[3-55] さあ、武器を取り戦いを挑みたまえ!
「……エヴェリス! 『映し身』が現れたわ、姿はエルフの巫女長に酷似!」
『うへぁ……それっぽい数字は丁度観測したけど、マジぃ?』
繋ぎっぱなしの
同時にルネは己の魂の一部を摘まみ上げるように、自らに紐付けられた
輪郭も朧なエルフの亡霊は、姿を現した時にはもう全て理解した様子で、能面の如き表情のクルスサリナを緊迫の面持ちで見上げていた。
「お客さん」
『厳密には……あれは『映し身』ではありません。
降霊、あるいは降神状態と言うべきでしょうか……効率的に力を振るうために巫女の霊媒能力をテコとして操っている状態。
あなた方が魔力をより強く遠くへ飛ばすため、大砲を使うのと同じことです』
「……だとすると重要なのは、あれが普通の『映し身』より強いってことと、中に
『はい』
クルスサリナが何かを捏ねるように手のひらを動かすと、その中に野球ボールほどの光の球が生まれる。
それは次の瞬間、高水圧洗浄機のように純白の閃光を吹き出した。
「わっと!」
地面を抉りながら一直線にルネを狙った攻撃。
ルネは一歩横にステップして回避し、背後で何人かを巻き込んだ。
突然大地が裂けて正体不明の何かが現れ、敵味方共に様子をうかがっている状況だったが、その一撃で時間が動き出した。
今の一撃をお互いに『敵対勢力からの攻撃』と見做して、危機感に突き動かされるように戦闘を再開したのだ。
『パニーラ居る!? ちょっと収容所の様子見てきて!
……姫様ごめん、多分それめっちゃ強いけどどうにか対処して!
こっちは地脈奪還するから、最悪数十分耐えてくれればそれ動かなくなるんで』
「分かったわ」
『アラスター、状況は把握してるわね。あれはわたしが相手をするわ』
『かしこまりました』
「代わりに……」
ルネがクルスサリナと戦うと、先程までルネと戦っていた敵部隊長パーティーがフリーになってしまう。
だが、丁度ルネの側も新手がやってきたところだ。
南からの敵増援の到着に備えていたが、不要になったと判断してこちらの戦場に回された駒が。
「ウダノスケ。チェンシー。彼らの相手を」
「承知!」
「了解致しました……」
戦塵を切り裂くように姿を現したのは、着流し姿で三度笠を被った侍のようなもの。
そして、竜の籠手を両腕に身につけ顔に札を貼り付けた女格闘家だ。
「チェンシー!」
「あのグールは、あの時の……!」
敵のパーティーは、ルネとクルスサリナの様子をうかがいつつ巻き込まれぬよう慎重に距離を取る。
新手の二人こそが相手であると見定めたようだ。
ルネもそちらの戦いは一旦忘れ、神の傀儡と化したクルスサリナを見据える。
父祖だかなんだか知らないが、地脈に宿る意思に乗っ取られた巫女長。二度あることが三度あるのかは知らないが、少なくとも一度起きたことは繰り返した。
ここまでされたらいい加減
第一にはもちろんリエラミレスを利用するための餌として。エルフたちの支配を進める上で、彼女はまだ必要だ。
そしてさらにもう一つ。傍らに浮かぶ先代巫女長の亡霊との約束でもあった。
――サーレサーヤが地脈の奪取に協力する交換条件……
それは『クルスサリナとリエラミレスの命が危機にさらされた時、各人一度だけ助ける』こと。
サーレサーヤを捕らえているのは、帝国青軍を殺すという復讐の契約だ。
復讐が果たされた時、その魂をルネの餌とする以外に、サーレサーヤに課せられた義務は無い。
もちろん目的達成のためにルネに協力することは彼女もやぶさかでないだろうけれど、ルネに協力を求められた時、サーレサーヤは抜け目なく追加の条件を付け加えていた。
「誰を騙しても、嘘をついても、利用しても。
……魂を賭けた契約だけは誠実に守るのが、悪の誉れってものじゃないかしら?」
『滅……せよ……』
クルスサリナは荘厳に、しかし機械的に抑揚無く呟く。
その手が白い光に包まれると、腕と一体化した巨大な武器に変じた。
「……弓?」
弓だ。
光で形作ったような巨大な弓がクルスサリナの手に付いている。
彼女がそれをルネに向けると、弦は引かれてもいないのに勝手に引き絞られ、光の矢が撃ち出された。
閃光。
唸り。
爆発。
「うわあ!?」「ぎゃああ!」「ひええええ!」
発射の瞬間、うなじがチリ付くような感覚を覚えて、ルネはちょっと大げさに右前方へ≪
結果的にその判断は正しく、先程の薙ぎ払いビームよりさらに威力を増した一撃が戦場を貫いていた。
小さなハーフパイプみたいな窪みが一直線に刻まれて、その先に居た者が敵味方問わず吹っ飛ぶ。
「弓って言うか大砲じゃない、あんなの……」
しかも味方の巻き込みも上等で撃ち込んでくるという無茶苦茶ぶりだ。純粋な『対邪気』エネルギーによる攻撃なら人族にダメージは無いだろうが、そこに直接的な破壊力も上乗せしている以上、巻き添え死は免れない。
絶妙に青軍側の被害の方が少なそうな場所を狙っている気もする。とすると一応敵味方は識別しながらも、必要な犠牲を容認しているということか。
この大破壊も彼女にとっては渾身の一撃ではなく、些細な牽制に過ぎなかった様子で、クルスサリナの弓には既に次の矢がつがえられている。
魔力リソースそのものである地脈と接続した彼女は、個人では到底持ち得ないはずの膨大な魔力と、それを操る……おそらくは代償に命を削って……収束能力を得ている。
無表情なクルスサリナから次の矢が放たれる。
瞬間、ルネの身体からは肉の重みが失われた。
『≪
魔剣から変じた深紅の魔杖に魔力を乗せ、赤黒き死の閃光をルネは放つ。
ルネを狙った矢と、死の閃光は正面からかち合い、衝突の余波として周囲に衝撃を撒き散らしながらせめぎ合った。
白々と輝く魔力の矢が死の閃光を切り裂いて逆流し……しかし、届かない。
相殺されて魚の小骨ほどに磨り減った矢を、ルネは魔杖の一振りで叩き落とした。
『≪
間髪を入れずにルネは次の魔法を放つ。
ルネの周囲の地面に血溜まりのような染みが広がると、そこから酸化しかけた血の色の槍が対空砲のように撃ち出された。
ばらけつつ飛来する槍に、一本の矢では対抗できない。
クルスサリナの手の弓が形を崩し、そのまま彼女は手を打ち振るう。
弓の残骸が飛沫のようにばらまかれ、白く眩い爆発を起こした。その中に突っ込んだ呪槍は急速に分解されてへし折れる。
理論的に練り上げられた聖気もどき……対邪気属性の爆発だ。
その輝きを背に、クルスサリナが迫る。
両手には弓の代わりに、エルフたちが使う獣骨の剣を模したと思しき長剣が光によって象られた。
――魔法の撃ち合いじゃ埒があかないと見て接近戦に切り替えてきた? なんかゲームのAIみたいな動き……
空中でステップし、彼女はつむじ風のように両手の剣を振るった。
神に捧ぐ舞いのように、一撃一撃が装飾的だ。
だがそれは物理的な威力も充分で、何よりアンデッドの天敵となる邪気祓いの力を備えている。
またデュラハンの姿に戻ったルネは、目まぐるしく手首を返して手の中で滑らせるように深紅の魔剣を振るい、攻撃を捌く。互いの剣が削られて徐々に刃毀れしては、蠢くスライムのように再生した。
剣戟を演じるクルスサリナの背後から伸び上がるように光が飛び出す。輝く蛇のようにそれは宙を走りルネ目がけて突進した。
「≪
ルネを中心に荒々しく吹き荒れる黒い風が渦を巻いて立ち上る。
巻き込まれて引き裂かれる寸前にクルスサリナは距離を取った。
襲い来る魔法の光は、その竜巻に絡め取られて破壊される。
その攻防一体の魔法すら切り裂く輝かしい突きが一閃。
ルネは魔剣の腹で受け止め、力尽くで押し返し返す刃で反撃。バックステップするように宙を舞い回避しつつクルスサリナは光弾をばらまく。
「≪
ルネを包む魔力の膜がそれを防いだ。
魔法と剣の合わせ技で土砂降りの雨のように猛然とクルスサリナは攻めかかる。それをルネは防いだ。ただ防いだ。
アンデッドであるルネに肉体的疲労は無く、蓄えられる魔力量も地脈級であることからそう簡単には魔力切れしない。
耐久戦になればルネの土俵だ。そして時間さえ稼げば、不安定な地脈制御の上で辛うじて存在している
だが、その斬り合いが何十合かに至ったところでクルスサリナは突然行動パターンを変えた。
剣を打ち付け合って弾き合い、間ができたその時、高く手を掲げてそこに魔力を集める。
何か大技を使う気かと見て取ったルネは、逆に突進する。
大抵の魔法なら、魔力量の暴力で防げるし、必殺の一撃を食い破って隙を突けば大打撃を与えられるはずだから。
しかしクルスサリナの狙いは、ルネではなかった。
収束した魔力は噴水の如く真上へと噴き上げられる。
シャワーノズルを上向きにしたような魔力の噴射だった。
「えっ?」
そしてクルスサリナは向かってきたルネの魔剣を双剣にて打ち払った。
噴き上げられた魔力の閃光は空中で幾重にも枝分かれし、光の雨となって降り注ぐ。
そして天地を揺るがせる爆発を起こした。
それは『絨毯爆撃』とでも表現する方が適切だった。
狙いはルネではなく、周囲の戦場。
――時間稼ぎを見抜かれた? 戦いながら援護射撃を……
周囲、と言うよりもそのほとんどは黄巾力士とオーガがぶつかり合う戦場に着弾していた。
黄巾力士は装甲をヘコまされたり、ちょっと体勢を崩した程度だが、直撃したオーガにはそれなりの手傷。
何より狼に乗って駆け回っていたダークエルフの遊撃部隊が特に大きな被害を受けていた。乗騎ごと投げ出されて倒れた者たちを救出すべく、無事だった者たちが対応している。
既に敵ゴーレムの支援要員が壊滅しかけている現状、今更彼らを狙う意味がどれほどあるのかは分からないが、クルスサリナの攻撃は容赦無く迷い無い。
さらに掲げた手の上に魔力が圧縮されていく。
その圧力に耳鳴りさえ覚え、バネをたわめるように魔力が練られた、しかし、その時だった。
摩擦熱で空気を焼き切りそうな勢いで矢が飛び、クルスサリナの手を貫いた。
「やめて、クルス!」
『リ……エ……ラ……?』
リエラミレスが弓を構えていた。
怒りとも悲しみともつかないものに顔を歪めて。
放たれようとしていた魔力は歪み、ブレる。
クルスサリナはリエラミレスの姿を見て、矢が貫通して突き刺さっている自分の手を見て、憤怒のままに固定されていた能面のような表情が、僅か、動いた。
それきり、凍てついたように彼女は動かなかった。
「止まった?」
『あ、ああ…………』
と、思いきや。
か細く震える声を零しつつ、クルスサリナは震えだす。
『ああああああああああああっ!!』
彼女の絶叫と同時。
白輝の暴圧が全てを薙ぎ払った。
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