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 コロナ禍による学習遅れへの対応策として、この春浮上した「秋入学」。その仕切り直しの議論が、政府の教育再生実行会議で行われることになった。

 萩生田光一文部科学相は、拙速を避け、中長期の課題として検討する旨を言明している。適切な対応と言えよう。

 この問題は30年以上前から、国の審議会で何度も討議されてきた。小学校から大学までの一斉移行は社会に極めて大きな負荷をかけることが、専門家の間ではよく知られている。

 過渡期の学年の児童生徒は人数が膨らむため、教員や教室を大幅に増やす必要が生じる。進学・就職の際には厳しい競争を迫られる。保育園の待機児童問題や、企業の採用活動などにも様々な影響が及ぶ。やり方にもよるが、国・地方の財政や家計への負担は、あわせて数兆円に及ぶとの試算もある。

 そうした知見をふまえずに、「非常事態のいまこそ一気に」と一部の政治家らが前のめりになった、今春の混乱を繰り返すべきではない。

 実行会議には、まずは議論の対象を大学に絞ることを提案したい。それも秋入学への全面移行ではなく、春と秋の2度、学生を迎え入れる大学や学部を徐々に増やす道である。

 秋入学のメリットとしてよく挙げられるのは、欧米諸国などの学事暦と足並みがそろい、留学生の受け入れや送り出しが容易になることだ。だが、それにとどまるものではないだろう。

 秋入学の状況を毎年調べている民間団体・大学入学情報図書館RENAによると、帰国子女や留学生に限定せず、広く秋の募集を行う大学は全国に少なくとも17ある。そこでの実践から見えてくるのは「再挑戦」をめざす入学希望者の姿だ。

 たとえば上智大の国際教養学部の場合、国内の高校出身者では、春に合格できずに再び受けにきたという例が多い。桜美林大や聖学院大でも、「よその大学に進んだが期待とは違った」「仕事についてみて、もう少し学問を積む必要を感じた」と話す若者が秋入学の門をたたくという。軌道修正の機会を早めに提供する意義は大きい。

 学ぶ側からみると、秋入学の最大の課題は高校卒業から半年の空白が生まれることだ。だが打ち込みたい活動がある生徒にとっては、それを全うしてから受験準備に入れるのは魅力だろう。入試業務は大学には重荷だが、選抜機会が2度あれば、今回のような感染症の流行や災害など不測の事態が生じても、柔軟な対応がとりやすい。

 多様で個性的な学生が集えば大学の魅力も増す。無理のない取り組みで可能性を広げたい。

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