9話 ザックとの決別
ぼくはおじいさんの病気を治した後、冒険者ギルドに戻ってきた。
ギルドマスターの前で、ぼくは地下であったことを、正確に報告した。
ザックさんは発言を許されず、終始黙って、ぼくらの話を聞いていた。
その結果、ザックさんの処遇は、以下の通りとなった。
・殺人未遂罪に対する罰金を、騎士団に支払うこと。
・今までの精神的な苦痛を与えたことに対する慰謝料を、エレンに支払うこと。
・虚偽の申告、仲間への殺人未遂等、ギルドの評判を落とす行為に対する迷惑料を、冒険者ギルドに支払うこと。
・上記金額を用意できなければ、犯罪奴隷となり、奴隷商人に売り飛ばされる。
ザックさんは貯金を切り崩し、マイホームを売り払った。
武器や防具、所有しているアイテムを全て売却。
それでも支払い金額には達しなかった。
冒険者ギルドから借金をすることで、なんとか全ての支払いを済ませた次第。
話は数時間後。
ギルドマスターの部屋にて。
「ザックよ。金の支払いは済んだが、おぬしは一つ、するべきことが残っているであろう?」
ソファセットに座っているのは、初老の男性。
彼がこの町の冒険者ギルドの長だ。
「は……? もういいだろ……。帰らせてくれよ……」
ザックさんはすっかり憔悴していた。
財産を全額没収されたうえに、借金までかかえることになったのだ。無理もない。
「ふざけないで! 一番重要なことを忘れているでしょう!? エレンへの謝罪よ!」
隣で聞いていたアスナさんが、柳眉を逆立てていう。
「チッ……! 金払ったんだから十分じゃあねえか」
「何よその態度!? ちゃんと反省してるの!? この子の心を深く傷つけたのよ!? 謝りなさい!」
アスナさんに気圧され、ザックさんはたじろぐ。
「そんなに……そんなにこのガキが大事なのかよ! こっちは一文無しの借金地獄で苦しむことになるんだぞ!? おれの心配しやがれよ!」
「そんなの自業自得じゃない! 謝って!」
「……う、うるせぇぇぇ!」
ザックさんは立ち上がると、アスナさんに向かって殴りかかろうとする。
ぼくは彼女の前に躍り出て、パンチを受け止める。
「なっ!? は、速い! なんだその動き!?」
「アスナさんに、ぼくの大切な仲間に手を上げることは……許さないぞ!」
がつん! とハンマーで頭を殴られたような表情になる。
「あ、あああアスナ……お、おま……パーティ組むのか? おれ以外のヤツと……?」
アスナさんはぼくの隣に立って、肩に手を置いて言う。
「ええ。その通りよ。今日限りで、あなたとの縁は切ります。……二度と私たちの前に顔を出さないで」
ふらり……とザックさんはよろける。
ぽすん、と地べたにへたり込む。
「エレン。怖くなかった? 手、痛くない?」
「いえ、平気です。心配してくださってありがとうございます」
ふふっ、とアスナさんが微笑む。
「そんな顔……一度だって、おれに向けてくれたことなかったじゃないか……チクショウ……チクショウ!」
ダンッ! ダンッ! とザックさんが地面を手でたたく。
「ザックよ。エレンへの謝罪がまだであろう?」
「うる、せぇぇぇ!」
ザックさんは立ち上がって、ぼくらに怒鳴り散らす。
「金払った! ならもう十分じゃねえか! おれは帰るぞ!」
つばを吐き捨てて、ザックさんが……いや、ザックが出て行こうとする。
「ザック! 待ちなさい!」
アスナさんが、彼の腕を強く掴んで、引き留める。
ザックは額に青筋を浮かべ、顔を真っ赤にする。
「うっせえなこの雌豚がぁ!」
懐から、彼は何かを取り出そうとする。
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危機を関知しました。
精霊使いの力が発動します。
状況打破に適した精霊を呼び出します。
スキル【先読み】を入手しました。
【先読み】の効果。
→ザックは懐にナイフを隠し持っており、それでアスナの顔を切りつける
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「パーティメンバーでもねえてめえがおれに口出しすんじゃ……ぐぇええええ!」
ザックが吹っ飛んでいく。
ぼくの拳で、彼がナイフを出す前に、頬を殴ったのだ。
彼は部屋の壁に激突する。
からんっ! とナイフがザックの隣に落ちる。
「女性の顔を傷つけるなんて、最低だよ!」
ザックは全身を強打し、動けないようだった。
「エレン! 守ってくれてありがとう!」
アスナさんがぼくに抱きついて、頬にキスをする。
感謝のキスってやつだろう。
気恥ずかしいや……。
「そ、そんな……」
一方ザックは、呆然とつぶやく。
「くそ……くそぉ……アスナは、おれのだぞぉ……ちくしょぉ……」
がくんっ、とザックが気を失う。
「こやつめ! ナイフを隠し持っておったか! 騎士を呼べ! 傷害未遂で逮捕じゃあ!」
……その後、ザックは騎士に連行された。
おそらくまた罰金を払うために借金を重ねるか、懲役刑となるだろう。
騎士に捕まれば、今まで彼が積み上げてきたもの全てを失う。
Sランクとしての地位も、名誉も、何もかも。
けれど、同情の余地はない。
ぼくを地下に置き去りにしただけでなく、パーティの仲間だったアスナさんをも傷つけた。
当然の報いだと思う。
……何はともあれ。
荷物も返したし、慰謝料ももらった。
これでぼくは、ザックと完全に決別した。
もう何があっても、彼のもとには戻るつもりはない。
ランやカレン、そしてアスナさん。
最高の仲間たちとともに、新しい人生をスタートさせるのだった。
★☆★
エレンが輝かしい一歩を踏み出した。
その一方で、ザックとディーナは、破滅へと向かっていくこととなる。
スキル、そして魔法の使用には精霊が必要となる。
精霊の加護を失い、精霊に嫌われた彼らの行末が暗いことは明白だ。
ここがターニングポイントだった。
土下座をしてでも、精霊使いたるエレンに謝っておくべきだったのだ。
だが、すべてはもう遅い。
あとは転がる岩のごとく、地の獄へと落ちるだけ。
こうして愚か者たちの、終わることのない転落人生が、幕を開けるのだった。
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