夜もすがら願う朝【前編】
夜、寮を抜け出して知らない人と会う咲也くんの話。
★捏造だらけです。直接的な描写はないですが、いたしておる、と思わざるを得ない描写があります。モブもいっぱい出てきたりします。
★自己満足過ぎる話なので意味は追求しないでください、、ただの雰囲気小説です、、さっくんが可愛かっただけの、、話です。
★矛盾とか誤字脱字見つけたら潰します。つめがあまくてすみません……
★何きても許せる方がいらっしゃいましたら是非~!
……どうでもいいんですけどさっくんの「わりと普通に男子高校生感」漂う服の着方とか座り方とか仕草とか。そういうのひっくるめて好きだったんですけど男子高校生というジョブを脱いだ彼がこれからどんな姿になっていくのかお酒飲みながら見届けたい(白目)あといい子キャラなのに親戚の家に寄り付かない(妄想)っていう不良少年みたないとこも好きです。
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★キャプション必読です
赤とか、青とか。ピンクとか紫とか緑とかオレンジとか……。
夜の景色に馴染まないライトが点々とともされている繁華街通りの真ん中。
行き交うのはお酒を飲んで、千鳥足になっている男の人や、きつい香水を頭から浴びたんじゃないかと疑いたくなる女の人。
オレはスマホの画面を見ながら、そんな人たちの間をうまくすり抜け、歩く。
肩を少しもぶつけることなく歩いて、自分を見つけてくれる人を待つようにずっと歩く。
スマホの画面がメッセージの受信を知らせた時、心の中がポッと灯ったように温かくなった。
すぐ近くにいるよ、といわれ辺りを見回すと、一つの飲み屋の前で手を振る男の人がいた。
たった二回くらいしかあったことない人。なのにその人はオレのことを覚えてくれていた。うれしくて駆け足で向かって、こんばんはと軽く挨拶する。
こんばんは、と返してくれた彼は、オレの肩にそっと手を乗せると、耳元で小さく囁いた。
「ね、今日は違うとこで話したいな」
「ここじゃなくて?」
「そ、……。ほら、これだけあげるから」
言って男の人は、背広の上着ポケットから直に入れられたお金をオレだけに見えるように出す。
枚数はぱっと見で五枚。
一番高い値段のお札だ。
うわぁ、と内心で声が漏れる。
歓喜のものではない。かといって軽蔑とか、そんな感情一切孕んでいない。
ただ単に、目に入った情報を理解して漏れた声。
その単位のお金が、自分の手元にやってくる未来なんて想像していない。
どこに行くかも確認しないまま、別にどこだってよかったので、男の人の後ろを黙ってついていった。
飲み屋がひしめくこの通りに、オレのような未成年が歩いているのは不自然かもと思うのだが、私服だと案外誰も気にしないのかもしれない。
通りをしばらく歩き、そこから逸れて細い道に入る。
賑やかな音が遠くになったと同時、湿った匂いが辺りに充満していった。
男の人は一つの店の前に来ると、ここだよ、とオレに教える。
ガラスの扉の向こう側は、まるでマンションのエントランスのようになっていて、無人の受付台の上には電子機器があるのが外側からでもわかった。
彼は何もオレに教えないまま、腕を力強くつかむ。いたい、と小さく言っても、そんな声聞こえていないと言わんばかりにオレを引っ張って中へ入れようとした。
そこでようやく、恐怖心が湧いた。
自分は一体、どこに連れていかれるのか。
……――どこだっていい。
どこでもいいから一人じゃないところへ行きたい。
一瞬湧いた恐怖心は、かつて味わった孤独が黒煙のように飲み込んでいく。
みんなが起きるまでは、誰でもいいから相手になってくれればと。
動きたくなさそうにしていた足を無理やり動かしてエントランスへ向かおうとした。
でも。
男の人に掴まれていた腕と反対側の腕を、力任せに引かれる。
うわ、と声をもらし、傾いだ体勢を整え振り返れば、心臓が止まった。
「い、いたるさん……?」
自分でも驚くくらい、声が出なかった。
オレの腕を持ち、ジッと無表情でこちらを見てくるのは、劇団員仲間の至さんだった。
至さんはしばらくオレのことを見ていた。その真っ直ぐな冷たい視線に耐え切れず、思わず視線を落とす。
なかなか動かないオレに痺れをきらした男の人は、至さんの存在に気づくと、すこしバツが悪そうに口ごもった。
至さんの冷たい無表情に見られれば、オレの腕からすんなりと手をどける。距離をとるように少し後ずさると、その人は自分の方を見向きもしないオレに聞こえるようにため息をつき、黙って立ち去った。
「あ、」
その背中を見送り、咄嗟に手を伸ばしてしまう。
「咲也」
よばれ、びくと肩が震える。背後に立っている至さんの視線が背中に突き刺さっている気がして、振り返ることができない。
ちくちくと、背中が刺激される感覚。冷や汗が止めどなく溢れてきて、手で拭うこともできないくらい硬直した。
ああ、幻滅しているだろうか。
こんな夜中に見ず知らずの男の人と歩いているなんて、って。
生唾を飲み込んで、ようやく一つ息をつける。気づかれないように口角を上げる動作を数回繰り返して、ゆっくりと後ろを振り返った。
「お疲れ様です至さん。今お仕事終わりですか?」
時刻は二時を回っている。言葉の選択を間違えたことに気づき、思わず喉が鳴った。
至さんはそれでも、何も言わない。この時間にこの辺りにいるのだから、おそらく会社の飲み会帰りなのかと思うが、何故今日に限って見つかってしまったのかと間の悪さを呪う。
「……ここ、何するとこか、知ってるよね?」
やっと口を開いた至さんは、相変わらずの無表情でさっき入ろうとしていた建物を指さした。
何するとこ、と反芻し、首を横に振る。自分は何も知らず、今日は違う場所で話そう、と言われるままについてきただけだ。
話をする場所以外、何かするところだなんて、思いもしない。
オレのその反応を見て、至さんの表情に少しだけ翳がかかる。
腕を掴んでいる至さんの手に力がこもった気がして、視線を地面の上に彷徨わせながら適切な言葉を探した。
「あの、実は、バイトをしてて、軽い作業の……」
「この時間に?」
絞り出した嘘だった。
至さんは疑いの目を向けてくる。めげずに続けた。
「この時間しか、できないんで、その……」
「……」
「どうしてもお金が欲しかったんです」
全部嘘。なんでもいいから、どうにかしてこの場を切り抜けられればと。
願いながら強く目を閉じ、次の瞬間目を開ければ朝になっていてくれと祈った。
でもそんな祈りもむなしく、瞼は強引に開けさせられる。
「……いくらもらうんだったの」
足元に向けていた顔を、勢いよく至さんに向ける。
思わず目を瞬けば、彼は綺麗な顔をピクリとも動かさずオレを見ていた。
怖い。
そう直感し、一歩後ずさる。
辺りの空気が一気に冷えあがった気がして、無意識に自身の肩を手でさする。
「いくらもらう気で、ここにいたの」
がたがた、と体が震え出す。寒気だけではない。怯えざるを得ない圧力が、オレの体にのしかかってくる。
全部嘘だったんです、ごめんなさい。って。言って本当のことを打ち明けてしまおうか。
……でも自分の本心を知ってもらうのは、抵抗がある。
むかしから、自分の気持ちを外に出すのは苦手だった。
だからまた一つ、自分の心を守るための言葉を吐く。
「ごまん、えん……」
消え入りそうな、虫の羽音くらいの声で言った。それでも至さんは拾ったようで、整った眉がかすかに動いた。
別にお金なんていらない。
いらないんだけど、今はそういうことにしときたい。
だって本音を隠しておけば、大人はみんな褒めてくれるのだ。
偉いね。お利巧さんだね、お兄ちゃんだね、って。
我慢して心を殺せば、みんな笑顔になる。
いたるさんだって、
そう思っていた。
でも至さんの表情は変わることなく、オレを眉を顰めて一瞥してから腕時計を確認する。
上目遣いでその様子を伺っていれば、彼はガラスの扉の建物を見て、オレの手を掴んだ。
「おいで」
「え、」
抵抗する暇もなく、至さんはオレの手を引いて建物の中に入った。
無人の受付台で電子機器を操作し、すぐ横の受け口に物が落ちた音がすると、そこから鍵を取って建物奥へと歩き出した。
急いでついていき、慣れた手つきで一室の部屋の鍵を開けるとオレを先に中へと入れる。
部屋の中には普通のベッドとソファーが並べられて、ごく一般的なホテルのようだった。
テレビが並び、飴色のランプが枕元に灯っている。
バスルームも完備されていて、ビジネスホテルと大差ない造りの部屋に、媚びた雰囲気は感じなかった。
……カマトトぶるのもここまでだ。
一式のベッドを前に立ち尽くし、息をつく。
全部知っていた。
こういったやり取りを続けていれば、いつか絶対にそう言った場面に直面するからと。
ネットの情報で知り得ていながら、辞めることができなかった。
そういった場面に遭遇したかったから?
違う。
他人との関係が切れるのが怖かったから。
両手で顔を覆い、冷や汗が背中を流れるのを感じて喉を震わす。
「ごめんなさい、至さん」
怒らないで。
怒られないために、こうやって生き永らえてきたのに。
なんでこんなことになってしまったのかと、涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた。
と。
突然、背後から衝撃が加えられ、耐え切れずにベッドに体が沈む。
仰向けに態勢を変え、目に入ったのは背広を脱いでネクタイを外す至さんの姿だ。
「至さん」
「五万貰うんだったんでしょ」
「いた、」
「六万あげるから」
言いながら両手で俺の手を拘束する至さん。
握られた右手の間に紙の感触があって、目だけでそこを見た。
一万円札が、六枚。
ひ、と驚きのあまり声が出た。
身動ぎし、それを突き返そうとするも体重が乗っていて上手く抵抗できない。
「いたるさ、」
顔全体が熱くなる。震える喉で抗議しようと、口を開けば、その中に至さんの親指が入ってくる。
その間、ほんの一瞬。
頬を撫でられながら下唇をついばまれ、慣れたように舌先がオレの口の中へと入ってくる。
口内をあちこち舐め上げられ、そのくすぐったさに体をよじれば、唇を下へと這わせた至さんは、オレの首筋を舐め上げ、鎖骨に軽く吸い付いた。
腹の底から水が湧き上がってくる感覚。
その水に溺れそうになりながら、空気を肺いっぱいに吸い込む。
大人がまとう香水の匂いが、体中に満たされる。
自分が発することのない匂いが近くにあることが何よりも心地よくて、何度も何度もその匂いをもとめて息をする。
これで心置きなく眠れると思い、至さんの体温を感じながらゆっくりと瞼を落とした。