量子力学は、このボーアの「相補性」と、波動関数の振幅の二乗が粒子の存在確率になるという「ボルンの確率解釈」、測定そのものが対象の物理状態を乱してしまうことを示した「ハイゼンベルクの不確定性原理」という主に3つの概念に基礎づけられた「コペンハーゲン解釈」によって、前世紀を通じて大きく発展してきました。
ところでアインシュタイン(Albert Einstein、1879-1955)は、コペンハーゲン解釈を受け入れませんでした。
因果律を重視するアインシュタインは、根っこに、理論はすべて簡潔で美しくなければならないし、常識と合っていなければならないという考えを持っていました。
1920〜30年代にかけて、アインシュタインとボーアは、量子力学の世界観について有名な議論を交わします。その中でアインシュタインは、量子力学はたいした理論だと認めた上で、古い理論で解けなかった秘密に近づいているとは言えない、役に立つけれども自然をよりよく理解したとは言えないんだと反論しています。そして物質の状態が確率論的に決まることはないし、初期状態を与えれば結果は一意に決まるはずである、と信じているわけですね。
この議論は戦争によって断ち切られてしまいましたが、もし続いていたらどう決着したでしょう? 当時は実験技術が発展していないため、ある程度しか議論を進められないのは確かですが、ひょっとしたら? ……と思うと残念ではあります。