日本船座礁事故 国の対応が甘くないか

2020年8月21日 08時03分

 インド洋の島国モーリシャス沖で座礁した日本の貨物船から油の流出が続いている。除去作業は難航し、環境や地元経済への影響も深刻だ。政府はより強い姿勢で支援に取り組む必要がある。
 座礁したのは商船三井がチャーターしたパナマ船籍の大型貨物船「WAKASHIO」で、岡山県笠岡市の長鋪汽船が所有・管理している。WAKASHIOは荷を積まずに中国からシンガポール経由でブラジルに向かっていた。
 七月二十五日、WAKASHIOはサンゴ礁に乗り上げた後、漂流状態となった。八月六日に船体に入った亀裂から燃料である重油約千トンが流れ出た。現地では油の回収を続けているが、サンゴ礁に悪影響が及ぶ処理剤が使えず人々が手作業で油をすくっている状態だ。
 さまざまな海洋生物が生息し「命のゆりかご」といわれるマングローブ林にはすでに大量の油が付着。現場近くには湿地の環境保全を定めたラムサール条約の指定地域もあり、被害が及びつつある。地元の暮らしを支える漁場も含め、事故による環境への影響は十年以上続くとの指摘もあり状況は「極めて深刻」だ。
 政府は現地に油除去の専門家らを派遣し対応にあたっている。コロナ禍の影響もあり派遣規模に限界があることは理解できる。ただ首相や関係閣僚によるこの問題についての言及は多いとはいえず、関心の低さが目立つ。
 さらに事故発生から一カ月近くたっている。環境破壊だけでなく地元の人々の暮らしへの打撃を考慮すれば、政府の対応は消極的で遅いと指摘せざるを得ない。
 支援にはフランスやインドも乗り出している。当事者である日本は、積極的に情報発信をし、支援のけん引役となるべきだ。
 今後、モーリシャス政府は国際条約に基づき船主企業に賠償を求める方針を示している。ただ賠償だけでなく、原因究明や再発防止などについても関係企業は誠実に対応する必要がある。
 事故が起きた海域や近くの沿岸部は、その美しさから観光地としても世界的に有名だ。事故への国際的な注目度は予想以上に高いとみなければならない。
 今回のような海洋汚染事故に対し、当事者国としてどう対応するかは、国の品格が問われる問題でもある。現地の状況やモーリシャス側の具体的な要望を把握する上でも、特使の派遣を真剣に検討すべきである。

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