶケースが通例だが、この記事でも「スパイ」を使うときは、そうした語法にならった。

さて一般的に工作活動の究極の目的は、「国益増進」にある。特に外事警察が最も警戒している中国の工作は「情報収集」である。

中国のスパイは「外交官、留学生、ビジネスマン、記者、公式代表団員」などの身分をカバーとして赴任し、政治、経済、外交、防衛、先端科学技術などの秘密情報を収集しているとされる。こうした人間は、日本の政財官界、マスコミなどの有力者と接点を持ち、情報の引き出しを図っている。加えて工作員は「世論工作」を図っており、有力者に親中的な発言をするように仕向け、日本人に親中感情を扶植するためのマスコミ工作も行っているだろう。

例えば、IR汚職事件による秋元司衆議院議員の逮捕が記憶に新しい。本件は、東京地検特捜部による調査結果から「付随的」に中国側による対日工作の一部を垣間見ることができたケースである。この事件は氷山の一角にすぎず、政財官界に中国による対日工作の触手が伸びていることは間違いないだろう。またIR事業の展開が沖縄をはじめとした地域で行われる際、中国企業が介入すればその事業には中国共産党の意向が反映されることになるのだ。

共同通信社

余談だが、筆者をジャーナリストと勘違いして接触を図ってきた中国の諜報機関に所属するとされる者と話をしたことがある。同人は、日本国内情勢について関心を持っており、政界関係者とパイプを持ちたいといった発言をしていた。このような接触を契機にエージェントを獲得しているのである。

私が以前に所属していたような防諜機関は、このような中国人と日本人の接点をウォッチし、インテリジェンスコミュニティで活かされる情報を収集している。警察は他の機関と異なり司法権限を有しているため各種法令を駆使し、事件化に向けた活動を行っている。

知事の「沖縄を活用してほしい」発言も工作の成功事例

具体的に対沖縄工作のケースを考えてみると、真っ先に挙がる課題が「沖縄県民の反米感情を煽る」ことだ。仮に「アメリカより中国がいい」という県民が多くなれば、沖縄県において中国が意図する方向に沖縄をコントロールすることも可能と言えるだろう。まさにCSISの報告書が言わんとするところであろう。

沖縄県には中国の総領事館は設置されていないが、沖縄県を管轄地域とする駐福岡総領事館から総領事が随行員を伴って沖縄を訪れ、県知事を表敬、その他に県の政財官界などの有力者と積極的に接触を図っている。

また県は福建省、那覇市は福建省福州市、浦添市は福建省泉州市、宜野湾市は福建省厦門市と姉妹都市提携を結んでいるが、姉妹都市の枠組みで人的交流が行われる際に、沖縄を訪れる中国人留学生やビジネスマンは、情報収集の命を受けて来ている可能性が濃厚である。

沖縄から中国に渡る際に、親中感情を植え付けられるよう派遣地でもてなされる事例も目立つ。2019年に玉城デニー知事が訪中した際に胡春華副首相に「一帯一路に関する日本の出入り口として沖縄を活用してほしい」と伝えたが、これも工作の一つの成功例と言えるだろう。

共同通信社

このように沖縄県において中国による対日工作は、知事をはじめとする有力者のみならず、一般県民にまで向けられている。中国人は様々な身分で沖縄を訪れ、情報収集と世論工作を目的として利用価値のある者たちと接点を持とうとしている。

そのような目的を打ち砕くべく警察を含む防諜機関は、中国人の動向監視に努めている。中国人が誰と接し、どのようなやり取りが行われたかを明らかにすることが、日本の国益を守ることにつながる。そうした積み重ねが、沖縄の新聞社を取り込もうとする動向やIR汚職事件のような事件をあらかじめ防ぐことができるのである。

最後に、沖縄における中国の工作を語る際、「プロ市民を中国共産党が支援している」という話にも触れておきたい。実を言うと筆者はこれに関する明確な情報に接したことがない。しかし、何らかの関与があるからこそ噂として長らく語られ続けると考えるのが自然なのだろう。

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