[PR]

 国会議員としての職務の公正に続いて、裁判の公正まで傷つけようとした疑惑が持たれている。由々しき事態だ。

 東京地検が衆院議員の秋元司被告を証人等買収の疑いで逮捕した。議員はカジノを含む統合型リゾート(IR)事業をめぐり、担当副大臣だった当時、中国企業側から現金などを受け取ったとして、今年初めに収賄罪で起訴されている。

 今回の容疑は、その贈賄側に裁判でうその証言をするよう持ちかけ、見返りに3千万円を渡そうとしたというものだ。実際に面会して依頼したとされる関係者を今月4日に地検が逮捕したが、議員は関与を否定してきた。真相の解明が待たれる。

 この罪は3年前、組織犯罪処罰法を改正して設けられた。同時に導入された「共謀罪」には反対論が巻き起こったが、証人を買収する行為を罰することは大きな対立点にならなかった。

 法案審議にあたった自民党議員は、偽証によって裁判が妨害され、犯罪が処罰できなくなってしまうおそれを指摘。証人等買収罪の制定を「非常に意義がある」と評価していた。その最初の摘発が国会議員の汚職疑惑に関わるものとなったのは、皮肉と言うほかない。

 安倍政権成長戦略の目玉と位置づけるIR構想は、根底から大きく揺らいでいる。

 ギャンブル依存症への根本的な対策は示されず、秋元議員の事件で公平な事業者選定ができるのかにも疑問符がついた。政府はIR整備の意義や選定基準を盛り込んだ「基本方針」を1月中に策定するとしていたが、先送りされたまま、今後の段取りは明らかになっていない。

 さらに新型コロナの感染拡大の影響で、海外のカジノ事業者が日本への進出を断念したり、新たな投資どころではない状況に追いこまれたりしている。

 誘致を検討してきた自治体の間にも混乱が広がる。

 横浜市は、事業者の公募条件などを定めた市の「実施方針」を今月公表する予定だったが、林文子市長が19日、見送りを表明。20年代後半をめざしていたIRの開業時期についても「かなり遅れる」と述べた。市民の間には構想そのものへの反対が強く、誘致の賛否を問う住民投票をめざす動きもある。

 一貫して前向きだった大阪府・市も、目標としてきた25年4月までの開業を断念した。秋元議員の再びの逮捕は、さらなるイメージ悪化を招くだろう。

 IRが真に地域住民のためになるのか、自治体は見定める必要がある。政権もまた、数々の疑念にふたをして政策を強行した果ての現実を直視し、過ちを素直に認めるべきだ。

連載社説

この連載の一覧を見る
こんなニュースも