感染症ムラの固執
繰り返すが、第二波対策の基本は感染が確認された地域で、無症状者を含め、広くPCR検査を実施することだ。そのためには検査費用を公費で支払うための体制整備が欠かせない。現在、コロナのPCR検査の保険償還価格は2万円弱だ。これを自腹で払える人は限られている。
世界中が体制整備を急いでいる。日本と同じく感染拡大に悩む米国も例外ではない。ニューヨーク州には750カ所の検査センターが設置され、希望する市民は即日、無料で検査を受けることができる。ニューヨーク州はコロナの抑制に成功している。フランス政府も、すべてのPCR検査を無料とし、処方箋なしで実施できるようにした。
日本は正反対だ。厚労省も専門家分科会も無症状者を検査対象とすることに否定的だ。7月16日、分科会は無症状の人に対するPCR検査について、感染している可能性が高い人を除き、公費で行う行政検査の対象にしない方針で合意、政府に提言している。尾身茂・分科会会長は、メディアの取材に答え、「必要なのは、すべての無症状者への徹底的なPCR検査ではない」とコメントしている。
分科会の委員の中には、PCR検査の必要性を否定する人までいる。「サンデー毎日」(毎日新聞社/7月12日号)に掲載された記事で、岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長は「第二波、ワクチンは不明でもPCR検査信仰は消える」とコメントしている。岡部氏は分科会の委員で、元国立感染症研究所の幹部だ。「感染症ムラ」の主要なメンバーの一人である。
これは異様だ。私の知る限り、世界中で、このような意見を言っている専門家はいない。英科学誌「ネイチャー」は7月16日号で、「パンデミックを終焉させることに役立つ新しいコロナウイルス検査の爆発的な発展」という記事を掲載した。この記事では、PCR法やその亜型であるLAMP法の発展だけでなく、遺伝子編集技術であるCRISPR法を用いた新法の開発が進んでいることなどを紹介している。世界最高峰の医学誌である「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」は、7月23日に「米国でのCovid-19診断テストの迅速な拡大— NIH RADxイニシアチブ」という特別レポートを掲載した。
このように、世界でもっとも権威ある科学誌・医学誌と、厚労省や専門家の意見が真っ向から対立している。マスコミは、この状況を国民にわかりやすく伝え、国民が判断するのをサポートしなければならない。ところが、そのような記事は皆無といっていい。
オープンに議論すれば、多くの感染者を見落とし、現場の保健所職員に膨大な負荷をかけてまで、なぜ感染症ムラが濃厚接触者対策に固執するかも見えてくる。検査を拡大することで、厚労省・感染研を中心とした統制が効かなくなるからだ。
新型インフル流行時の失敗、再び
私は、この光景に見覚えがあった。厚労省と専門家、さらにマスコミが一体となって、世界標準と異なる「日本型モデル」をゴリ押しする状況は、2009年の新型インフル流行のときと瓜二つなのだ。日本の感染症対策は変わっていない。
2009年に問題となったのは、新型インフルワクチンの接種回数だ。10月16日に厚労省で開催された意見交換会で、免疫が上がりにくいとされる1~13歳未満の小児以外は、標準である2回接種でなく、原則1回接種とすることが合意され、新聞各紙は大きく報道した。この結果、ワクチンの準備量は、2回接種を想定した場合の2700万人分から大幅に減少し、国産ワクチンで賄えることとなった。この報道を、多くの国民は吉報と感じた。