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2013年7月号
特集1 - お米消費 ニューウェーブ
復興祈念!!原材料全て岩手県産の清酒 
顔写真

佐藤 稔英 Profile
(さとう・なるひで)

地方独立法人岩手県工業技術センター
食品醸造技術部 専門研究員


南部杜氏で知られる岩手県には、県オリジナルの酒造好適米や清酒酵母はあったが、種麹はなかった。東日本大震災後、岩手県工業技術センターは酒造組合、株式会社秋田今野商店、独立行政法人酒類総合研究所の協力を得てオリジナル種麹を開発。大震災からの復興を願い、原材料全て岩手県産でつくった清酒が県内21の酒造会社から売り出されている。

「オールいわて清酒」ロゴマーク

地方独立行政法人岩手県工業技術センターは岩手県酒造組合、株式会社秋田今野商店、独立行政法人酒類総合研究所(以下「酒総研」)との共同研究により岩手県のオリジナル麹菌「黎明平泉(れいめいひらいずみ)」を開発した。これまで岩手県では清酒づくりに欠かせない酒造好適米および酵母は県オリジナルのものを選抜・使用していたものの、オリジナルの麹菌はなかった。米、酵母、麹と全て岩手県産の原料がそろい、それらで醸された「復興祈念オールいわて清酒」を岩手県内酒造メーカー21社が2012年度から販売している。

オールいわてへの想い

2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波で、岩手県内では酔仙酒造(陸前高田市)、赤武酒造(大槌町)、菱屋酒造店(宮古市)の3つの酒蔵が全壊、内陸部でも多数の蔵で貯蔵酒が亡失したり、タンクや壁が破損するという甚大な被害を受けた。さらに、歓送迎会などが自粛され、県内の清酒出荷量も前年比で4割減少した。その後、「自粛ではなく普段どおりの行動、消費活動で被災地を支援しよう」という「ハナサケ!ニッポン!」プロジェクトを皮切りに支援の輪が広がり県外への出荷が劇的に増えた。こうした中、被災地岩手の復興の象徴としてオールいわての清酒をつくりたいという要望が岩手県酒造組合からあり、オリジナル麹菌の開発に着手した。

オリジナル麹菌「黎明平泉」の育種開発

これまでに岩手県では麹菌を開発したことがなかったため、酒総研、秋田県の種麹メーカーである秋田今野商店から選抜対象となる麹菌の提供および麹菌の取り扱い方法等の技術提供を受けた。岩手県工業技術センターでは提供された麹菌株を元に米麹を作製して麹菌株の特徴を分析し、岩手県酒造組合は米麹の官能評価を行った。

最終的に29種類の麹菌の中から香りや色などを吟味して岩手県の目指す酒に合うオリジナル麹菌2種類を選抜。この2種をブレンドしてオリジナル麹菌「黎明平泉」が完成した。

「オールいわて清酒」の特徴

黎明平泉は県酒造好適米「吟ぎんが」を使用して試験を行い、「岩手県産米や南部杜氏ならではの酒造技術との相性が良い麹菌」という点を重視して選抜した。うまみや甘みのバランスが良く、後味がスッキリしているのが特徴である。また、2012年度に科学技術振興機構(JST)復興促進プログラム(マッチング促進)事業に採択された「『オールいわて清酒』ブランド化のための評価技術の確立」プロジェクトにおいて、他県産純米酒と比較して、県オリジナル酵母の特徴である「穏やか」で「上品」な香りを多く含むことも明らかとなった。

「オールいわて清酒」は岩手県独自のストーリー性があり、また南部杜氏の独特なつくりや蔵元の想いが加わり魅力ある商品群を形成している。販売も好調で、現在では岩手県で生産される純米酒・純米吟醸酒の約半分が「オールいわて清酒」となっている(写真1)。

写真1  市場に出回る「オールいわて清酒」

おわりに

「黎明平泉」には「平泉の世界遺産登録を震災からの復興に向けた新たなスタートの象徴として位置付け、黎明(夜明け)を迎えて一歩を踏み出す」という思いが込められている。岩手県オリジナルの麹菌の開発を経て製造された「オールいわて清酒」の完成は、岩手県酒造業界の悲願であり、復興に向けた大きな一歩と言える。


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