「憑依の魔法だと…?」
「ええ、憑依の魔法ですよ。父上!!!」
アインズは自らの鋭利な形の顎に手を持っていく。
目の前で舞台俳優よろしくの過剰演技している埴輪は努めて無視する。
「なるほど…それは盲点だったな」
―――時は少し遡る―――
アインズ・ウール・ゴウン。ナザリックの絶対支配者であり、僕達の忠義を余すことなく受けている絶対支配者だ。そんな彼は
「癒しが…癒しがほしい…」
疲れ切っていた。
アインズはこの特大の疲労を抱えた原因を思い出す。
「いや、ありがたいんだけどさ…実際。あいつがいなかったら今も財政ひっ迫でヒィヒィ言ってた訳だしさ。本当、困ったときのデミウルゴスだよ」
先日、彼の部下であるデミウルゴス主導で実行された作戦『ゲヘナ』。この作戦は4つも利点を持ちつつ、ナザリックへの被害はほぼ0という驚異の効率性を持つ作戦だった。
(いや、被害はあったな。あの娘…確かイビルアイ…あいつは折を見て、エントマにくれてやらないとな)
どす黒い感情が沸き上がるが、すぐに鎮静化される。これはアインズの種族特性の精神鎮静化の効果である。一定の感情が積もると、その感情を無効化してくれる(してしまう)スキルである。のだが…
(?。おかしい。普段ならこれくらいで鎮静化が起こるはずないんだがな)
あの時の怒りは一度抑え込んだものであり、シャルティアの件もあったおかげか、アインズはエントマの件の怒りをさほど引きずってはいなかった。
自分は思っていたよりも
(いや、これも恐らく精神の疲労が溜まった結果だろう)
先の『ゲヘナ』の被害はエントマが瀕死に追い込まれたこと…ともう一つある。
それは、アインズ自らの心労の蓄積だ。
第七階層守護者デミウルゴスは有智高才、秀外恵中…つまりとにかく頭がいい。
そして、そんな生まれながら(生み出されながら)の天才はなんとアインズのことを自らの及ばない大天才であると誤認しているのだ。
これがきつい。とにかくきつい。
今回の『ゲヘナ』も例に漏れず、アドリブの嵐であった。途中でなんとか状況の確認を行えたが、そこにたどり着くまでアインズはアンデッドでありながら生きた心地がしなかった。
(大体、何が「流石アインズ様!!」なのか全然分かってないんだよな…。そもそもデミウルゴスの言う「端倪すべからざる」すら意味わからないからね俺!!)
今までにアインズの精神の奥底に溜まっていた疲労は、アインズ本人が直視していないだけでかなりのモノである。そんな死に体の彼への
結果、彼はかつてないほどに疲れていた。…奴の接近に気づかぬほどに。
「こ~れはアインズ様~ご機嫌麗しゅうございます!!!」
「!!」
曲がり角から出現した黄色い埴輪にのけ反りそうになるが、必死にこらえる。
彼の名はパンドラズアクター。アインズ自ら作成したNPCである。
よって、多少は支配者らしからぬ行動をとっても問題ない相手なのだが、普段から支配者ロールを維持している彼には難しい注文であった。
「気晴らしの散歩もたまには、してみるものですねぇ!美しいナザリック!!美しい御身!!今、私の心は最高に満たされております!!!」
「おお…そうだな」
アインズは、自らのSAN値がゴリゴリ削られる音を聞いた気がした。
(畜生~!!やっとのことでメイドから解放されたと思ったらコイツに鉢合わせるとは!!辞めて!!俺のライフはとっくに0よ!!)
精神への追加攻撃。アインズの精神に安寧の地はないのであろうか!!!?
「ところで、アインズ様はなにやらお疲れのご様子。ひとつ私にアインズ様のお悩み預けていただけませんか?」
続く