中東で新和平 手放しで歓迎できない
2020年8月18日 07時31分
米トランプ政権の仲介で、中東のイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化で合意した。和平をうたうが、内実は「同盟」の公然化に等しい。地域内の緊張に拍車をかけてはならない。
米国を含む三カ国の共同声明によると、国交樹立とともに、イスラエルによるヨルダン川西岸の一部併合計画を凍結する。アラブ諸国で対立してきたイスラエルと国交を結ぶのはエジプト、ヨルダンに続き、UAEが三カ国目だ。
和平はおよそ歓迎される。今回の合意でもグテレス国連事務総長は歓迎したが「イスラエルとパレスチナの指導者が有意義な交渉を再開する機会になることを願う」と、その談話にはどこか奥歯に物が挟まったような語感があった。
それには理由がある。合意には緊張を緩和するどころか、増幅させかねない恐れがあるからだ。
その第一がイラン問題だ。両国はトランプ政権発足後、軍事や諜報(ちょうほう)などで協力を重ねてきた。支えてきたのは反イランで一致するイスラエルのネタニヤフ首相、同首相と懇意でトランプ氏の娘婿のクシュナー米大統領上級顧問、それにUAEアブダビ首長国のムハンマド皇太子らの親密な関係だ。
いずれも米国のオバマ前政権が主導した「イランの核開発活動の制限と引き換えに同国への制裁を緩和する」という核をめぐる国際合意に強い不満を抱いてきた。
緊張緩和の流れはトランプ政権が一昨年五月、核合意から離脱したことで反転する。その後、イスラエルはもとより、イエメンでイランと代理戦争を展開するサウジアラビアやUAEを加え、イランとの緊張は高まるばかりだ。
今回の国交樹立も対イランでの同盟関係を誇示する狙いが透けており、緊張を押し上げかねない。
パレスチナ和平を一段と遠ざける懸念もある。西岸一部併合計画の凍結は一見、和平に資するように映るが、対象の一部となるユダヤ人入植地自体が国連の決議やジュネーブ条約に反する産物だ。
併合計画には欧州や国連も反対してきた。しかも合意は計画の断念ではなく、凍結にすぎない。今回の合意について打診すらなかった当事者のパレスチナ自治政府が怒るのも当然だ。このままではイスラエル側の「和平」が一方的に押しつけられかねない。
日本はイランやパレスチナとも信頼関係がある。政府には緊張緩和とパレスチナを孤立化させないための一層の支援を求めたい。
関連キーワード
PR情報