8話 ザックの失敗、破滅への第一歩
テイマーのエレンが、祖父を治療してから、1週間後。
ザックたちは地上に帰還していた。
冒険者ギルドにて。
「ちっくしょう……ひでえ目に遭った……」
ザックはギルドの酒場で、仲間たちと酒を飲んでいた。
「けどリーダー。良かったのか? ギルドにあんな報告して」
つい先ほど。
ギルドマスターに、ダンジョンで遭遇した事件の一部始終を報告したところだ。
ただし、虚偽を交えて。
「【予想外の敵に見舞われた。けれどエレンが自分がおとりになると自ら志願した】ってばれたらやばくね?」
「いいんだよ。エレンは
ザックは酒を飲む。
だがその表情は晴れない。
「あのくそエレンのことなんてどーでもいいんだよ。……くそっ! アスナのやつ! 馬鹿なことしやがって!」
「アスナさん大丈夫かなぁ」
「まさかエレンを選ぶなんてな。確かに前からあいつに気があるようなそぶりしてたし……」
ザックは仲間のひとりを、殴りつける。
「うるせぇ! あんなクソビッチのことなんて口に出すんじゃあねえ! ボケがぁ!」
口ではどうでもいいと言いつつ、愛する女が別の男を選んだことが、ショックでしょうがなかった。
「くそ! ついてねえ。ダンジョン出てから不運が続きやがる。ケガの治療費、壊れた武器防具の修理代。地下に置いてきた荷物もパーだ。大損だよ畜生」
それでも、Sランクパーティとしての貯蓄があったから、なんとかなった。
エレンの助言で、貯金をしていたから助かったのである。
だが彼に対して感謝する気はさらさらなかった。
「……リーダー荒れてるな」
「……こういうときディーナさんがいれば上手くなだめてくれるのに」
「たしかダンジョンに戻ってから、何日も宿に引きこもってるんだっけ? 【精霊が失われた原因を突き止めないと】とかなんとか」
ザックたちパーティメンバーは、未だなぜ、帰り道に苦戦したのか。
その原因に気づいていなかった。
無理からぬ話だ。
精霊使いという職業は、既に滅んだ伝説の職業だと思われている。
精霊に働きかけ、無限のスキルをゲットでき、敵対相手からスキルを奪うことのできる職業なんて。
そんな夢みたいなものが、この世に存在するなんて誰も信じていないのだから。
「酒だ! もっと酒をもってこい!」
「り、リーダーやめとこ。もう金ほとんどないんだし」
「うるせぇぇぇ! おれに命令するんじゃあねえ! いいんだよ! 金なんてまたダンジョンに潜って稼げばいいんだ! おれらはSランク、すぐに大金をバーッと稼げるんだからよぉ!」
……と、彼が叫んだ、そのときだった。
ガチャリ、とギルド会館のドアが開いたのだ。
「り、リーダー! あ、あれ!」
「あぁ? うっせえな……なんだよ」
振り向いて、ザックは目を見開く。
「あ、アスナ!」
純白の鎧に、亜麻色の長い髪の美少女。
魔法騎士のアスナが、険しい表情のまま、ギルドに来たのだ。
「な、なんだよぉ。おまえ無事だったんだなぁ」
上機嫌に、ザックが立ち上がって近づく。
「あの屑捨てて、おれんとこに戻って来たんだろぉ?」
にやにやと下心丸出しの笑みを浮かべながら、アスナの肩に手を回す。
ザックはこう考えた。
地下に残ったアスナが、帰ってきた。
最初は、エレンを助けようとした。
だが単眼巨人の大軍を前に、怖気づいた。
おそらくはエレンを餌にして、自分一人だけ逃げてきたのだろう。
そして、帰る場所を失ったので、またザックのもとへ戻ってきたのだ、と。
「おまえがどーしてもっていうなら、ま、パーティ復帰も考えてやらなくもないぜぇ~? その代わりおれの女になれよ。それが条件だぜぇ?」
うつむいて、アスナが肩を震わせる。
「……ざけないで」
「あ、なんだって?」
「ふざけないでっていったのよ、この最低男!」
アスナは怒りの表情を浮かべ、手を振り上げる。
そのままザックの頬を、思い切り叩き付けたのだ。
「ぶべぇええええええええええ!」
強烈な一撃を受けて、ザックは駒のようにくるくると回る。
料理の乗っているテーブルに激突し、激しい音を立てる。
「なんだなんだ?」「どうしたんだ?」
周りにいた冒険者たちが、騒ぎを聞きつけ、ザックたちを注目しだす。
「いってぇなぁ! なにふざけた真似しやがる! このくそ女ぁ!」
声を荒らげても、しかしアスナは微塵も動じない。
彼女の気迫に、たじろいでしまう。
「ふざけてるのはあなたでしょう!? エレンを地下に置き去りにするなんて! 最低よ!」
アスナの言葉に、一瞬言葉に詰まる。
「だ、だからなんだ。生きるために仕方なくやったんだ!」
「麻痺をかけて餌にすることの、どこが仕方なくなの! あれは立派な殺人未遂よ!」
ふたりの口論を、冒険者たちが聞いていた。
「り、リーダー……まずいっすよ」
「あんま大声で話さない方が……」
仲間たちが引き留めようとしたのだが、カッとなったザックは聞いちゃいない。
「だいいち、てめえも同罪だろ!? あのお荷物のくそテイマーを置き去りにして自分だけ助かったくせに!」
と、そのときだった。
「アスナさんはそんな酷いことしないぞ!」
彼女の後ろにいたその少年を見て……ザックは腰を抜かす。
「え、エレンーーーーーーーーーー!?」
地下に置き去りにして、死んだはずの少年エレンが、そこにいたのだ。
「馬鹿な!? てめえ食われて死んだはずだろ!? どうして生きてやがる!?」
ザックは立ち上がって、エレンに怒鳴り散らす。
こうすれば、この気の小さい少年は、びびって黙りこくるはず。
……そう、声を荒らげる一方で、ザックは激しい焦燥感にかられていた。
エレンが生きていることは、とても、都合が悪いからだ。
「ぼくが生きてて何が悪いんだ!」
彼は臆することなく、まっすぐに言い返してきた。
ザックは内心で動揺した。
泣き虫のエレンが、どうしてこんなにしっかりと、自分の意見を言えるのか……。
アスナはザックに近づいて、指を突き付ける。
「ザック! あなたを殺人未遂で訴えるわ! 理由はもちろん、わかっているわよね!?」
騒ぎを聞きつけて、受付嬢がやって来る。
「ザックさん。あなたには詐欺の容疑がかけられています。至急、ギルドマスターの部屋まで来てください」
アスナ達、そして、周囲の冒険者たち。
彼らはみな、ザックに非難の目を向けていた。
「お、おまえら……べ、弁解してくれよ! 仲間だろ!」
ザックはパーティメンバーに助けを求める。
「ザックが命令したし?」
「魔法かけたのはディーナだし、こっちは関係ないよね?」
だが仲間たちは、われ関せずの顔をし、そっぽ向いていた。
アスナは高らかに宣言する。
「私は絶対にあなたを許さない! 牢屋にぶち込まれるのを楽しみにしてなさい! いいわね!」
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