夜もすがら願う朝【後編】
夜、寮を抜け出して知らない人と会う咲也くんの話の続き。
★捏造だらけです。モブもいっぱい出てきたりします。出オチかもしれないですが、あのおじさん特に意味はないです。←
★自己満足過ぎる話なので意味は追求しないでください。雰囲気だけを追い求めた妄想です、、
★矛盾とか誤字脱字見つけたら直します。ずぼらですみません……
★何きても許せる方がいらっしゃいましたら是非^^すごく長くて読みづらくてすみません;;
シチュエーションが夜中なので夜中に投下したかっただけの人間です。前編では盲点でした、、、んぐ。
前編でたくさんのコメントいただきましてありがとうございました!ヘタレ引きこもり不審者オタクなので、ついったでもお声かけていただいて本当にうれしかったです……!
公式さんはこれからもどんどん展開があるみたいなので、わたしも関係各所営業マンばりに徘徊したいな!楽しみです^^
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★キャプション必読です
中学の時に定期的に会っていた男の人は、オレの私物をすごく欲しがった。
靴下片方だけでいいから、と言っていたけれど、片方無くすとオレの世話をしている親戚に迷惑をかけてしまうので断った。
それじゃあ髪の毛三本。もしくは切った足の爪。
とりあえず一万あげるから、足りなかったらもっと出すから。
黒目の全く動かない目でオレを見ながら、財布から出した一万円札を惜しげもなく机に並べたあの人が、最愛の家族と幸せに暮らしていることを心から願う。
****
夢の中でスーッと息を吸い込むと、眠りの底から自分の意識が浮上していくのを感じる。
重く閉ざされていた瞼を開けて、目だけで陽の差し込む部屋を見渡す。そこには誰もいなかった。
床で眠っていたせいで体中が痛い。ゆっくりと上体を起こし、背中に何かが張り付いている感覚がして、手を伸ばす。
背後から目の前に回した手が、持っていたのは一万円札。
途端、みるみる夜のことを思い出して慌てて立ち上がった。
床に散らばったお札たち。
驚き「うわ」と声が出る。足踏みをすれば足の裏に何枚もお札が引っ付いた。
ハッと息を呑み自分の体を触る。また服を一枚も着ていなくて、目に入った自分の両手首にゾッとする。
何かを巻き付けていたような、赤黒い痣。
ああ、そうか。
オレは本当に買われたんだと、飲み込めた。
****
着替えて顔を洗って、談話室に向かっていると、丁度真澄くんが監督に背を押され、玄関に向かっているのが見えた。
「おはようございます」
「あ、咲也くんおはよう。ほら真澄くん、早く学校行かなきゃ」
咲也くんがいないとこれだもんなぁ、と悩まし気にため息をつく監督。そんな監督を苦笑い浮かべてみていれば、視線を感じてそちらを見た。
「……? 真澄くん?」
ジッとオレを見る真澄くんに「どうしたの?」と訊ねる。真澄くんは少し視線を下に向けてから、またジッと何かを見つめた。
その視線を追って、慌てて自分の手首を服の袖で隠す。つい癖で捲し上げていたが、今日一日は袖を下ろして生活しなければと気を引き締める。
「最近お前、起こしに来ない」
「え?」
「こら真澄くん! いつまでも咲也くんに甘えちゃダメでしょ」
ほらほら行ってらっしゃい、と監督に扉を開けてもらい、外へと出て行く真澄くん。
彼が残していった言葉を反芻し、ヒッと喉が鳴った。
よく朝寝坊をする真澄くんを、最近起こしに行けていない。遅刻ギリギリまで寝ている彼を起こすのは日課だったはずなのに、それができなくなっている。
何故かって……。
睡眠が不規則になっているから。
朝、真澄くんよりも起きる時間が遅くなってしまっているのだ。
「す、すみません、オレ。真澄くん起こしてあげなきゃいけないのに……」
これは甘えだ。
学生じゃなくなった自分は、多少寝坊しても許されるだろうという甘え。今まで徹底して自分に厳しくしていたはずなのに、こんなところでボロが出てしまっていた。
「明日からはまた、真澄くんちゃんと起こしに行くんで、」
「気にしちゃダメだよ咲也くん。なんだかんだ言って真澄くんも起きるし」
大丈夫だよ、と言いながら談話室に戻っていく監督。その言い草が「君の力は必要としてないよ」と言われている気がして、息が止まりそうになった。
夜な夜な一人出歩くオレのことなんて、誰も必要としていないんだろうな、と。ズキズキと痛む頭の中で考える。
学校生活で忙しい万里くんや十座くんでさえ、夜には寮にいるのに。オレは夜中に外に出て、一体何をしているのだろう。
がつん、と頭を鈍器で殴られたような感覚。足元が歪んで見え、均衡がとれなくなる。
ふらふらと回る視界になすすべもなく倒れそうになった。
でもそれを背後から誰かに掬われる。
「おはよ」
振り返ると、至さんだった。きっちりとスーツを着こなし、支えたオレの体をまっすぐに立たせると、すぐに下駄箱から自分の靴を探し出す。
「おはよう、ございます……」
消え入りそうな小さな声で答えた。昨日の今日で、彼とどう接すればいいのかわからなくなっている。
至さんが夜、投げるように渡したお金は全部で四十万ほどあった。
そんな大金を、まるでゴミを捨てるみたいにオレに渡す彼の心理が、全くわからない。あのお金を受け取るべきなのか返すべきなのか。そんな常識的に考えてすぐわかる答えでさえ、見つけ出せなくなっている。
「今夜、寮にいてね」
靴を履きながら至さんが言った。え、と思わず聞き返すと、素の表情でオレを振り返る。
「早く帰るようにするから」
「あの、その、」
「当分買うって言ったじゃん」
普通の声量でそんなことを言うものだから、慌てて至さんの口を塞ぎに行く。
「あの至さん! そういう話は、」
至さんはオレの焦った声色も気にすることなく、口を塞ぎに来るオレの手を取ると、長袖を捲って手首の痣を見る。
さっきオレが見た時と変わらない鬱血を確認し、少しだけ眉間に皺を寄せた気がした。
「い、いた、」
「じゃ、いってくるから」
パッと手を放し、扉を開けて出て行く至さん。
解放された手首をさすりながら、扉が無人でゆっくりと閉まるのを見届けた。