香港民主派逮捕 法治を装う弾圧やめよ

2020年8月20日 07時57分

 香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕された民主活動家の周庭さん(23)らは保釈されたものの、今後、起訴される可能性がある。中国は法治を装った民主派弾圧を即刻やめるべきである。
 香港行政長官選の民主化を求めた雨傘運動などを通じ「民主の女神」と呼ばれた周氏や、中国に批判的な香港紙・蘋果(リンゴ)日報創業者の黎(れい)智英氏(71)ら十人が十日夜、国安法違反などで逮捕された。
 十二日未明までに保釈されたが、周氏や黎氏ら六人は外国勢力と結託して国家安全に危害を加えたとして同法違反に問われた。周氏は保釈後、「どういう理由で私が逮捕されたか(警察からは)聞いていない」と述べた。
 香港政府は六月末の同法施行前の行為は罪に問わないとし、周氏も政治的言動を控えていた。それなのに、周氏を逮捕し、本人に容疑内容も明らかにしないのは、政治的弾圧に同法を悪用したと批判されても仕方ない。
 一斉逮捕は、体制批判を中国による法制で封じる意図を露骨に示したショックの第一陣であろう。
 中国寄りの香港紙・大公報などに最近、中国政府が香港に新設した治安機関である国家安全維持公署のコメントが掲載された。同公署は、黎氏を名指しで批判し「香港警察の行動を断固支持する」との立場を鮮明にした。
 同公署が扱う事件には中国の刑事訴訟法が適用されることから、「事件に同公署が乗り出し、黎氏が大陸に移送されるとの見方も出ている」(香港紙記者)という。
 そもそも、国安法違反に問われたら、拷問もあり得る大陸に移送される恐れがあるのなら、民主派への威嚇効果は計り知れない。
 多くの香港紙が中国の強権統治に屈する中、蘋果日報は言論の自由を守ってきた。その創業者を逮捕し新聞社を家宅捜索までしたのは、中国が大陸と同様にメディアを単なる宣伝機関にしようとする狙いがあるのは間違いない。
 民主化運動や言論の自由のシンボルである周氏や黎氏の逮捕は、香港民主派全体を震え上がらせる法治を装った弾圧の序章に映る。
 人民日報系の環球時報は黎氏の逮捕後、同氏を「売国奴」と批判する社説を掲載した。周氏も保釈後に「起訴や収監されるかもしれない」と不安を口にした。
 香港民主派は今や崖っぷちに追い詰められている。日本を含め国際社会は、中国による香港弾圧に強く抗議すべきだ。

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