慰安婦支援では蜜月で来た文大統領

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国からの補助金と国民の寄付で運営されている市民団体の会計が不透明で杜撰

 目下、韓国社会における慰安婦運動が、大きい岐路に立っている。去る5月13日、誰よりも慰安婦運動に率先してきた李容洙(イ・ヨンス)さんが記者会見を開き、「(慰安婦の支援活動を展開してきた)正義連の(反日デモである)水曜集会が学生に憎悪と傷だけ教え込んでいる。水曜集会で募集した寄付金をお婆さんたちに使わず、どこに使われているのかわからない」と暴露した。また、「尹美香(ユン・ミヒャン)・正義連元理事長が国会議員になってはならない」と主張し、「今後の水曜集会にも参加しない」と宣言した。いわゆる「正義連事態」である。改めて、日韓関係史を専門とする評論家が、ゼロからこの組織について解説する。

慰安婦支援では蜜月で来た文大統領

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 1990年発足の挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)は長らく慰安婦をサポートしてきた。これが、2016年に設立された「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶財団(正義記憶財団)」と18年に統合し、「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」となったのだ。

 今回、正義連の会計不正疑惑と、正義連と尹美香元理事長をめぐる補助金や寄付金の用途などの各種疑惑があふれ出て、韓国社会は、これを擁護する側と非難する側に分かれて熾烈な攻防が繰り返された。

 メディアでは連日、正義連と尹美香個人の過去と現在の活動に対する集中取材が行われ、一つ、二つと明るみに出た正義連と尹美香ら慰安婦活動家たちの実体に、韓国の一般市民は愕然した。真に様々な問題点が露呈されたが、その中で重要なことを幾つか挙げてみると、まず正義連の会計問題が深刻だということだ。これは検察の調査によって明らかになるであろうが、国からの補助金と国民の寄付で運営されている市民団体の会計が、あまりにも不透明で杜撰である。

北との距離は縮まり、日本との距離は一層遠ざかった

 そして市民団体、その中でも、女性の人権団体出身の政官界人士のネットワークが作られており、彼らが正義連の活動を積極的に支援しているということが分かった。もし正義連と尹美香をめぐる疑惑が、検察の捜査によって事実だと判明すれば、彼らもその責任から逃れることはできないだろう。

韓国の反国家主義的団体の日本でのデモ

「強制的に連行された純潔な朝鮮の娘」という「慰安婦像」を作り出そうとした

 そして尹美香個人の不正疑惑である。尹美香個人の私生活と関係して、支援金と寄付金の私的流用疑惑と、尹美香・金三石(キム・サムソク)夫婦の従北(親北)活動などが疑惑の中心となっている。

 その一方で、30年余りの慰安婦運動を振り返ってみて、韓国社会における慰安婦運動自体に対する批判と自省の声が絶えなかった。具体的には、その過程で誤謬や誤りはなかったのか、少女像に代表される固定化されたイメージ、被害者と運動団体の聖域化、運動の独占などに対する省察の時間を持つべきではないか、そういったものだ。

 筆者は、これまでの韓国社会において、正義連(旧挺対協)を中心とする慰安婦運動に対して、異議や問題を申したてること自体がタブー視されてきたという点で、このような自省の声があがり、また、これに同調する人々の数が少なくないということに、個人的に大きく鼓舞されている。

慰安婦支援をリードしてきたユン・ミヒャン議員

 過去30年間に亘る挺対協から正義連に繋がるこの活動の「功過」に対しては、賛否両論がある。筆者は個人的に挺対協に対してあまり好意的ではないので、「功」を語るのは挺対協に好意的な人に譲って「過」を語ってみよう。

 慰安婦問題が抱えている国家の性暴力の問題、家父長制社会と女性の人権の問題、帝国主義と植民地主義の問題。挺対協は、これら様々な歴史、社会の問題を、意図的に「加害者・日本と被害者・朝鮮民族」という民族主義的な言説をもって善悪の構造として、これを単純化した。

弁護士としても慰安婦に関わった文大統領

 つまり挺対協は、日本帝国主義の「残虐性」「強制性」を強調するために、「強制的に連行された純潔な朝鮮の娘」という「慰安婦像」を作り出そうとした。そのせいで、被害者が経験した複合的で多面的な経験を「簡略化」してしまい、その結果、多くの被害者たちは、自分たちの経験とは無関係に、定型化した「フレーム」の中に自分たちを合わせなければならなかった。挺対協は被害者たちに、このような「犠牲」を強要し、このフレームを自ら拒絶した被害者たちを、運動と支援から排除した。

尹美香の夫とその妹は日本に渡り反国家団体と接触

 民族感情を刺激した挺対協の戦略は大衆の関心を引き、それを支持基盤とすることには成功した。ここには、政界と学界、マスコミと市民社会の、いわゆる「586民主化勢力」と、「わが民族同士」を地上最大の課題とする親北性向の在日韓国人(朝鮮人)の研究者らがイデオローグ(理論的な指導者)として加わっている。過去30年の間、挺対協は、このように聖域化され、権力化されてきた。

 ところが、正義連と尹美香には、従北(親北)疑惑が絶えない。尹美香は、1980年代の解放神学(カトリックの信仰を政治的・庶民的日常生活と関連させることで、貧しい者と抑圧される者を助けようとする神学)の本拠地である韓神大学で神学を専攻した。1980年代、統一運動の大父と呼ばれた文益煥(ムン・イクファン)牧師が韓神大学神学科の教授であった。

 そして夫の金三石は、妹の金銀周(キム・ウンジュ)と、1993年に国家安全企画部が発表した「兄妹スパイ団事件」で有名な人物である。当時、金三石は「反核平和運動連合」の政策委員、金銀周はデパートの店員だった。彼らは1992年に日本に渡り、反国家団体と指定された「在日韓国民主統一連合(韓統連)」の関係者と会って、国内の動向や軍事機密が入った文書などを手渡して金を授受した容疑で起訴された。国家保安法の違反である。そして1994年に最高裁は、金三石には懲役4年、金銀周には懲役2年に執行猶予3年を言い渡した。だから、日本と無縁ではない存在なのだ。

 それ以降、金氏兄妹は2014年に再審を請求し、裁判所は金氏兄妹が韓統連関係者に国内の動向や軍事機密が入った文書などを渡した容疑などについては無罪と判断した。が、二人が当時、利敵団体である「韓統連」の議長などと会って、この団体から金を授受した事実は有罪と認められるとして、金三石には懲役2年に執行猶予3年、金銀周には懲役1年に執行猶予2年を各々言い渡した。そして2017年、最高裁は、国家保安法違反の有罪判決を最終確定した。

挺対協が公開した会計帳簿から北朝鮮との関係が

 今回の正義連事態により、正義連の活動に金三石が深く関与していることが明らかになっている。2016年、中国の寧波(ニンポー)にある柳京(リュギョン)レストランの支配人として、女性従業員12人と一緒に脱北したホガンイル氏。彼は5月21日、尹美香と金三石が安城(アンソン)のシェルターに柳京レストラン脱北従業員を招待し、再越北するように懐柔したと暴露した。彼は当時、「挺対協が民弁所属の張某弁護士を通じて、懐柔対象となる脱北民たちに、毎月30万~50万ウォンずつ送金した」といって、口座の取引履歴を公開している。

 また当時、金三石と民弁の張某弁護士などが交わしたメッセンジャーの内容、シェルターに脱北従業員が訪れた時に撮った写真なども提示した。そもそも、安城シェルターに柳京レストラン脱北従業員はなぜ招待したのだろうか、さっぱり分からない。

 挺対協に関係していた人たちの多くは、軍事独裁政権時代に学園運動と労働運動に積極的に加担していた面々だ。その点からも、挺対協が親北・反日団体の可能性が高いということは察しがつくであろう。挺対協の実行理事の多くはこのような経歴の持ち主であり、これをさらに深化して、積極的な政治・社会運動を並行している。特に挺対協の主な役員の配偶者にスパイ容疑で起訴されたり、国家保安法違反で収監生活を送っていたりしていた親北・左派性向の活動家が多いことは注目に値する。

 夫は親北・朝鮮性向活動家で、妻は女性活動家として文化運動をするという、いわゆる「分業運動」の形を構築した。これらの中には、挺対協の活動を土台に、国会議員になったり、役所の長官になったりして、挺対協の心強い後ろ楯の役割をしていたりする人も多数いる。尹美香が今回、与党の比例代表で国会議員になれたのも、これらの人脈の働きがあって可能となった。

 また、挺対協が公開した会計帳簿を追跡してみると、彼らが支援した団体と団体長の活動が、多かれ少なかれ北朝鮮と関係していることが分かる。なお、挺対協は古くから日本政府の朝鮮学校無償化除外方針や朝鮮学校への差別問題に反対する声を挙げてきたし、財団の金復東(キム・ポットン)奨学金が朝鮮学校を支援するために使われているのは有名な話だ。朝鮮学校は未だに金日成(キム・イルソン)、金正日(キム・ジョンイル)の写真を掲げておいて、彼らの偶像化教育に熱心な朝鮮総連傘下の教育機関である。

政権与党の厚い人脈が尹美香の後ろ楯に、その頂点に大統領が

 学生運動の延長線上で市民運動を主導する「活動家」は、運動の持続性を確保することを何よりも大切にしている。そうしてこそ、自分たちの追求する理念の大衆的な支持基盤を確保することができるからである。

 民主化運動の動力が消えていった1990年代以降、居場所を失いつつあった勢力が市民団体へと移動する過程で、挺対協に加担したNL(民族解放)勢力は、「加害者日本と被害者朝鮮民族」という民族主義的な言説をもって、日本軍慰安婦問題を民族の問題に単純化しつつ、運動の動力を維持していった。慰安婦被害者の福祉と名誉回復という大義は後回しにして、莫大な政府の支援金と一般市民から収めた募金は、主に運動を維持し勢力を拡大していくために使用した。若干の私的流用は別として。これは検察の捜査結果を待つほかない。

 今回の正義連事態は、長年、自分たちだけが正義であるという正義の過剰と、自分たちだけが正しいという道徳的優越に陶酔して、自分たちだけの不可侵の聖域を作っておきながら、民族という実体もない絶対的な権力を利用して、韓国国民に歴史の一面だけを眺めることを強要してきた。

 もし、自分たちの活動に異議を提起したり、批判をすることがあれば、親日派、反民族主義者というレッテルを貼って、愚昧な民衆に獲物として投げ与え、噛みつくように教唆、扇動したりもした。日韓両国の市民を過去の人質にして、和解よりは不和を平和よりは葛藤と反目を助長し、憎しみと不信だけを募らせてきた。

 いよいよ8月13日、告訴、告発されてから3ヶ月ぶりに、尹美香に対する検察の調査が行われた。そして、37億ウォンに達する補助金、寄付金の会計不正、安城シェルターの高価買取などに対する疑惑が相当部分、事実と確認されたという。

 しかし、残念ながら尹美香が拘束されることはないだろう。政権与党の厚い人脈が尹美香の後ろ楯になっており、その頂点には文在寅(ムン・ジェイン)大統領がいるからである。そして、これからも今のように、自己矛盾を抱いたまま、世の中の人を惑わせながら私腹を肥やしていくであろう。日韓の真の和解のためには、何よりも真っ先に、正義連は解体されるべきである。

李東原(イ・ドンウォン)
日韓関係史が専門の評論家

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月17日 掲載