長年対立を続けた国々が和解に動くことは好ましい。だが、解決すべき主要な問題を置き去りにしたり、新たな情勢が逆に緊張を高めたりするような事態は避けなければならない。
イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が、国交を正常化することで合意した。
1948年の建国以来、イスラエルはアラブ諸国と4度戦火を交えた。アラブ側には、土地を追われたパレスチナ人を同胞として支える大義があった。
ところが今回の合意は、パレスチナには寝耳に水だった。パレスチナ自治政府は「裏切りだ」と反発している。
アラブ諸国はこれまで、自らの和平構想を掲げてきた。イスラエルが違法な占領地から撤退し、パレスチナ国家の建設を認める「二国家解決」を受け入れるなら、ひきかえに国交を正常化するとの内容だった。
合意はこれと矛盾する。
UAEは、イスラエルのネタニヤフ首相が公言してきた占領地の一部併合の計画をやめさせたとし、今回の成果だという。
だが、そもそも武力で得た領土を自国に組み入れるのは国際法違反だ。その断念を「譲歩」というのは筋が違う。しかもネタニヤフ氏は、併合停止は単なる先送りだとしている。
いまも計約500万人に及ぶパレスチナ難民らの環境は劣悪で、深刻な人道問題ながら解決をみていない。自分たちの国を持つ夢が遠のき、孤立と絶望を深めれば、ふたたび暴力やテロがひろがり、地域が不安定化しかねない。
今回の背景にあるのは、地域大国イランへの敵対心である。UAEを含む多くの湾岸諸国とイスラエルは、中東でのイランの影響力拡大を脅威とみて、互いに接近してきた。イラン包囲網をめざす米トランプ政権が、その仲介に動いている。
トランプ大統領は「歴史的な合意」というが、大統領選を前にした宣伝の印象が拭えない。中東の真の和平をめざすなら、自ら離脱したイラン核合意を立て直すとともに、6年前に止まったままのイスラエルとパレスチナの交渉再開に動くべきだ。
イランは「この合意を支持する国は結果責任を負う」と警告した。今年初め、米軍がイラン革命防衛隊の司令官を暗殺し、イランが武力報復したことは記憶に新しい。ただでさえ緊張の続くペルシャ湾情勢がさらに緊迫することを憂慮する。
日本政府は、地域の安定化に向けた第一歩として歓迎し、米国の仲介を評価する談話を出したが、楽観的すぎる。「二国家解決」を支持する立場を堅持する以上、いまの米外交からは冷静に距離をとる必要がある。
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