そういうのが嫌いな人は、申し訳ごさいません。
パンドラとのメッセージの後、アインズはすぐに転移で宝物殿に移動した。
そこで、パンドラズアクターと会合し本題に入るまでに美麗な長文の挨拶が続いた。
が、主にアインズの精神状態を考慮して割愛する。
話は第一話冒頭に戻る。
「つまり、宝物殿を整理してもそれらしいアイテムはなかった。そこで方針を転換し、スキルや魔法を実験してみた。ということだな?」
「その通りでございます!!アインズ様!」
(なるほど!盲点だったな!)
当たり前の話だが、ユグドラシルのゲームにスケルトンが食事をできるようになる魔法やスキルは存在しない。
確かにバフ付きの食材を食べれれば、それなりに有利だが、代用手段は山のようにある。
だから、そんな都合よく設定されたシステムはない。
(しかし、ゲームでなく現実なら?)
例えば、アンデッド創造の魔法で作成した死の騎士は自らの盾として使用することができる。むしろ、ゲームであればそれしかできない。
だが、現実的に考えればこのシステムはおかしい。死の騎士は実際に存在し、ある程度の命令であれば理解することができる。よって、守る以外にも使用することができる。
現実ならこうなるほうが普通で矛盾がない。
「なるほど。理解した。つまり、憑依の魔法に私の知らない…ユグドラシルとは異なるこの世界だからこその副産物の様な使用法があった。というわけだな?」
「流石はアインズ様です。話が早い!!」
<憑依>
第5位階の死霊系統に属する魔法だ。アインズは死霊系統特化の魔法詠唱者として取得しているが、ロールプレイのために取得したにすぎない。
正直、使いどころが難しい魔法であり、実践で活用した経験に覚えがない。
だが、ゲーマーとして効果は覚えている。
端的にいうと死体に乗り移るという効果だ。
乗り移った死体は既定のダメージをうけるまで、または一定時間が経過するまで操作することができる。
使用例として一般的なのは、ダンジョンの下見に使う捨て駒の確保が挙げられるが、同じ用途で代用手段が多いジャンルだ。
同じ死霊系統でも<不死の奴隷・視力〉などが挙げられる。しかもこちらは、わざわざ死体の確保を行う必要がない。
だが、<憑依>にしかないメリットも存在する。
特筆すべきなのは、支配対象のスキルや魔法を使用できることだ。これは非常に便利だ。
理論上はワールドチャンピオンの<次元断絶>も使用できる。
(実装前にこの効果だけ聞いてたペロロンチーノさんが「なにそれ強すぎナーフしろ!!」って騒いでたな)
だが、勿論この能力には穴がある。
そもそも考えてほしいのだが、プレイヤーに死体はない。リスポーンされるのだから当たり前だ。
この時点でがっかり能力なのは確定なのだが、能力はコピーできても体力はコピーされないというオマケもついてくる。
なぜなら、支配するのは死体だから。HPは0である。
よって、一定の体力上限が与えられるのだがこれが低い。
アインズの第10位階魔法なら1発も耐えられないだろう。
(そんな微妙な魔法がこの世界では有用に使えるのか。…なんだか感慨深いな。)
「あの?アインズ様。説明に移っても構わないでしょうか?」
パンドラズアクターから困惑したような声が上がる。少々深く物思いに耽っていたようだ。
「ああ、すまないなパンドラズアクター。せっかくだ、細かく説明してくれるか?」
そこからはパンドラズアクターの独壇場だった。アインズに頼られてテンションが上がっているのか?一人オペラの様相でプレゼンテーションを開始する黄色の埴輪。
普段ならその態度を是正するアインズも続きが気になっているので、わざわざ説明を止めたりしない。
そして、パンドラ一人オペラは佳境に入る
「つぅまりぃ~。この世界あぁ~この世界の憑依はぁ~♪
「ああ、すまん。パンドラ聞き取りづらいからい普通に説明してくれるか?」
「あ、はい。つまり、この世界での憑依の効力も死体に術者の精神を乗り移らせることが主な能力です。」
「ふむ、やはり主な能力に変化はないか。しかし、パンドラズアクターよ、死体に乗り移っても大して意味はないのではないか?」
アインズの目的は精神の疲労の除去。達成するためには三大欲求を解消できる体が必要だ。
スケルトン系統であるオーバーロードでは勿論、不可能だ。現に今、困っているのだから。
しかし、単純に肉がつけばいいかというとそういうわけでもない。
死体は、当たり前だが心臓は動いていない。つまり、臓器も通常に作用していないことは確かだ。そして、触覚等の感覚も生身の人間に比べて鈍いだろう。
つまり、死体に憑依したところで
飲食→胃や腸が働いていないので難しい
就寝→死体に脳の活動はないので寝ない
性行為→血が通ってないので勃〇しない。
そう、死体に乗り移ったところで状況は今のアインズと大差ないのだ。
(こいつ、頭いいからな。俺の疲労解消には、生身の体が必要って前提は理解してるはず…
つまり、ここからが新発見の部分なのだろう)
アインズは考える。どういった能力ならあり得るか。
・乗り移った死体の五感は、生前のものに準拠している。
・血は通ってないが、異世界の謎理論で飲食が可能
この辺りだろうか?
(異世界の理で変化した魔法か。少しワクワクするな。)
「なるほど。それで、ここからこの魔法の能力の…新領域の説明に入るのだな?」
「いえ、能力の説明は以上です」
「…ん?」
「はい?<憑依>の能力は以上です。アインズ様」
(何を言っているんだ?こいつは)
どうやら、<憑依>の能力に変化はないらしい。つまり、<憑依>は死体に乗り移るだけの魔法であるとのことだ。
アインズは露骨にガッカリする。
(確かにさぁ、骨から腐った肉になればある程度は発散できるだろうよ。でもさぁ、そんなんじゃ精神の疲労は中途半端に溜まっていくよね?)
1世紀以上前の漫画の人物も確かその様なことを言っていた。
『フフ......へただなあ、カイジくん。へたっぴさ........!欲望の解放のさせ方がへた....。カイジくんが本当に欲しいのは...焼き鳥こっち......これを下のレンジでチンして....ホッカホッカにしてさ......冷えたビールで飲やりたい......!だろ....?」、「フフ....。だけど......それはあまりに値が張るから....こっちの........しょぼい柿ピーでごまかそうって言うんだ.....。カイジくん、ダメなんだよ......!そういうのが実にダメ....!せっかく冷えたビールでスカッとしようって時に....その妥協は傷ましすぎる........!そんなんでビールを飲んでもうまくないぞ......!嘘じゃない。かえってストレスがたまる....!食えなかった焼き鳥がチラついてさ..........全然スッキリしない....!心の毒は残ったままだ、自分へのご褒美の出し方としちゃ最低さ....!カイジくん.....贅沢ってやつはさ........小出しはダメなんだ........!やる時はきっちりやった方がいい....!それでこそ次の節制の励みになるってもんさ....!違うかい......?」
中途半端は、何もしないより酷なこともある。
最近、大図書館で立ち読みした内容だが、元人間のアインズとして共感できるものだった。
(いや!待て!俺は元人間だから欲求についてよく知ってるが…こいつは…)
そこでハタと思いつく。アインズはパンドラズアクターの顔を見る。
パンドラズアクター「?」
こいつも三大欲求なくね?
そう、パンドラズアクターは二重の影。異業種である。
(確か、味覚もないし維持の指輪を24時間してるから寝ない。性欲は…知りたくないが、基本ないだろう)
つまり、元々パンドラズアクターは今回の依頼に充てるのは不適格だったのではないだろうか?
(知りもしない感覚について、依頼されても困るよなぁ)
アインズだって、ソリュシャンやエントマに「おいしい人間を寄こしてほしい」と依頼されてもこなせる自信はない。
そのことに思い至ったアインズは謝罪しようとした。がパンドラズアクターが言葉をつづけたために阻まれる。
「アインズ様。変化したのは能力ではなく、対象ですね。つまり、この世界の仕様に引っ張られた結果でございます」
(何を言ってるんだこいつは?)
先と感想は一緒だが意味は別である。
難解な言い回しで分からない。
しかし、意味を問うのも恥ずかしい。
(変わったのは対象…<憑依>の対象…死体だよな?死体?あっ!!)
「アンデッド!!」
「その通りでございますアインズ様。この世界は“死体”という定義にアンデッドが含まれているのですよ」
続く
続く
焼き鳥とビール食べたい