お祭り、花火大会の中止で路頭に迷う露天商。無店舗業者には補助金も出ず…
「来年は店も出せません。おそらくこのままでは倒産、仲間もおんなじですよ。皆さんにとっては、お祭りや花火大会が無くなって残念……で済むんでしょうが。来年のイベントから露店が消えるんです。国や自治体は、それでもいいとおっしゃいますか?」
◆お祭りや花火大会の中止で苦境に立つ露天商
玉井さんは、お祭りなどのイベントに出ている、たこ焼きやわたあめ、お面やおもちゃなどの露店出店を生業とし、その道40年のベテランである。
しかしコロナ禍の今夏、玉井さんはただの一回も露店に立つことはなかった。
「花見のシーズンには、都外にも出張っていたけど、まずそれが中止になった。梅雨の時期にも、紫陽花がきれない名所に出向いて店を出したが、それもなし。夏祭りも花火大会も盆踊りも全てない。収入の全てを奪われたような格好ですよ」(玉井さん)
全国の花火師たちが、花火大会の中止が相次ぎ困っている、というようなニュースも見たが、露店業者も同様で食い扶持を一気に奪われたのだという。
持続化給付金や休業補償金の手続きも行なったが、役所からは「店舗を持たない露店業者への支払いは難しい」などと言われスムーズに事が動かず、今なお手元に現金は届いていない。
知り合いのツテを辿り、警備員のアルバイトなどをしてなんとか食いつなぐが、露店を再開できる見込みが日に日に薄れ、生きる自信すら削りとられる日々を過ごしているという。
◆「支払い」が重くのしかかる
同じく関東某県在住の露天商・村上慎太郎さん(仮名・50代)の訴えも悲痛だ。
「春から夏にかけての収入が、年収の大半ですよ。それが全部無くなった。食材や玩具などは、だいたい昨年末から今年の頭にかけて注文するので、使い所がない材料が今も手元に送られてくるし、キャンセルはできないから現金だけがどんどん出ていく」(村上さん、以下同)
花火大会をはじめ、村上さんが毎夏出店していた祭りやイベントはほぼ中止になった。唯一開催されたお祭りは、規模縮小での開催だったため、露店の出店が認められなかった。仕事がなくなるだけではなく、村上さんをさらに追い詰めているのが「支払い」だ。
シーズンの半年以上前から、食材や玩具などの仕入れを始めるため、注文しておいた物が今更になって届き始めている。受け取りを拒否するわけにもいかず、涙を呑んで買い取っているが、店を出せない以上、仕入れ品は破棄するか、飲食店の知人などに格安で譲っているという。こうした仕入れのお金は、すでに借金で用意しているという。
「必要のないものを借金して買い、損しながら売る。いや、売れるならまだマシで、転売も厳しいものは捨てるしかないんですよ。組合などの互助組織に掛け合っても、みんながおんなじ状態だからどうにもならない。瀕死とかじゃなくてね、もう死にましたよ、我々は……」
お祭りやイベント、日本の賑わいごとには欠かせない存在である「露店」の文化。声をもあげずひっそりと、すでに消えてしまったというのなら、取り返しのつかない事態である。<取材・文/森原ドンタコス>